「ぼったく男爵」の異名があるIOCのバッハ会長の名前を久しぶりに目にした。そもそもこの異名は、アメリカのワシントン・ポストWeb版(5月5日付)が「Baron Von Ripper-off」と名指したことに始まる。新型コロナウイルスの感染拡大によるパンデミックで、東京オリンピックを開催すべきかどうかで国際世論も揺れているとき、公的な国際組織でもないIOCがひたすら放映権料と最上位スポンサーからの協賛金をせしめていると批判した。この「ぼったく男爵」は世界中に広まった。
けさのNHKニュースによると、中国の前の副首相から性的関係を迫られたことをSNSで告白したのち、行方が分からなくなっていると伝えられているプロ女子テニスの彭帥(ペン・シュアイ)選手について、IOCのバッハ会長は21日、彭選手とテレビ電話で対話をしたと発表した。IOC公式ホームページで内容を伝えている=写真=。それによると、バッハ会長と彭選手との対話は30分間に及んだ。彭選手は北京市内の自宅で暮らして無事でいることを説明し、現在はプライバシーへの配慮と家族や友人と一緒にいられることを望んでいると伝えた。また、バッハ会長は北京オリンピック開催前の来年1月に北京に行くので夕食に彭選手を誘い、本人も受け入れたと記載している。
このニュースを視聴して、多くの視聴者は納得しただろうか。あるいは、世界の人々はこのIOCホームページを見て、率直に受け入れることができただろうか。アメリカは、新疆ウイグル自治区での強制労働を「ジェノサイド」と表現し国際的な人権問題ととらえている。さらに、今回のプロ女子テニスの彭選手の失踪についても問題視し、バイデン大統領は今月19日、来年2月4日に開幕する北京オリンピックについて、政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を検討していると明らかにしている(11月19日付・NHKニュースWeb版)。アメリカだけでなくEUなどもボイコット、あるいは外交的ボイコットへの動きを見せている。
以下は憶測だ。「ぼったく男爵」としては「オリンピックの開催をめぐる悪夢」が再び訪れているとあせっているに違いない。このまま各国からのボイコットが本格化すれば、北京オリンピックの開催そのものが問われ、放映権料と最上位スポンサーからの協賛金も危うくなると読んでいるのではないか。彭選手は北京の自宅で軟禁状態におかれていることは想像に難くない。それを分かっていながら、中国側の意向を受けてバッハ会長は彭選手との食事の約束をするなど、「演出」に応じたのだろう。
今回のバッハ会長の振る舞いは強烈なバッシングを広げるのではないか。すでに、国際人権団体グループは放送権を持つアメリカのNBCやイギリスのBBCなど世界各国の26の放送局に、五輪放送は中国政府による人権弾圧の「共犯者」となることを意味するとし、「放送契約の即刻解除」を求める書簡を送っている(9月11日付・朝日新聞Web版)。また、ニューヨーク・タイムズWeb版(11月19日付)は、「Where Is Peng Shuai?」(彭帥はどこへ?)と題した社説で、中国は批判に直面すると「否定し、嘘をつき、しらばくれてやり過ごす。すべてがうまくいかないと猛烈に反撃する」のが常だとして、今回も同様の動きをしていると論評している。それに、「ぼったく男爵」もあせって乗っかっている。
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