(前回から続く)
薬局のカウンターに処方箋 (せん) を出して薬を待っていると、声をかけられました。
「こちらの薬局は初めてですか?」
過去にこの薬局で薬を受け取ったことはあります。当時はまだ戸籍上の名前を変更する前であり、男性的な名前の患者として処方箋を持ち込みました。今回は、見た目も名前も女性の患者として来ています。
「前にも来たことがありますが……」
「このお名前でいらっしゃいましたか?」
「いいえ。……初めてです」
名前が違っていたので、薬局で過去のデータと照合できなかったのでしょう。初めてということにしておきました。私が薬を受け取っている薬局はここ1ヶ所だけではありません。ここの薬局で投薬歴を管理してもらう必要もないので、適当にあしらっておけば十分です。
「では、こちらにご記入ください」
渡された用紙は問診票。現在飲んでいる薬やアレルギー歴などの質問が並んでいます。ひとつひとつ回答していきます。用紙の一番下には、女性は以下の質問にも回答してください、とありました。
現在妊娠していますか?
今でこそ女性として生活していますが、私はもともと男の子の体で生まれました。見た目は女性であっても、私の体は医学的には男性の構造をしています。妊娠することはあり得ません。
でも、外見は女性です。戸籍上も既に女性的な名前に変更してあります。薬を受け取るだけのために面倒な話はしたくありません。ここは女性で通しましょう。「いいえ」に丸を打っておきました。我ながら紛らわしい患者だこと。
しばらくして薬が出てきました。
ひとつひとつ説明が始まりました。袋と説明書に詳しく書いてあるので、いちいち口頭で説明してくれなくてもいいのですが。
「このクリームは、なめないでください」
「唇に塗るんですよね? どうしても多少は口の中に入ってしまうと思いますが」
「……」
薬剤師は答えられず、無言のまま。これが薬剤師による服薬指導の実態です。
結局、クリームが口に入ることが避けられない点はうやむやのまま、服薬指導が終わりました。お金を払うだけの価値のある仕事がされたとは思えませんが、しっかりと薬学管理料30点、300円分が加算されました。ぼったくりです。
薬をバッグにしまっていると、薬剤師がカウンターから出てきて、声をかけてきました。
「ご本人様と思ってお薬をお渡ししましたが……」
薬剤師は処方箋の性別欄を指差していました。処方箋には、ご丁寧にも「男」と記載されていました。病院には私が男性であると登録されているため、処方箋の性別欄にも男と書かれたようです。
私は、改名した後、病院で名前変更の手続きをとりました。新規の女性患者として受診してもいいのですが、万一の場合に備えて、過去のカルテを引き継ぐことにしました。それに、私の場合、戸籍上の性別は変わっていません。健康保険証の性別欄も男のままです。病院にはその保険証を提示する必要がありますから、女性として受診することはできません。
このような経緯もあり、病院側は私がもともと男性であったことを把握しています。しかし、薬局はそのことを知りません。
「ご本人様でいらっしゃいますか?」
「はい」
「では、これ (性別欄の記載) は誤りということで」
「はい」
言っちゃった。
性別欄が間違ってると言っちゃった。
見た目は女性だけど元は男性として生まれたなんて面倒な話をしたくないので、女性で通しました。まったく、紛らわしい患者だこと。
薬局が病院に問い合わせて話が食い違ったり、薬局がレセプトを提出した後に性別の食い違いが発覚したりすることでしょう。果たしてどっちの性別が正しいのか、大騒ぎになるかも知れません。
しーらないっと。
家に帰って、この件を母に報告。ふたりで大笑い。
まったく、人騒がせな患者だこと。
(次回に続く)
薬局のカウンターに処方箋 (せん) を出して薬を待っていると、声をかけられました。
「こちらの薬局は初めてですか?」
過去にこの薬局で薬を受け取ったことはあります。当時はまだ戸籍上の名前を変更する前であり、男性的な名前の患者として処方箋を持ち込みました。今回は、見た目も名前も女性の患者として来ています。
「前にも来たことがありますが……」
「このお名前でいらっしゃいましたか?」
「いいえ。……初めてです」
名前が違っていたので、薬局で過去のデータと照合できなかったのでしょう。初めてということにしておきました。私が薬を受け取っている薬局はここ1ヶ所だけではありません。ここの薬局で投薬歴を管理してもらう必要もないので、適当にあしらっておけば十分です。
「では、こちらにご記入ください」
渡された用紙は問診票。現在飲んでいる薬やアレルギー歴などの質問が並んでいます。ひとつひとつ回答していきます。用紙の一番下には、女性は以下の質問にも回答してください、とありました。
現在妊娠していますか?
今でこそ女性として生活していますが、私はもともと男の子の体で生まれました。見た目は女性であっても、私の体は医学的には男性の構造をしています。妊娠することはあり得ません。
でも、外見は女性です。戸籍上も既に女性的な名前に変更してあります。薬を受け取るだけのために面倒な話はしたくありません。ここは女性で通しましょう。「いいえ」に丸を打っておきました。我ながら紛らわしい患者だこと。
しばらくして薬が出てきました。
ひとつひとつ説明が始まりました。袋と説明書に詳しく書いてあるので、いちいち口頭で説明してくれなくてもいいのですが。
「このクリームは、なめないでください」
「唇に塗るんですよね? どうしても多少は口の中に入ってしまうと思いますが」
「……」
薬剤師は答えられず、無言のまま。これが薬剤師による服薬指導の実態です。
結局、クリームが口に入ることが避けられない点はうやむやのまま、服薬指導が終わりました。お金を払うだけの価値のある仕事がされたとは思えませんが、しっかりと薬学管理料30点、300円分が加算されました。ぼったくりです。
薬をバッグにしまっていると、薬剤師がカウンターから出てきて、声をかけてきました。
「ご本人様と思ってお薬をお渡ししましたが……」
薬剤師は処方箋の性別欄を指差していました。処方箋には、ご丁寧にも「男」と記載されていました。病院には私が男性であると登録されているため、処方箋の性別欄にも男と書かれたようです。
私は、改名した後、病院で名前変更の手続きをとりました。新規の女性患者として受診してもいいのですが、万一の場合に備えて、過去のカルテを引き継ぐことにしました。それに、私の場合、戸籍上の性別は変わっていません。健康保険証の性別欄も男のままです。病院にはその保険証を提示する必要がありますから、女性として受診することはできません。
このような経緯もあり、病院側は私がもともと男性であったことを把握しています。しかし、薬局はそのことを知りません。
「ご本人様でいらっしゃいますか?」
「はい」
「では、これ (性別欄の記載) は誤りということで」
「はい」
言っちゃった。
性別欄が間違ってると言っちゃった。
見た目は女性だけど元は男性として生まれたなんて面倒な話をしたくないので、女性で通しました。まったく、紛らわしい患者だこと。
薬局が病院に問い合わせて話が食い違ったり、薬局がレセプトを提出した後に性別の食い違いが発覚したりすることでしょう。果たしてどっちの性別が正しいのか、大騒ぎになるかも知れません。
しーらないっと。
家に帰って、この件を母に報告。ふたりで大笑い。
まったく、人騒がせな患者だこと。
(次回に続く)