自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

★北の武装船、八千代丸事件の悪夢

2019年09月04日 | ⇒メディア時評

   これは韓国に続いて、北朝鮮からの「あおり運転」だろうか。報道によると、8月23日午前9時半ごろ、能登半島沖のイカ釣り漁場、大和堆で武装した船員が乗った北朝鮮籍とみられる不審船2隻を水産庁の取締船が見つけ、連絡を受けた海上保安庁の巡視船が駆け付けた。巡視船が警戒監視を続けたところ、不審船は去った。

   現場は、日本と韓国のいずれの漁船も操業できる日韓暫定水域の、日本の排他的経済水域(EEZ)内の海域でのこと。周辺では日本の漁船も操業していて、水産庁は漁船に対し、安全確保のため海域を離れるよう伝達した。北朝鮮海軍らしき旗を掲げた不審船は、小型高速艇と北朝鮮の国旗が船体に描かれた貨物船で、高速艇には小銃を持った船員がいたという。

   毎年のようにEEZには北の木造漁船が数百隻も押し寄せているが、今回武装船となるとただ事ではない。能登半島の先端、石川県能登町小木港のイカ釣り漁業関係者の心境を察する。それは、1984年7月27日に起きた「八千代丸銃撃事件」がまだ記憶にあるからだ。小木漁協所属のイカ釣り漁船「第36八千代丸」が、北朝鮮が一方的に引いた「軍事境界線」の内に侵入したとして、北朝鮮の警備艇に銃撃され、船長が死亡、乗組員4人が拿捕されるという事件だった。1ヵ月後の8月26日に「罰金」1951万円を払わされ4人は帰国した。当時私は新聞記者で船長の遺族や漁業関係者に取材した。「北朝鮮は何を仕出かすか分からない」と無防備の漁船を銃撃したこの事件に恐怖心を抱いていた。小木ではこの感情が共有され、今でも引きづっていることは想像に難くない。

   日本の海で操業していて、武装船が入ってきて、身の危険を感じなければならない状況というのは、まさに北の「おあり運転」だ。その狙いは、八千代丸事件のように、銃撃と拿捕により人質を取り、「軍事境界線」の内に侵入したとして「罰金」をせしめるつもりではないかと。なにしろ、今回武装船が確認された場所は北が主張する「軍事境界線」と近いのだ。(※写真は、能登町の小木漁港に停泊するイカ釣り漁船)

⇒4日(水)朝・金沢の天気     くもり

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆隣国の「あおり運転」

2019年09月02日 | ⇒ニュース走査

   まっすぐに道を走行していて、後ろの車が接近し車間距離を詰めてきたので、注意を喚起するためクラクションを1回鳴らすと、今度は右横に接近して嫌がらせ運転を始めた。もう10年以上も前、北陸自動車道での自らの体験だ。いま問題となっている「あおり運転」である。このあおり運転は隣国との状況と実によく似ていると思う。

    先月2日、日本側が輸出管理上のホワイト国(優遇対象国)から韓国を除外する政令改正を閣議決定した。これを受けて、韓国の文在寅大統領は「賊反荷杖」という韓国語の四字熟語を使って日本批判を展開した。日本語訳では「盗人猛々しい」に相当し、「加害者である日本が、盗っ人たけだけしく、むしろ大きな声で騒ぐ状況は絶対に座視しない」と文氏の発言した(朝日新聞Web版)。

   そもそも、ホワイト国は政府が信頼できる輸出先だと認める国だ。武器や大量破壊兵器、それに関連する資材、兵器の汎用品などについて経産大臣の許可が必要だ。韓国側が認めているように、武器製造に転用可能な戦略物資の違法輸出を摘発した事例が2015年から19年3月までに156件あった(7月12日付・東京新聞HP版)。素直に「改善する」と言えばよいのに、それを歴史と絡めて批判してくるところに韓国側の無理がある。

   先月22日、韓国側は日韓防衛当局間で軍事機密のやりとりを可能にするGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を継続せずに破棄すると発表した。翌日23日、駐韓日本大使を呼び、GSOMIA破棄を正式に通告した。さらに、韓国の李洛淵首相が「日本が不当な措置を元に戻せば、GSOMIA破棄を再検討できる」と述べ、ホワイト国除外の撤回を日本側に求めた。安全保障上の合意を輸出管理上の手続きと引き換えにするという発想が理解できない。

   連動するように、韓国軍は25日と26日、島根県の竹島周辺で軍事訓練を行った。これに対してアメリカ国務省は「韓国と日本の最近の意見の対立を考えれば、島での訓練のタイミング、メッセージ、規模の大きさは今の問題を解決するのに生産的ではない」と韓国批判のコメントを出した(8月27日付・NHKニュースWeb版)。もともとは韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射問題から始まったが、GSOMIA破棄まで来ると辟易(へきえき)とする。

   こうした隣国のまさに「あおり運転」の今後は外交的にどうなるのだろうか。いわゆるアグレッシブドライビング(速度超過、短い車間、割り込み、頻繁な車線変更、進路妨害など)の精神状態でよく指摘されるのは「衝動制御障害」や「復讐願望」「思考停止」「想像力の欠如」などだ。とくに衝動制御障害は、他人に危害を与える行為に自己抑制が効かない障害だ。このあおり運転の結末は自ら事故を招く、ということになるだろう。これを国家に置き換えたら、空恐ろしい。

   冒頭のあおり運転に遭遇した話の続きだが、最後はクラクションを派手に鳴らしながら猛スピードで去っていった。  

⇒2日(月)朝・金沢の天気     あめ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

★「パンダ大使」の行く末

2019年09月01日 | ⇒メディア時評

  毎日ニュースに目を通していて気になったものをいくつか。最初は、NHKが伝えていた、「パンダが日中貿易摩擦に巻き込まれる? 米有力紙報道」の報道(8月29日)。米有力紙とはワシントン・ポスト紙だと紹介されていたので、さっそく同紙のWeb版を検索する。

  Could pandas get caught in the U.S.-China trade war? と見出しが踊る=写真=。記事を読むと、ワシントンD.Cのスミソニアン国立動物園にはジャイアントパンダのメイシャン(メス・21歳)とティエンティエン(オス・22歳)、そして子のベイベイ(オス・4歳)の3頭がいる。パンダは毎年何百万人もの見学者を引き寄せ、桜と並ぶワシントンのシンボルにもなっている。 

  記事によると、パンダの中国側と動物園側のリース契約は20年で来年2020年12月7日に契約切れとなるが、現時点で更新に向けた話し合いは始まっていないのだという。ちなみに、年間リース価格は50万㌦と。愛くるしいパンダだが、中国にとっては外交の道具でもある。東西冷戦の最中、1972年2月にアメリカのニクソン大統領が中国を電撃訪問、国交樹立の足掛かりをつくった。その2ヵ月後に中国はパンダをアメリカに寄贈している。パンダは「親善大使」でもある。そのパンダが中国に戻ることになれば、米中関係が冷戦に戻ったことのシンボルにもなる。

  中国側と動物園側の契約が無事更新されるのかどうか。同紙は「the U.S. political landscape by late 2020 is a mystery. 」と伝えている。次にアメリカ大統領選挙が実施される2020年後半までは政治情勢はミステリーだ、と。

  もう一つ気になったニュース。30日の閣議で、読売新聞グループ本社の白石興二郎会長(72歳)をスイス大使に充てる人事を発表したと報じられた。新聞メディアに対する違和感を感じた。30日付で退職しているとはいえ、報道機関のトップが政府のプレーヤーに転身する。大使の民間起用には異議はないが、権力監視が本分であるはずのメディアの現職が、政府から起用されたからといって簡単に受けるものだろうか。メディアは権力と距離感を保っておかないと、読者・視聴者の不信を招くのは言うまでもない。メディアは権力のかわいいパンダにはなってはいけない。

⇒1日(日)午前・金沢の天気     くもり 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする