能登半島の国指定史跡である縄文真脇遺跡を訪れたとき、学芸員から「発掘は最大の破壊」という言葉を初めて聞いた。考古学では遺跡を掘り出す発掘調査は遺跡を破壊してしまうことになることから、発掘前にレーダー探査を行い、遺跡の場所や状態を把握してから必要最小限の発掘を行っているとの内容だった。「地道な発掘」という考古学調査のイメージがひっくり返った印象だった。10年も前の話だ。
最新のテクノロジーを使い、見えないものを可視化することで研究を深化させる、そうした発想が医療を始め様々な分野で広がっている。ことし3月から4月にかけて視聴したNHK-BS番組「見たことのない文化財」=写真、NHK公式ホームページより=でも、3Dスキャナーによる形状計測と超高精細画像で、まさに「8K 文化財」という世界を描き出していた。NHKと東京国立博物館がタッグを組んで、貴重な文化財をデジタルツールで解析し映像化することで肉眼では難しいところまで可視化するという新たな美術鑑賞を追求するという試みだ。
面白かったのは、「遮光器土偶」を500倍に映像拡大し、VRで内部に潜入した映像。なんと、この土偶を作った縄文人の指の跡が見えていた。さらに、京都の400年前のパノラマを描いた「洛中洛外図屏風 舟木本」。そこに描かれている2700人は武士だけでなく、庶民や商人まで。当時の衣類やしぐさ、そして表情までもが450インチのスクリーンに浮かび上がる。さらに、ゲームコントローラーで拡大することで、当時の風俗や商売、人物などがリアルに見えてくる。
ここまでくると考古学や美術史だけでなく動植物を扱う生態学なども調査手法が一変するのではないだろうか。研究領域におけるDX化は始まっている。
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