デタラメ三昧の自民党が追加公認も含めて絶対安定多数(261議席)を確保するア然の結果の総選挙後、11月2日、岸田文雄は英国グラスゴーにおいてCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)の首脳級会合である世界リーダーズ・サミット等に出席した。
本格的な“外交デビュー”となり、開催された首脳級会合で演説した岸田文雄は満足げだったが、実際は札束に物を言わせたバラマキ外交だった。
演説内容は以下の4点であった。
(1)アジアを中心に、再エネを最大限導入しながら、「アジア・エネルギー・トランジション・イニシアティブ」を通じ、化石火力をゼロエミッション火力に転換するため、1億ドル規模の先導的な事業を展開する。
(2)先進国全体で年間1000億ドルの資金目標の不足分を率先して補うべく、6月に表明した5年間で官民合わせて600億ドルの支援に加え、アジア開発銀行などと協力し、アジアなどの脱炭素化支援のための革新的な資金協力の枠組みの立ち上げなどに貢献し、新たに今後5年間で最大100億ドルの追加支援を行う用意があること。
(3)2025年までの5年間で適応分野(注)での支援を倍増し、官民合わせて約148億ドルの適応支援を含めた支援を行うこと。
(4)森林分野への約2.4億ドルの支援。
岸田文雄が表明した今後5年間での100億ドル拠出は、欧米中心の先進38カ国が気候変動対策費として途上国に年間1000億ドルを目標に支援する合意に基づいている。
5年間で1カ国当たり平均131.5億ドルを出せば目標を達成できるが、日本は今年6月のG7サミットで600億ドルの支援をすでに発表しており、さらに今回の「岸田演説」と合わせ計700億ドル(約7兆7000億円)も拠出することになる。他国に比べて大きなウエートを占めるのは間違いない。
途上国への支援自体は問題ないのだが、米国など20カ国が国外での火力発電などの化石燃料事業への公的融資を来年末までに停止するとの合意には日本は不参加であり、海外メディアに「化石燃料事業の2大国である中国と日本は無視」と名指しされ、カネは出すがコミットしない姿勢が見透かされ、国際NGOから温暖化対策に後ろ向きな国として日本は「化石賞」を贈られてしまった。
「カネを積んで化石燃料を使い続けたいという下心すら透けます。日本政府には、湾岸戦争で味わった『カネだけ出しやがって』というトラウマがある。同じ轍を踏みたくないなら一層、温暖化という待ったなしの課題に率先して汗をかくべきです。国内の財界や産業界に配慮して気候変動対策に踏み込めないのに、国際貢献を声高に叫んでも、先進国とは言えません」と高千穂大の五野井郁教授は批判していた。
現地でも日本でも将来の自分たちの生活に大きく影響するという危惧から若者たちのデモが起きていた。
COP26 グレタさんら世界の若者がデモ行進(2021年11月6日)
日本の若者ら「石炭火力早期廃止」訴え COP26合わせ(2021年11月7日)
海外ではバラマキにより本人はいい気分であったのだろうが、総選挙でもこんな国民の錯覚が大きく自民党に味方したのかもしれない。
「立憲主義を蹂躙し、民主主義を破壊し、国家を私物化した安倍晋三ほど、あほう面じゃない。官僚が用意した原稿すらまともに読めず、たどたどしい日本語でゲンナリさせた菅義偉と比べれば聞けるしゃべりだ。9年ぶりに一見マトモな宰相が生まれ、あらゆる面でおかしくなったこの国を修正してくれるんじゃないか」
しかし岸田文雄の実像は大きく異なる。
「『岸田首相は安倍菅と同種』歴史家が指摘したハト派の虚像」という記事では、ノンフィクション作家の保阪正康が岸田文雄をこう評していた。
<岸田文雄首相は憲法に反する「敵基地攻撃能力」の保有について「あらゆる選択肢を検討する」と否定せず、自民党の公約で軍事費の大幅増を掲げました。とんでもないことだと思います。専守防衛から敵地侵攻へ転じることは、まさに地続きの戦前への逆戻りです>
<敵を想定しその敵地を侵攻するという狂気は、一度始めると際限がなくなるのです。そうした魔性を分析しぬいていれば敵基地攻撃論などという考えが出てくるはずがありません>
