自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆共存のモデル

2016年02月08日 | ⇒トピック往来
   「地方」という言葉は、地方に住む物にとってピンとこない。よく、中央である首都圏との対比として使われるからだ。かつて、「表日本」と「裏日本」という言葉があった。商工業で栄える太平洋側と、新幹線も走らず、寂れる日本海側といった比較で使われた。どこかと比較して、何かの基準の優劣だったら、比較されたほうが不快に感じるものだ。ただ、「地域」という言葉は関東地域、関西地域などそれぞれ独自の文化があり、その地域の固有性性を指す言葉のように感じる。単なる比較ではない。

    ただ、今政府が取り組んでいる「地方創生」という言葉は、ちょっとした凄みがある。それは「東京一極集中」VS「オール地方」という構図からだ。地方は地方で崖っぷちに立たされている。地域を再生させる総合戦略をそれぞに打ち立ている。東京の一極集中をこのまま放置してはならない、という地方の意気込みが見え始めている。それが凄みだ。では、どのような仕掛けがあるのか。

    今月5日、石破地方創生大臣が地域再生法の一部を改正する法律案を閣議決定したと記者会見で報じられた。それは、「企業版ふるさと納税」「日本版CCRC」のための措置、新型交付金を講じるという3本柱のだった。今年度内に成立させるという。なるほどと思ったのが企業版ふるさと納税だ。企業が自治体の総合戦略などに基づき、その意義に賛同してて寄付金をすることによって税制上の措置を講じ、企業と地域の連携をはかるという。「一社一村」運動の様相だ。

    もう一つ、注目したのは日本版CCRCだ。都会から地方に移住したいという人々を地域が受け入れ、一つのコミュニティー(共同体)をつくることで新たな考えや発想、仕事が起こすという作戦。CCRC(Continuing Care Retirement Community)は高齢者が健康なうちに地方に移住し、終身過ごすことが可能な生活共同体のような小さなタウン。1970年代にアメリカで始まり、全米で2000ヵ所のCCRCがあるという。都会での孤独死を自らの最期にしてなるものか、と意欲あるシニアが次なるステージを探しているのだ。そうした人々を受け入れる仕組みが地方で創る、それが日本版CCRCの狙いだろう。

    日本版CCRCにしても、企業版ふるさと納税にしても、問題は国と地域の本気度だ。物事を成し遂げる実行可能性を見せることが必要だろう。石破大臣が7日、金沢市を訪れた。地方の雇用創出に向けて必要な課題や対応を考える政府の「地域しごと創生会議」第3回会合に出席するためだ。午前中は、複合型福祉交流施設の「シェア金沢」を視察した=写真=。

    ここでは、3万6000平方㍍の敷地の中に高齢者向けデイサービス、サービス付き高齢者住宅、児童福祉施設、学生向けアパート、温泉、レストラン、カフェなどが点在している。つまり、高齢者や学生・若者、障害者らが一つのコミュニティーの中で生活している。全国でも珍しい、ある意味で先駆的な施設だ。温泉や売店など見学した石破大臣は「外から来ても楽しいだろうなという印象を持った」「若者、よそ者が地域に必要。その人たちが地域に新たな付加価値を生み出す」と、シェア金沢の取り組みを高く評価した。

    シェア金沢での石破大臣の視察は1時間30分にも及んだ。同施設への入りから出までの視察の様子を観察させてもらった。視線はどこにあるのか、どのような言葉を発するのか。その中に本気度を確かめたかった。案内してくれた人、招き入れてくれた人、それぞれに「ありがとう」と出がけに声をかけ、言葉に無駄がなかった。園内に飼っているアルパカを見て、質問した。「なぜこの施設にアルパカを飼っているの」と大臣。「吠えない、噛まない、やさしい動物なんです」と職員。「それだったら高齢者や障がい者も(アルパカを)お世話ができますね。なるほど」と大臣。その後、帰りがけに「さまざまな人が共存するというモデルがここ(シェア金沢)にある」と大臣が評価したのだった。

⇒8日(月)朝・金沢の天気   はれ
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