「アートとSDGsはつながるのか」、そんな思いをめぐらしながら参加したシンポジウムだった。きょう21日、能登半島の珠洲市で始まった「創造都市ネットワーク日本(CCNJ)現代芸術の国際展部会シンポジウム」。国際芸術祭を開催している自治体が開催している勉強会でもある。
珠洲市で昨年秋に開催された「奥能登国際芸術祭2020+」の総合ディレクターの北川フラム氏=写真・上=が「持続可能な地域社会と国際芸術祭」と題して基調講演。「厳しい地域ほど魅力的で、珠洲は地政学的にも特異点がある。芸術祭で大いに変わる可能性がある。ぜひ10年で最低3回の芸術祭をやってほしい」と述べた。珠洲の特異点として、「この地には日本で失われた生活が残っている。そして、国と人がつながる日本海を望む『さいはての地』であり、鉄道の消滅点でもある。地域コミュニティーの絆が強く、里山里海の自然環境に恵まれている。アートはこうした特異点に迫っていく」とアーチスト目線で珠洲の魅力と可能性を強調した。
珠洲市の国際芸術祭は2017年と2021年の2回。北川フラム氏が地域が大きく変化するには「10年、最低3回」と述べたが、すでに珠洲市には変化が起きている。移住者数で見てみる。芸術祭開催前の5年間(2012-16年度)と開催後の5年間(2017-21年度12月末)との比較では開催前が135人に対して、開催後は255人と1.9倍も増えている。また、今年度の上半期(4-9月)は転入者が131人、転出者が120人で、転入が初めて転出を上回った。この社会動態の変化はなぜ起きているのか。北川フラム氏が述べたように、半島の先端という地理的な条件や過疎化といったハンディはアーチストにとって「厳しい地域こそ魅力的」に感じ、移住者も共感するという現象なのか。
その社会的な背景には、若者世代を中心として都市の人口集中、一極集中とは一線を画して、地域の新たな価値を見出す動きが活発化しつつある。そんな時代とマッチしたのかもしれない。事例を一つ上げる。去年3月に東京のIT企業に勤める男性が珠洲市に移住してきた。テレワークを通して本社の仕事をしながら、副業ビジネスとして、能登でクラフトジンを開発するためだ。ジンの本場・イギリスのウェールズにある蒸留所に行き、能登のユズやクロモジ、藻塩など日本から送りそれをベースにジンの生産の委託契約を結んできた。勤務先の会社が副業を解禁としたタイミングだった。将来は小さな蒸留所を能登でつくる計画も抱いている。能登の地域資源であるボタニカル(原料植物)を探して夢に向かって進む姿と、アーチストたちの創作の姿を重なって見える。「のとジン」=写真・下=は来月から通信販売が始まる。
冒頭の「アートとSDGsはつながるのか」の問題提起は次回で。
⇒21日(金)夜・珠洲の天気 くもり時々ゆき
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