<憲法が国政の大前提としている議論の大切さを考えれば、首相指名された後、予算委員会も開かないで解散総選挙に打って出た岸田首相の姿勢は、安倍、菅両政権による憲法をないがしろにする政治と同種と見なさざるを得ません。極めて残念です。現在の政治で最も問われていることは、どうしたら憲法を、どうしたら参政権を、どうしたら立法府を生かすことができるか、だと思います>
保阪正康さん
— 久遠仏 (@Buddha_kuon) November 5, 2021
「戦後の議会政治の歩みの中で、今ほど無性格、無人格、無哲学なことはなかったでしょう。つまりは哲理なき現状維持です。衆院選で展開されたのは政策論争とは無縁の選挙運動で、この国をどこに持っていくのか全く不明で、先行きに恐ろしささえ感じます」https://t.co/AABYfZMFsh
さらに政治評論家の森田実は岸田文雄の虚像をこう暴いていた。
「宏池会の領袖といえば、創設者の池田勇人は『国民所得倍増計画』の実現で知られ、大平正芳は日中国交回復に尽力。宮沢喜一は非常に真面目に平和主義に向き合った。宏池会のそうした系譜から、マスコミは岸田首相に対して総じて甘い評価をしていますが、実態はどうか。思想信条は正反対のはずの安倍元首相の路線に乗っかり、右側の支援を受けて総裁選を勝ち抜いた。宏池会の伝統を守っているように映りますが、うわべだけ。学術会議の任命拒否問題は大平派の流れをくめば、とても許されないのに、岸田首相は『一連の手続きは終了した』で終わり。実績もなければ方針もないナッシングの男なんです。成り行きと運、そしてマスコミの甘さに救われてきた」
立正大名誉教授の金子勝はもっと手厳しく岸田文雄を批判する。
「岸田首相が掲げる『新しい資本主義』の本質は、コロナ禍で傷ついた大企業や富裕層への手厚い保護です。原発再稼働を前提とするクリーンエネルギーにしろ、デジタル化推進にしろ、投資で経済を回すということでしかない。一方で、コロナ禍で生活がままならない低所得者層には目を向けず、社会保障改革には全く切り込みません。高齢者の医療費2割負担も生活保護基準の引き下げも見直そうとしない。18歳以下の子どもに一律10万円を支給する案を公明党が押し込もうとしていますが、『分配』についてもこの一回限りの支給でオシマイにするつもりでしょう」
「岸田首相はこの先、何をするにも矛盾だらけになってしまうのではないか。足元では安倍元首相や麻生副総裁の顔色をうかがわざるを得ない上、外交面ではシビアな現実的対応を決断しなければならない局面が想定されます。米国との関係で言えば、米中対立の延長線上で軍事的な取り組みを要求される可能性がある。ハト派路線で進もうとすれば、米国ににらまれること必至で、岸田政権が沈没しかねない。白いハトが灰色になり、やがて真っ黒になっていく過程を見せられることになるかもしれませんが、本人はあまり苦しまずにそのプロセスを通過してしまう危なさを感じます。『岸田は終わった』などと揶揄されながらも生き残ったゆえんです」
岸田が聞かれてもいないのに「敵基地攻撃能力の保有」に言及したのは、衆院選公示日に北朝鮮が弾道ミサイル発射を受けてのことだった。
たしかに、その瞬間、岸田文雄は福島県内で第一声、松野官房長官は地元入りしており、官邸ツートップが都内におらず、危機管理意識の低さを非難されたばかりだった。
生き延びるためにはあっさり転向する岸田文雄の本質が垣間見えた瞬間であった。
立憲民主党の戦略の誤りから「野党共闘」が大手メディアから批判され、野党第一党の幹部が総辞職することにより、党内の「右派」と「リベラル派」の路線対立で揉めれば、「ゆ党」と呼ばれる「第二自民党予備軍」が大手を振り始め、そうなればば、嘘とゴマカシの政治がまだまだ続くことになる。
単なる「看板の掛けなおし」だけのペテン政治が続けば、地球温暖化による被害よりも、ズットはやく国民の生活は近い将来、悲劇的な形で露呈するのではないだろうか、とオジサンは思う。
【参考】こんな国民にはなりたくはない!
『肉屋を支持する豚2021』
— 滝季山影一@『2021年の風刺画』通販中 (@ETakiyam) November 4, 2021
「お肉屋さん、ええ仕事してはるな~。いつ見てもほれぼれするわ」 pic.twitter.com/EoGPhkrnqD