今回は、「染錦 花籠手 髭(ひげ)皿」の紹介です。
表面
側面
裏面
表面の上部に開けられた二つの穴部分の拡大
表面の下部の半月形にえぐられた部分の拡大
生 産 地: 肥前・有田
製作年代: 江戸時代中期
サ イ ズ : 口径;27.5cm 高さ;6.4~7.0cm 底径;14.6cm
この器の形は、かなり変わっていますよね。これを初めて見た人には必ず聞かれます。「これ何ですか?」とか「これ、割れているんですか?」とか、、、。確かに、半月形にえぐられている所など、割れているとしか映らないですものね(~_~;)
ところで、これを買ってきたのは平成5年のことですが、それでも、一部の者には、当時でも、ヨーロッパで髭剃り用に使った「髭皿」だということは知られてはいました。
その後、あちこちの美術館等で展示されるようになりましたし、テレビ等の影響もあって、この器が「髭皿」というものであることは、一般に知られるようになってきたのではないかと思います。
また、昔は、古伊万里の研究など、どちらかというと感覚的な研究が主でしたが、最近では科学的になり、実際に外国にも行ったり、外国の文献なども研究されるようになったりして、より詳しいことが分かってきたようです。
そこで、次に、その最近の研究の一端について紹介したいと思います。
日蘭交流400周年及び佐賀県立九州陶磁文化館開館20周年を記念して、佐賀県立九州陶磁文化館が平成12年に編集発行した「古伊万里の道」とい本がありますが、
その中の152ページには、「髭皿」について、次のように書かれています。
「髭皿」
口縁を半月状に切った特徴的な形をしたこの皿は、髭皿と呼ばれている。半月状に切ったところに首をあて、剃られた髭を受けるために使用されたものである。
半月状に切った方向と反対の口縁部に二つの穴が開けられるのが特徴で、ここには紐が通される。紐が通った状態で出土した遺物(p.91 図282)をアムステルダム考古局からご出品いただいている。
この紐は壁にかけるために開けられているようで、ドールハウスには髭皿をかけた場面を再現しているものがみられる(挿図10)。
ペトロネラ デュノワ夫人のドールハウス 1670年頃
アムステルダム国立博物館『17世紀のドールハウス』図録1994年より転載
この髭皿は、医者の持ち物として位置付けられていたのか、医者を表わした絵画に登場している(挿図11)。
マルティン エンゲルブレヒトによる銅版画<医師あるいは理髪師>
ルーブル美術館装飾芸術図書館所蔵『医学』1987年より転載
髭を剃るために使用する以外に、瀉血療法のために使用したともみなされている。それを示しているのか、患者を処置する様子をあらわしたドールハウスに、従者が髭皿を持っている場面がある(挿図12)。残念ながらこのドールハウスは所蔵と製作年代が不明である。資料としての使用は本来ならば避けるべきであるが、資料の重要性からここにあげた次第である。
ドールハウス 所蔵不明 写真提供:源右衛門窯
上の「髭皿」の解説からも分かりますように、髭皿に二つ穴があいているのは、今までは、そこに紐を通して、その紐で首から掛けるためのものだと考えられていたわけですが、本当は、使用しない時に壁に掛けておくためのものだったことが分かったわけです。
それに、ドールハウスの中に髭皿が壁にかかった場面からも分かりますように、髭皿は、1家庭に1枚所蔵されていたわけではなく、複数枚所蔵されていたことも分かってきたわけですね。
また、髭皿は、髭剃り用だけではなく、医師或いは理髪師の持ち物とされていたことや、瀉血療法という医療用にも使われたことまでが分かってきたわけです。
そのようなことから、髭皿は、ヨーロッパでは、それほど珍しいものではなく、かなりの数が残存していることが分かってきたわけですね。
それで、髭皿は、これを買った当座は、まだ、珍しさも手伝って高額でしたが、昨今、古伊万里の値段が全般的に下がってきたこととも相まって、現今では、かなり安くなったようの思います(~_~;)
なお、この髭皿につきましては、かつての拙ホームページの「古伊万里への誘い」の中で既に紹介していますが、参考までに、その部分を次に再度掲載いたします。
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<古伊万里への誘い>
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*古伊万里ギャラリー43 古伊万里様式染錦花籠手髭皿 (平成14年9月1日登載)
最近ではそれほどでもないが、髭皿が非常に人気の高かった時があった。
こんな物は、まず日本には伝世したものはなかったであろうから、現存するもののほとんどは、まず里帰り品であろうと言っても過言ではないであろう。
その意味では、本品も里帰り品の代表選手であると断言できると思う。
ただ、髭皿の場合、染付に赤と金彩だけの、いわゆるオールドジャパンが多いと思われる。そして、そのほうが、なんとなく古そうに見えるであろう。
ところが、この髭皿には「緑」が加えられている。これを買う時は、「緑があるのは珍しいですよ! 緑があったほうが華やかでいいですよね!」などと言われ、その気になって購入におよんだものである。
「緑」が加わったほうが、あるいは時代は少々若いかもしれない。でも、確かに、華やかさにおいては、「緑」を伴ったもののほうが数段上であることは確かであろう。
この辺にくれば、数十年の時代の古さをとるか華やかさをとるかは、人それぞれの好みの問題ではなかろうか?
江戸時代中期 口径:27.5cm
元禄伊万里の美が凝縮されています。
しかも輸出され、実用と鑑賞の両役を果たしていたとは、感激です(^.^)
銅版画やドールハウスの写真は興味深いですね。西洋では古代から中世まで、床屋と医者の境は曖昧で、床屋外科医という職業があったようです。伊万里の髭皿が、そこで使われていたとは驚きですね。
ちなみに、床屋さんの店先のぐるぐる回る看板(?)の赤線、青線は、動脈と静脈を表しているそうです。
膿盆を連想させましたが、日常品をお洒落に
したいと思うのは、市民の生活が向上しているのでしょうね。
室内の絵から考察していくんですねぇ。探偵みたいです。
まぁまぁの髭皿というところでしょうか、、。
器面いっぱいに元禄美人が描いてあるようなものならもっと良いのですが、この程度が精一杯です(~_~;)
「西洋では古代から中世まで、床屋と医者の境は曖昧で、床屋外科医という職業があった」のですか。
遅生さんは、さすが博学ですね(^_^)
「床屋さんの店先のぐるぐる回る看板(?)の赤線、青線は、動脈と静脈を表している」のですか!
言われてみれば、なるほどです(^-^*)
室内の絵から考察していく方法は、この「古伊万里の道」から教わりました。
古美術界は、いまだに、非科学的な世界で、感覚的な研究が主流ですね(~_~;)
室内の絵から考察していくというような方法は、面白いですし、説得力もありますよね(^-^*)
私にとっては図録や美術館で見るタイプの品で、未だに憧れの品です。
せめてミニ髭皿だけでも入手したいものです。
その中で、やっと、手に入れた物です(~_~;)
故栗田館長さんも髭皿が好きだったようで、「髭皿が出てきたらどんどんもってこい。片っ端から買ってやる」と豪語していたという話を聞いたことがありますが、結果的に、栗田美術館には、髭皿は、それほどの数は所蔵されていないようですから、デマだったんですね(~_~;)
それにしても、栗田美術館には、元禄美人が描かれたような髭皿の優品が何点かありますね(^-^*)