自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆キーパースン

2013年04月13日 | ⇒トピック往来

   きょう13日の朝日新聞の天声人語の書き出しは、ジョージ・オーウェルの『動物農場』だった。豚をはじめとする動物たちが飲んだくれの牧場主に反乱を起こし、解放される。しかし、やがて豚が特権階級となって専制支配を築き、ほかの動物たちを服従させる。アニメや映画にもなった有名な寓話だ。

  オーウェルの意図は旧ソ連のスターリン体制への批判だった。人間の歴史にとって進歩的な動きと見える現象が、時を経て大きなマイナスをもたらしている事実が洋の東西を問わずままある。いまでいえば北朝鮮のこの事態だろう。国内の人民を虐げ、貧困に落とし込んで、周辺国まで恫喝する。人類に苦痛を与えている、と言ってよい。

  哲学者・市井三郎(1922-89)の言葉を思い出す。「歴史の進歩とは、自らに責任のない問題で苦痛を受ける割合が減ることによって実現される」と。北朝鮮の人民は、明らかに自らの責任で苦痛を受けているわけではない。体制側からの圧迫である。脱北者が後を絶たないほどの人々の苦痛、隣国への圧迫、これをいかに減らせばよいのか。

  学生時代に覚えた言葉なので定かではないかが、市井はこうも言っている。「不条理な苦痛を軽減するためには、みずから創造的苦痛を選び取り、その苦痛をわが身にひき受ける人間の存在が不可欠なのである」と。市井はこのような歴史的な転換期、ダイナミズムに決定的な役割を果たす人物のことをキーパースン(key person)と呼んだ。

  周辺国をも圧迫する北朝鮮のこの事態について、苦痛を受ける割合を減らす「歴史の進歩」が必要であるのは言うまでもない。ただ、その苦痛をわが身にひき受けるキーパースンが見当たらない。国内、あるいは国外なのか分からない。国外だとしたらアメリカのオバマ大統領なのか、中国の習近平国家主席なのか、と思いがちだが、意外と国内なのかもしれない。というもの、国外だったら国と国との単なる戦争である。市井が言うような「創造的苦痛を選び取る」国内の人材が不可欠だ。1968年に起こったチェコスロバキアの変革運動「プラハの春」や、2010年から2012年にかけてアラブで発生した反政府、民主化要求、抗議活動「アラブの春」などを先導した指導者たちをイメージする。

  しかし、彼の国では素朴な人間進歩への信仰はすでに崩れて去って、進歩をはかる価値観すら忘れ去れてしまっているかもしれない。話は青臭く、とりとめないものになってしまった。

⇒13日(土)朝・金沢の天気     はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする