自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★台風一過の兼六園、梢のざわめき

2018年09月05日 | ⇒ニュース走査

    昨夜(4日)の金沢での最大瞬間風速は44.3㍍(午前6時前)だった。台風一過、けさは雲一つない青空だった。6時30分ごろ、兼六園に出かけた。名木が倒れているのではないかと気になった。入り口に札がかかっていた。「本日の早朝入園は中止します」。普段だと午前7時前ならば無料で入ることができる。その早朝入園が中止ということは、はやり名木が倒れるなど緊急事態が発生しているのではないかとますます気になった。

    午前7時に開門。入場料(310円)を払って入った。園内は落ち着いた名園の風景だった。早朝入園が中止は落ちた枝葉の清掃によるものだった。根が盛り上がっている根上松(ねあがりのまつ)や見事な枝ぶりで知られる唐崎松(からさきのまつ)は健在だった。44.3㍍の台風によく耐えたものだと安堵を得た。でも、その姿をよく見ると、根上松の枝に縄を張って補強が施され、さらに支柱がしてある=写真・上=。枝が強風で折れないように「台風対策」があらかじめ施されていたのだ。台風が去った後は速やかに撤去されるのだろう。名木あっての名園を守るということの意義に感じ入った。

           実は兼六園では「名木を守る」もう一つの手段が講じられている。台風で名木が折れた場合に備え、次世代の子孫がスタンバイしている。これは兼六園管理事務所の関係者から聞いた話だが、子孫とは、たとえば種子からとることもあるが、名木のもともとの産地から姿の似た名木をもってくる場合もある。兼六園きっての名木である唐崎松。これは、滋賀県大津市の「唐崎の松」から由来する。歌川広重(安藤広重)が浮世絵「近江八景之内 唐崎夜雨」に描いた名木である。近江の唐崎松は2代目だが、第13代加賀藩主・前田斉泰(在位1822-1866)が近江から種子を取り寄せて植えたのが現在の兼六園の唐崎松だ。

    兼六園管理事務所では、滋賀県の唐崎の2代目の種子で成長した低木を譲り受け、管理事務所で育てている。つまり「年の離れた兄弟」という訳だ。この兄弟の出番はいつか分からない。100年後か200年後か。ただ、名木に次世代がスタンバイするという在り様は永遠という時空をつけている。兼六園は四季の移ろいを樹木などの植物によって感じさせ、それを曲水の流れや、玉砂利の感触を得ながら確かめるという、五感を満たす感性の高い空間なのだ。その空間に永遠という時空をつけて、完成させた壮大な芸術品、それが兼六園だ。   

     ことじ灯ろう=写真・下=など30分ほど兼六園を散策して、随身坂口の門を出ようとすると風が頬をなでた。松の枝葉がサラサラと音を立てた。庭を愛したドイツの詩人、ヘルマン・ヘッセの作品を思い出した。「あの涼しい庭の梢(こずえ)のざわめきが私から遠のけば遠のくほど私はいっそう深く心から耳をすまさずにはいられない、あの頃よりもずっと美しくひびく歌声に」(『青春時代の庭』)。梢のざわめきがハーモニーのような美しい歌声に聞こえた。

⇒5日(水)午後・金沢の天気    はれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする