自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆山荒れて

2013年08月15日 | ⇒トピック往来

 「国破れて山河あり、城春にして草木深し」はよく知られた、杜甫の詩『春望』の冒頭の句だ。戦い(安禄山の乱)で国は滅亡し、人々の心の拠り所はなくなってしまったが、山や川はそのままで、かつての城下には春が訪れ草木が茂っている、自然の中にわずかに安堵感を見出した、との解釈だろうか。ところが、現代はどうだろうか。「山河破れて国あり」の状態ではないかと思うことがある。

 局地的な豪雨が発生するたびに、全国各地で山の地盤が崩れ、流出土砂が川にたまり、砂防ダムや土砂ダムが決壊し、人里に被害が及ぶ。先月29日、石川県小松市周辺が豪雨に見舞われ、梯(かけはし)川流域の1万8000人に避難指示・勧告が出されたが、治水上の計画高水位ぎりぎりで氾濫寸前でとどまった。まだ記憶に新しいのは2008年7月28日の金沢市の浅野川水害である。集中豪雨で55年ぶりに氾濫が起き、上流の湯涌温泉とその下流、ひがし茶屋街の周囲が被害を受けた。当時、浅野川流域の2万世帯(5万人)に避難指示が出されたのだ。

 自分自身の記憶もまだ鮮明だ。大学への通勤途中で、かつての記者の心が騒ぎ、若松橋から川の流れをのぞいてみた。堤防ぎりぎりにまで水がきて、異様だったのは、根がついたままの木が橋の縁に何本も引っかかっていたことだ。そのとき思ったのは、上流で山林の崩壊が起きているということだった。濁流が運んだのは、洪水だけでなく流木だった。大量の土砂と根がついたままの倒木は一体どこから来たのか。1週間ほどたって、浅野川の上流を行った。やはり、山肌がえぐられていることろが随所にみられた。竹林、杉の植林地など。杉などの人工林は、放置され間伐が遅れると木が込み合い、日光が林に入らない。すると、下草が育たない。そして、落ち葉や下草のない土壌では、林地に表面侵食が起き、土砂崩れが起きやすくなると指摘されている。放置されたモウソウ竹林でも同じだ。

 浅野川で起きたことは、何も金沢だけに特徴的なことではない。水害の背景にある山林の荒廃、それは全国に発せられる濁流の警告でもある。8月に入って、毎日のように「集中豪雨」の予報が発せれている。気候変動と荒れた山林、そして想像以上の水害。まさに「山河破れて」の状態ではないのかと。ヤブと化した竹林、藤ツルが絡まった杉林、そんな山の痛ましい姿を見てそう思う。

※写真は、クズが覆う金沢市角間の山

⇒15日(木)朝・金沢の天気    はれ

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