15年前、オジサンは定価1,700円で「『非国民』のすすめ」という斉藤貴男の初版本を買った.
今では文庫本もあるがネット通販では中古本が「¥1」となっていた。
内容は、アメリカの戦争に追従し、国民を徹底監視するこの国を支えるのは誰か?と問い、「生活保守主義者」という「支配されたがる人々」について明解に分析し、また、格差を広げ、統制を強めるこの国の政治、プロパガンダ化するマスメディアを鋭く批判する筆者が雑誌や様々なメディア等で書いた記事のアンソロジーなのだが、時期的には第2次小泉内閣の頃であり、その内閣には多くの故人となった閣僚もいるが、今でも健在なのが、麻生太郎(総務相)、小池百合子(環境相)、竹中平蔵(内閣府特命担当大臣)といった、「悪い奴ほどよく眠る」ではないが、まさに「憎まれっ子世に憚る」連中がいた。
この本の目次と、当時の代表的(?)な書評を挙げておく。
第1章 なぜこんな国になってしまったのか―好んで国家側に立つ人々
第2章 あなたは国家に監視されている
第3章 あなたも参加している戦時国家ニッポン
第4章 あなたも差別されている―北朝鮮拉致事件、司法改革、教育改革、石原慎太郎、公共の私物化
第5章 権力のプロパガンダに堕したマスメディア
第6章 ジャーナリストとして譲れぬこと
【書評】
日本社会を覆う差別と排除の論理
いま日本社会では差別と排除の論理が深く、広く浸透している。
それは具体的には「あちら」と「こちら」の区分という人々の意識として現れる。
「あちら」とは
・イラク戦争の正当性に疑問を投げかけ銀座反戦パレードに参加する人々
・メディアや政府が積極的に推進する憲法「改正」が持つ危うさに疑問を持ち、護憲や憲法「改正」反対の声を上げる人々
・日本人でないことを理由に民族学校を卒業しても大学受験の資格が得られないため、受験資格取得の請願書を提出する在日朝鮮人の人々
・イラク戦争により家庭を無くしたストリートチルドレンを救うため、イラクに出かけたが武装勢力により拉致された人々と、救助を求める彼らの家族。
などなど、いわば日本政府=「お上」が決めたことに対して、自らの信条と正義の下に何らかの声を上げる人々のことである。
対して、「こちら」とは、
・自らの家族や身内のために必死に働き、
・みじかな人以外にまったくの関心をしめさず、
・「戦争か大変だなー」などと家でポテトチップスをほおばる「ふつう」の人々。
この「あちら」と「こちら」の論理を無自覚に採用する人々が
・声高に北朝鮮や中国の脅威を叫び、武力装備の必要性を強調するどこかの都知事や
・イラク特措法が想定する「非戦闘地域」などもはやイラクには存在しないのではないかという野党の質問に対し、「自衛隊が派兵されるところが非戦闘地域」だと詭弁をふるうどこかの総理大臣、
を自覚的であろうと無自覚であろうと、日本の権力者の傍若無人ぶりを助長する。差別と排除、そして無関心と無視は、権力者にとってもっとも都合のよいことであり、それを実行する人間は、もっとも優秀な「国民」である。
仮に「あちら」の人々が行うことが「非国民」であると呼ばれるのであれば、もっと「非国民」になろう、これが著者の全編に貫かれるメッセージである。
この本が多くの国民に読まれると同時に、様々な問題にしてより多くの議論(それは権力が用意する議論ではなく、もっと自由な)が生まれることを期待したい。
15年前と現在があまり大きな変化がないようにも思われてしまう。
話が大分それてしまったが、この本の著者の斉藤貴男が月2回ほど「二極化・格差社会の真相」というタイトルのコラムを書いているが、今回は安倍晋三への痛烈なお手紙であった。
◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇
<「私が国家です」の安倍首相、あなたに命と尊厳がわかるか>
2019/03/06 06:00 日刊ゲンダイ
拝啓 アベシンゾー殿
あなたは一体、どれだけの人を傷つけ、不幸に陥れれば気が済むのか。私たちの国を、社会を、どうするつもりなのか。
私が代弁してあげよう。あなたは自分以外の人間に命や尊厳があるなどとは思ったこともないのではないか。犠牲に何の痛痒も感じないし、ひょっとしたら、残忍さと指導力を混同して、他人の断末魔を見ると興奮するタチの方なのではないか。米国の戦争に自国民を差し出しては、虎の威を借りるキツネのごとく大国然と振る舞う“新・大日本帝国”を理想とし、属州の酋長として君臨する己にエクスタシーを感じちゃいたいのではないか。図星でしょ?
すでにあなたの政権は、私たちの食と水を外国資本に売り飛ばし、労働者の人権や賃金の水準を引き下げる法律をことごとく強行採決した(種子法の廃止、改正水道法、改正入国管理法)。自画自賛を重ねた“アベノミクス”とやらの正体は、統計データのでっち上げでしかなかった。国民生活を左右する消費税を弄んでは、選挙に利用し、議員たちは薄汚い利権を貪ってきた。
そして、沖縄だ。県民投票で「反対」が72%以上を占めた辺野古の米軍新基地建設に対する民意を、あなたはまたしても踏みにじろうとしている。埋め立て予定海域の軟弱な地盤改良だけでも途方もない歳月と予算が必要で、しかも建設の口実にしている普天間基地返還の可能性など、ゼロに等しいにもかかわらず、そうまでして米国のご主人様にへつらいたいか。
「沖縄には沖縄の、国には国の民主主義がある」と差別むき出しなのは茶坊主のボーエイダイジン。あなた自身はといえば、「私が国家です」だと。これは統計データ偽造を巡る衆院予算委員会での発言だったが、あなたはいつもこうだ。ルイ14世の「朕は国家なり」ばりの絶対主義王政宣言とは、異常にも程がある。
ちなみに、このウルトラ妄言にも大手マスコミは沈黙を決め込んだ。県民投票の結果を徹底的に矮小化したNHKや読売新聞といい、もはやこの国のジャーナリズムは完全に死に絶えたらしい。
アベさん、あなたは日本を、最低の列島にしてくれた。まっとうな社会に回復させるには、現時点からでも数十年は要しよう。このまま東京五輪だの憲法改正だのに持ち込まれれば、永久に立ち直れなくなる。
保守や右翼を気取りたがる人々にも言っておく。アベさんのやっていることは、正真正銘の売国だ。放置しておけば、私たちは米国の傭兵か奴隷にされる。
アベさんよ、国を滅ぼし、世界中の憎悪と軽蔑を一身に浴びて死ぬのが本意でもなかろうに。
◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇=◇
残念ながら諸般の事情により「子育て」経験がなく「ボンボンのまま大人になった」安倍晋三なので、「自分以外の人間に命や尊厳があるなどとは思ったこともない」との指摘は図星であろう。
「他人の断末魔を見ると興奮するタチ」ならば、ほとんど不治の病に罹っている重病人でもある。
「森羅万象」ならぬ「晋裸蛮相」と自他ともに認めている安倍晋三が、多くの国民の声を代表して送ったこの斉藤貴男のメッセージに対してなんと返答してくることだろうか。
側近に頼んで「お返事」を書かせるのか、それとも「このような失礼な御手紙には返事は出せません」と、閣議決定してしまうか、そんな妄想がオジサンの頭の中で浮かんでくる。
日本を全うな国に一刻も早く再創生するには、やはり安倍晋三の早期の退陣しかないのだろう、とオジサンは思う。