自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆無可有な時間(とき)のひとコマ

2022年05月05日 | ⇒メディア時評

   ゴールデンウイークのひとコマ。加賀温泉で湯につかり、のんびりと一夜を過ごした。金沢から温泉に向かう途中の国道8号から、白山が見えた。2702㍍。富士山、立山と並んで日本の三霊山にたとえられる。青空に映えて、まさに白い山。赤瓦の民家と新緑の山々がマッチしている。このアングルに魅(ひ)かれて、車を降りて撮影する=写真・上=。

   予約していた山代温泉の温泉旅館に到着する。すでに、従業員が迎えに出ていた。せっかくなので、いきなり質問をした。「旅館名は『べにや無可有』ですが、このムカユウはどんな意味なのでしょうか」と。すると女性の従業員は「お客様からよく尋ねられるのですが、自然のままで何もないという意味のようです」と。

    和室の部屋に入ると、その意味が少し理解できた。ベランダに出ると外の風景はまるで自然の山庭だ=写真・下=。自然の癒しというものを感じる。旅館のパンフにはこうあった。「荘子に『虚室生白』という言葉があります。部屋はからっぽなほど光が満ちる。何もないところにこそ自由な、とらわれない心がある。『無可有』はそんな荘子のとくに好んだ言葉で、何もないこと、無為であること」

   そこでふと、無可有とは自分のことではないかと思った。大学を退職し、まるでぽっかりと空いたスケジュール表の余白のような時間。ある意味で、空っぽだからこそ自由で満たされた時間がそこにある。そんなことを思いながら、風になびく古木の枝葉を見て、サラサラと温泉がわく音を聞きながら、露天風呂につかる。

⇒5日(木)夕・金沢の天気     はれ   


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