世の中広い

　スーパーマーケットの一角で年配の女性が店を広げています。よくあるミシンの実演販売です。刺繍を施したポシェットを餌に、女性客を釣ろうとしています。

　手仕事が好きですが、高価な刺繍ミシンは今となっては需要がありません。欲しい人は若い母親で、小さな子供に手作りを着せて子育てを楽しめます。それにしても40万円越えは採算を考えると・・

　通り過ぎ掛けて、ふと足を止めてしまいました。何故か人に興味が湧いたからです。70歳はゆうに過ぎているでしょう。これほどの年齢の女性がセールストークを澱みなく、楽しそうに語っていることに、足が止まってしまいました。

　この年齢で、呆けもせず、通りすぎようとする人の足を止め、商品を売ろうとする姿勢に足がすくんでしまったと言った方が良いかも知れません。世の中の酸いも甘いも、側面も裏面も十二分に見てきた人の話術は、私のような主婦を上手く丸め込めるのはそう難しいことではなさそうです。

　4年～5年前にミシンは買い換えてるし、そんな上等なミシンは要らないから、絶対に買いませんよ、と前置きして、巧みに刺繍を勝手にしてくれるミシンの針先を見ながら、彼女のトークを聞いてしまいました。

　そう76歳ですか、こんな元気な76歳女性は見たことがありません。身体的にも、頭脳も。押し付けがましくなく商品をPRしています。その原動力は何ですか？

　友達とランチ？それより、多くは一期一会となる人でしょうが、こちらが誠実に会話すれば、相手の人も正直なことを言ってるかどうか分かるし、毎日じゃないし、楽しいよ。

　

　長年鍛えた精神力のなせる技なんでしょうね。健康長寿のお手本のような人です。

　結局、アンケートと称して住所、氏名（でたらめを書く人もいるんですって）持ちミシンの現状を記入してその場を離れました。

　あ、それから、クマモンの刺繍に、ファーストネイムの刺繍も加えていただいたポシェットを有り難くいただいて帰りました。