自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「影の銀行」のこと

2013年08月01日 | ⇒メディア時評

  最近、新聞やテレビなどで、中国発の経済危機の可能性について報じられることが多い。そのキーワードが「影の銀行」(シャドーバンキング)だ。「通常の銀行システム外の事業体および活動に関連する信用仲介」と定義される「影の銀行」が個人や企業の資金を地方の不動産開発に流し込み、信用バブルを生じさせる温床ともなっていると指摘されている。

  その信用バブルについて、中国で実感したことがいくつかある。昨年8月に浙江省青田県方山郷竜現村を世界農業遺産(GIAHS)の現地見学に訪れたとき、田舎に不釣り合いな看板が目に飛び込んできた。「161㎡ 江景…」との文字、川べりの豪華マンションの看板=写真=だ。地方に似つかわしくない看板なのである。中国人の女性ガイドに聞くと、マンションは1平方㍍当たり1万元が相場という。1元は当時12円だったので、1戸161㎡では円換算で1932万円の物件である。確かに、村に行くまでの近隣の都市部では川べりにすでにマンションがいくつか建っていた。夕食を終え、帰り道、それらのマンションからは明かりがほとんど見えない。投資向けマンションなのだ。2011年6月に訪れた首都・北京でも夜に明かりのないマンション群があった。
 
 もちろん、投資向けのマンションを購入するマネーは人民元だ。投資を繰り返して膨らんだマネーの行きつく先は将来のリスクを考えてのポートフォリオ、つまり分散投資をすることになる。はたして、中国の「投資家」が人民元を持ち続けることができるだろうか。中国は日本をしのぐ経済規模になったといわれ、人民元がアジアを代表する基軸通貨になれば中国の人々は安心して元を持ち続けるだろう。ただ、通貨には「価値の尺度」「交換の手段」「価値の保存」という3つの要件があるといわれる。中でも問題は「価値の保存」なのだ。その国にたとえば政治の不安定要因があれば、「価値の保存」は崩れやすい。

 繰り返しになるが、実体経済とかけ離れたマネーが中国国内にあふれている。しかも、そのマネー(通貨)は自由や平等といった価値観によって守られているとは言い難い。それどころか、軍事力を背景に中国が、近隣諸国に対して「挑戦」する姿勢を強めている。つまり、安全保障上の脅威ともなっている。これは逆に言えば、国内の政治の不安定要因でもある。つまり、通貨の「価値の保存」は崩れやすく、人民元でその資産を保有する意味がなくなる可能性が大きい。

 このことを見越した「投資家」たちは国外へのマネーの逃避を始めているだろう。習近平体制の腐敗防止キャンペーンとは、単純に言えば、逃避する可能性のあるマネーの没収大作戦ではないのか、とついうがった見方をしたくなる。日本では「バブル崩壊」の経験があるだけに、中国の「影の銀行」がクローズアップされているが、本当の問題は政治とリンクした人民元の通貨の価値の問題ではないのか。今回の話はミクロとマクロがごっちゃになって分かり難いのだが…。

⇒1日(木)夜・金沢の天気   あめ

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