自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★GIAHSのこと

2010年12月19日 | ⇒トピック往来

 きょう19日の国際生物多様性年クロージングイベント「記念シンポジウム」で、石川県の取り組みを発表した谷本正憲知事は聞き慣れない言葉を打ち上げた。「ジアス(GIAHS)に能登の里山里海を登録したい」と。参加者はきょとんした表情だった。それもそのはず、登録が実現すれば日本では第1号であり、おそらく日本のほとんどの人は初耳だろう。

 GIAHSって何だろう。正式には、Globally lmportant Agricultural Heritage Systems、世界重要農業資産システムと呼ばれる。これでも理解が進まないので、分かりやすく「世界農業遺産」や「農業の世界遺産」と呼ばれたりする。国連食糧農業機関(FAO)が認定するもので、2002年に創設された。未来に引き継ぐに値する伝統的な農法や景観、文化(農耕儀礼など)に加え、生物多様性の保全と活用が重視される。能登半島の農耕儀礼「あえのこと」が昨年9月、ユネスコの無形文化遺産に指定され文化面で、人と農業にかかわる「資産」を持っている。また、輪島の千枚田=写真=に代表されるように、リアス式海岸が連なる条件不利地のため、ため池をつくり、谷あいに棚田を形成して里山里海が独特の景観を醸し出している。また、ため池農業による生物多様性は、二次的自然の上に成立していることから、農業の継続が生物多様性存続の基盤となっている。

 知事と同じく記念シンポジウムで生物多様性の成果報告をした武内和彦国連大学副学長(東大教授)によると、能登と同時に、新潟県佐渡市も「トキを育む農業」をGIAHSに登録申請した。また、これまでGIAHSに登録されてる地域は、チリのチロエ諸島で200種のイモを栽培する「チロエ農業」や、イタリアのソレント海岸で栽培されている「レモン園」、フィリピンのルソン島イフガオの傾斜地に展開する棚田(1995年・ユネスコ世界遺産)など8ヵ所である。

 申請主体は、羽咋以北の4市4町(七尾市、輪島市、羽咋市、珠洲市、能登町、穴水町、志賀町、中能登町)となる。では、登録されることでどのようなメリットがあるのか。正直、これは申請主体の活動次第だ。農産物の付加価値やグリーン・ツーリズム、国際的なネットワークでの情報発信など多様な活用方法があるだろう。

 正式な登録は来年夏ごろであり、登録が決まった訳ではない。が、動き出した。類(たぐい)希なる農業資産を祖先から受け継ぐ能登半島は「過疎・高齢化のトップランナー」でもある。このまま座して死を待つのか、あるいは世界とリンクしながら、生物多様性を育む農業を現代に生かす努力を重ね新たなステージを切り拓いていくのか、その岐路に立っている。

⇒19日(日)午後・金沢の天気  はれ

コメント (1)
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