自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★木島平の里山から‐下

2013年08月13日 | ⇒トピック往来

 地域と大学が連携する「学びの場」「地域活性化」にはいろいろなパンターンがある。平成19年の学校教育法の改正で、大学はそれまでの「教育」「研究」に加え、「社会貢献」という新たな使命が付加された。教育と研究の成果を地域社会に活かすことが必須になった。これを踏まえて、文部科学省ではこれまで地域のニーズに応じた人材養成として「地域再生人材創出拠点の形成」事業を、今年度からは「地(知)の拠点整備事業」(大学COC)を実施している。COCは「Center of Community」のこと。大学が自治体とタイアップして、全学的に地域を志向した教育・研究・社会貢献を進めることで、人材や情報・技術を集め、地域コミュニティの中核的存在としての大学の機能強化を図ることを目指している。

         「村格」こだわる気高い村の風土

 一方、総務省では地域の視点から大学とのつながりを重視する「域学連携」地域づくり活動事業を促している。過疎・高齢化をはじめとして課題を抱えている地域に学生らの若い人材が入り、住民とともに課題解決や地域おこし活動を実践する。学生たちが都会で就職しても、将来再び地域に目を向け、活躍する人材を育成することを促している。若者たちが地域に入ることで、住民が自らの文化や自然など地域資源に対して新たな気づきを得て、そのことが住民をの人材育成にもなると期している。

 文科省、総務省それぞに国費を投じた、こうした取り組みは、地域(自治体・住民)と大学(大学生・教員)それぞれにメリットがあるように、活動プログラムに工夫を重ね、知恵だしするプロデューサー機能が必要となる。ところが、予算取りには成功したが、実施段階でプロデューサー機能を構築しないまま、大学と地域でお互いの勘違いで勝手に動いているケースが実際にある。双方のどちらかが、メリットがないと気づいたとき、地域と大学の連携は単なる「迷惑」「おせっかい」にすぎないだろう。

 木島平村の場合、活動プログラムの策定から地域の人々と学生たちのつなぎ、食事のメニューを学生たちに考えさせ、その材料の仕込みまで、プロデューサー機能を果たしているのは教育委員会の中にある「農村文明塾」だ。教育員会には所属するものの、ある意味でのシンクタンク組織であり、全国でも稀である。その掲げるところは気高い。地域住民の活動と都市住民との交流を促し、①日本の農山村の有する価値と機能に改めて光を当て、「農村文明」の創生に向けて、農業・農村に愛着を持ち、農山村地域の持続的発展を支える人材育成を行う。②「農村文明」の創生に向けて、農村文明に関する調査研究を行うとともに、情報発信と有識者、全国の地域づくり関係者、自治体等との農村文明ネットワークの形成を進め、「農村文明」の普及啓発と全国運動の展開を行う。

 農村文明塾のホームページで塾長の奥島孝康氏(元早稲田大学総長)はその役割についてこう述べている。「農村自体の可能性をどのように探っていくのか、真剣に考えるときに来ています。それは、観光などではなく農村は農業を中心に考えることが大切で、農村の可能性を
『農村文明』という切り口で考えること、それが『農村文明塾』の役割だと思っております。」

 そして、木島平は、「村格」ということにこだわっている。農業のブランド化や都市農村の交流の拡大による地域の活性化を図ることはもちろん、農村ライフスタイルを、農山村で生活することへの愛着と誇りの醸成を進めたいのだという。これがベースだ。村の住民が幸福や生きがいを感じる地域の暮らしの質(自然環境、地産地消、健康長寿、相互扶助)をどう高めていけばよいか、その理想を追求している。

 事務局長の井原満明氏と初日の夕食後にしばらく話し合った。総務省の「域学連携」地域活力創出モデル実証事業の採択を受けて、その助成金で学生たちが木島平に寄り集う「農村版コンソーシアム」などの事業を展開している。「問題は公的な助成ではなく、民間から活動資金をどう引き出すか、活動資金の比率を高めていくかですよ」と。「域学連携」に留まる活動であってはならない。全国の民間企業が木島平に目を向けてくれるような、そのようなスケール感のある活動でないと農村文明塾は発展しないと自らに課しているのである。

 2日目(9日)朝6時30分に曹洞宗の寺で座禅体験。午前中は村歩き。道端のホオズキがオレンジ色に染まっていた。午前11時ごろ、村内の有線放送のスピーカーが響いた。「昭和20年8月9日午前11時2分に長崎に原爆が投下され、多くの方々が犠牲になりました。冥福を祈り、1分間の黙祷を捧げましょう」。原爆の日の黙祷、この地では日本人としては極当たり前のこととして今でも続けられている。木島平はそのような里山である。

⇒13日(火)金沢の朝   はれ

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