自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★「復興五輪」感動の物語は始まるも、組織委の迷走止まず

2021年07月22日 | ⇒メディア時評

   東京オリンピックの開会式に先立ってきのう21日始まったソフトボールの試合を民放の昼のワイドショーで日本対オーストラリア戦を放送していた。初回でデッドボールが連続して先制点を与えたが、すぐにピッチャーを囲むように選手たちが集まった。オリンピック3度目のピッチャーは気を取り戻したのか別人のように鋭い投げで立ち直る。打線もその裏で同点に追いつき、結局は5回コールド勝ちで初戦を飾った。スポーツのドラマには感動する。

    このソフトボールの競技場は福島県営あづま球場だ。東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたいとの想いを東京オリンピックに込めて、「復興五輪」とも称している。福島での開催の意義を改めて考えさせてくれた試合でもあった。

   ただ、オリンピックの大会組織委員会の迷走は続く。オリンピックの開会式でショーディレクターを務めるコメディアンの小林賢太郎氏が、ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)をパロディーにしたコントの動画がインターネット上で拡散していることから、アメリカのユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」は21日、「反ユダヤ主義の発言」として非難する声明を発表した。これを受けて、大会組織委員会はきょう22日、小林氏を解任した(7月22日付・NHKニュースWeb版)。

   問題となった動画をネットでチェックする。1998年に発売されたビデオで、お笑いタレント2人によるコント。人の形に切った紙が数多くあることを説明するのに「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」と口走っている。すると、会場から笑い声が聞こえる。不自然なのは、笑いを誘うような話の流れでもなく、しかも早口で突然に「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」とコメントが出てくる。初耳の観客は言葉の意味を理解できるだろうか。理解すればおそらく笑えない。つまり、このコメントが会場で受けたかのように演出するための付け足しの笑いの音声だろう。

   このことからも理解できるように、「演出」というのは笑いや感動のためなら、常識や倫理観、正義といったものを封殺するケースがままある。それが今回のような失敗のもとになったりする。「策士、策に溺れる」の例えがある。冒頭のスポーツのドラマとは真逆だ。オリンピックの演出チームが辞任に追い込まれるのはこれで3人目となる。統括責任者を務めるクリエーティブディレクターが、出演予定だったタレントの容姿を豚に見立てた屈辱問題。そして、作曲家が問われたのは、子どものころの障がい者へのいじめを自慢気に雑誌に語った差別問題だった。負の連鎖反応は止まない。

⇒22日(木)午前・金沢の天気    まれ


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