紫陽花の花の下には

紫陽花の季節になった。
北海道を除き列島は梅雨というカーテンに覆われた。



紫陽花の美しさは、ただ雨の中だけで際立つのではないのである。
その美しさの中には言いようもない秘密があるのだ。





　　　　　　　　　紫陽花の花の下には


　　　　　　紫陽花の花の下には
　　　　　　何億光年の陽射しが埋もれている

　　　　　　その陽射しはプリズムを通して
　　　　　　沈殿し積もっていく

　　　　　　紫陽花の花の下には
　　　　　　陽射しの生涯が埋もれている

　　　　　　紫陽花の花の下の奇跡は
　　　　　　とりわけ色の変遷は
　　　　　　陽射しの
　　　　　　蘇りへのあくなき願望だ

　　　　　　紫陽花の花の下は
　　　　　　怖ろしい
　　　　　　山に分け入って
　　　　　　蘇りつつある
　　　　　　山紫陽花を見るのは
　　　　　　おののきの沈黙
　　　　　　畏怖への慟哭だ

　　　　　　額が群青に染まる
　　　　　　額が紫紺に染まる
　　　　　　額が淡い桃色に染まる
　　　　　　額が白さと凄さをより増していくとき
　　　　　　蒼空は
　　　　　　茜色に染まり
　　　　　　闇の準備を整える
　　　　　　漆黒の闇が近づき
　　　　　　紫陽花を隠そうとする
　　　　　　不埒な企みが進行していく

　　　　　　紫陽花の花の下では
　　　　　　時間をやり過ごしては
　　　　　　ならない
　　　　　　紫陽花は
　　　　　　遠目で愛でよ

　　　　　　紫陽花は視覚から遠ざけ
　　　　　　触覚と味覚で
　　　　　　感知するのだ





紫陽花は見る角度でたおやかにも見える。



花びらの向こうに見えるのは、一つの運命である。





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