冬に荒れる能登の海も、3月に入ると徐々に穏やかになる。中旬になるとワカメ漁が始まる。新聞記者時代に輪島市から49㌔沖にある舳倉(へぐら)島=写真・上=でのワカメ漁を取材したことがある。漁師の夫婦が船で輪島漁港から舳倉島に来ていた。妻の海女が4、5㍍の海に潜る。岩礁に生えているワカメを鎌で刈り取る。潜って40、50秒すると刈ったワカメを肩で担いで浮上してくる。海面に顔を出して息を吐くとピュッーと磯笛(いそぶえ)が響く。そのワカメを船上の夫が取り上げると、海女は深呼吸してまた海に潜る。これを何度か繰り返す。舳倉島のワカメは1㍍から1.5㍍の長さのビッグサイズで、塩漬けワカメとして料理で重宝される。
島の岸に上がると夫婦はワカメを石ころが広がる斜面地に天日干しする。夫が船を操り、妻が潜る、こうした協業のことを「夫婦船(めおとぶね)」とこの土地では言うそうだ。先日、輪島漁港を訪れたとき、そんなことを思い出していた。同時に地震が起きた今年はワカメ漁が可能なのかと案じた。(※写真・下は、文化庁「国指定文化財等データベース」サイトより)
地震による地盤の隆起で輪島漁港の水深が浅くなり、座礁の危険があるため200隻の出漁できない状態が続いている。港では先月から海底の土砂をさらう浚渫(しゅんせつ)作業が始まっている。工期は3月28日とされているが、さらに延長される見通しもある。
輪島から舳倉島へ船を出せれないだけでなく、ワカメ漁でもう一つ案じることがある。それは、舳倉沖の岩礁の変化だ。海女たちはワカメがよく採れる水域や岩礁の位置を経験則で把握している。ところが、地震で海底の地形が一変しているとすれば、ワカメが生育する場所探しから始めなければならない。
これはワカメだけの話ではない。7月1日からはアワビ漁が解禁となる。どこの海にもアワビが生息するわけではない。海底の地形が一変しているとすれば、アワビが繁殖する場所探しが肝心だ。そもそも海底隆起がアワビの生息にどのような影響を与えているのだろうか。素潜りでアワビなどを採る「輪島の海女漁の技術」は国の重要無形民俗文化財に指定されている(2018年)。輪島の海女漁が一大転機を迎えたと言える。
⇒3日(日)夜・金沢の天気 くもり
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