自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★スタディ・ツアーNoto(下)

2019年09月18日 | ⇒キャンパス見聞

  能登スタディ・ツアーの2日目(9月14日)、珠洲市の製炭所を訪れた。日本の伝統的な炭焼きを今も生業(なりわい)としている、石川県内で唯一の事業所でもある。代表の大野長一郎さんは43歳、炭焼き業の二代目。パワーポイントを交えながら、事業継承のいきさつや炭焼き業の課題と可能性についてレクチャーをいただいた。

   里山のカーボン・ニュートラル、里海のマイクロプラスティック除去

  その中で印象的な言葉は「里山と生物多様性、そしてカーボン・ニュートラルを炭焼きから起こすと決めたんです」。樹木の成長過程で光合成による二酸化炭素の吸収量と、炭の製造工程での燃料材の焼却による二酸化炭素の排出量が相殺され、炭焼きは大気中の二酸化炭素の増減に影響を与えない、とされる。しかし、実際はチェーンソーで伐採し、運ぶトラックのガソリン燃焼から出るCO²が回収されない。「炭焼きは環境にやさしくないと悩んでいたんです」

   そこで金沢大学の「能登里山マイスター養成プログラム」に参加し、研究者といっしょに6年分の帳簿から年間のガソリン使用量を計算し、どうすれば植林した樹木のCO²吸収量と相殺できるか検証した。結論は製造した炭の3割を燃やさない炭、つまり床下の吸湿材や、土壌改良材として土中に固定すればカーボン・ニュートラルが達成できることが計算上可能であることが分かった。これをきっかけに炭の商品生産の方針も明確になってきた。 

   付加価値の高い茶炭の生産にも力を入れている。茶炭とは茶道で釜で湯を沸かすのに使う燃料用の炭のこと。2008年から茶炭に適しているクヌギの木を休耕地に植林するイベント活動を開始した。すると、大野さんの計画に賛同した植林ボランティアが全国から集まるようになった。能登における、グリーンツーリズムの草分けになった。

   3日目(15日)、同市の塩田村を訪ねた。「揚げ浜式塩田」と呼ばれ、400年の伝統を受け継いでいる。塩をつくる場合、瀬戸内海では潮の干満が大きいので、満潮時に広い塩田に海水を取り込み、引き潮になれば水門を閉める(入り浜式塩田)。ところが、日本海は潮の干満が差がさほどないため、満潮とともに海水が自然に塩田に入ってくることはない。そこで、浜で海水を汲んで塩田まで人力で運ぶ(揚げ浜式塩田)。今では動力ポンプで海水を揚げている製塩業者もいるが、かたくなに伝統の製法を守る浜士(はまじ=塩づくりに携わる人)もいる。ひとにぎりの塩をつくるために、浜士は空を眺め、海水を汲み、知恵を絞り汗して、釜で火を燃やし続ける。機械化のモノづくりに慣れた現代人が忘れた、愚直で無欲でしたたかな労働の姿でもある。

  しかし、能登の海にも環境問題が押し寄せている。マイクロプラスティック問題だ。製塩業者は海水にマイクロプラスティックが含まれていないか定期的に検査している。製塩場を経営する中巳出理(なかみで・り)さんは徹底している。汲み上げた海水を5ミクロンと1ミクロンのフィルターのろ過装置に通し、マイクロプラスティックをはじめとするあらゆる固形物を除去した海水で伝統的な製塩作業を行っているのだ。

  さらに、塩の釜炊きに燃料は、ガソリンや石炭などの化石燃料を使わず、すべて能登の山林から切り出した間伐材を使っている。このことが、里山を保全することにもなる。伝統の塩づくりを守るということは実に奥が深い。(※写真は上から、大野長一郎のクヌギの林、「柞(ははそ)」とブランド名をつけた茶炭、塩の結晶がついた乾いた砂を垂れ船(たれぶね)に集める作業、海水のろ過装置)

⇒18日(水)夜・金沢の天気   くもり

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