あの頃(苦悩)5

2020-05-21 08:58:33 | 日記
Aが得意なエチュード…、それを休むなんて…どうしたんだろう…。

次もその次も休んだ。

当時はメールはおろか、携帯さえも無い時代だったので、心配をしながらも、彼女が稽古場に来るのを待つしかない…。

最近少し、様子が変だった…。

私に例の先輩の話しをしてから、どんどん元気がなくなっていたような気がする。



ーーーAがお休みをして4日目、やっと姿を現した。

頬がこけて痩せたように見える。

「…どうしたの?大丈夫?」

「ちょっとお腹壊したの。」

「…そうなんだ…」

私たちをまとめている事務員さんが、Aから連絡が無い…と心配していた。

Aがお腹の壊したのなら、連絡くらいはするはず…。

4日ぶりにAの得意なエチュードだ。

「ちょうど、一回目のエチュードが終わったところ、今日から2回目だよ。」

「そうなんだ…。」

いつも口の悪いAがおとなしい。

今日のエチュードのお題は、

『待ち合わせの場所で、長い時間待つが、相手が来ない…。時計を見ながら帰ろうか、もう少し待とうか…と悩む…。…そして、この後は、帰るかとどまるかを自分で決める』…と、言うものです。

帰るにしても、とどまるにしても、『なんとなく』はダメ。理由が必要です。それを考えての課題。

「さっそく、やってみたい者?」

先生が見回す。

こんな時、率先してAが手を上げる‼️…はずなのだが、床の一点をじっと見つめて動こうとしない。

「おい、A!一番に名乗りを上げないなんて、珍しいな❗どうした?

「あ、はい❗やります。」

急に魂が戻ったかのように、Aは立ち上がった。

「なんだ…顔色悪いな…」

「下痢です!大丈夫です!」

仲間たちから少し笑いが起きた。







あの頃(苦悩)4

2020-05-20 07:32:33 | 日記
「ひとり持ち時間10分のエチュードをやってもらう」

エチュードとは。。。

1.美術で、絵画・彫刻制作の準備のための下絵。習作。
2.音楽で、楽器の練習のために作られた楽曲。練習曲。
3.演劇で、即興劇。場面設定だけで、台詞(セリフ)や動作などを役者自身が考えながら行う劇。

演劇でのシチュエーションなので、3番目のものですね。
場面設定だけで、セリフも無く、役者自身が考えながら行う劇。…のことです。

例えば、先生からお題や道具を渡されて、それにまつわるドラマを作るワケです。

例えば、傘。

コンビニから買い物を終えて出てきて、傘を取ろうとしたら…無い💦💦

自分の傘が無い💦

『おそらく、誰かが間違えてさして行ったんだろう…。』

…どうしよう💦

雨は、さらに強くなってる…。

店の中を見回すと、お客さんが二人…。

自分も間違えたふりをして、ここにある傘をさして帰るか…。

え~い、もう、いいや❗濡れて帰れ❗


上のシチュエーションは、例えば…の設定です。

道具は『傘』だけなので、どんなドラマでもいいんです。

このエチュードが、Aは、天才的に上手で、見入ってしまいます。

Aも、それが好きなようで、エチュードは張り切ります。

この日、エチュードが予定されていたのを知っていたのに、Aは、レッスンを休んだ。

珍しい…。

何かあったのだろうか…。

仕事?

…だったら、前もって私たちに、得意げ😅に話すだろうし…。

得意というか、好きなエチュードを休むなんて、よほどのこと。。。




あの頃(苦悩)3

2020-05-19 07:16:10 | 日記
「買い物に付き合った」

Aの事務所の先輩の話しだ…。

「へぇ~❗楽しそう❗」

「まさか…。私は荷物持ちだから。」

Aの表情が急に暗くなった。

「本当は苦手❗」

Aは、今まで、○○さんに可愛がってもらってるのが自慢だった話しぶりだった…。

だけど、本当はそうでもない…という本音をもらした。

もう少し踏み込んで聞くべきかどうか…迷った。

なんだか聞いて欲しそうな空気も感じた…。

だけど、どんな聞き方をしても、私には、本当のことは話してくれないと思う。

「○○さんって…、見た目と違うよ。」

…あ~、やっぱり、聞いて欲しいんだ💦

私がどんな返答をしても、Aは否定的な対応をして来そう…💦

「キレイな人だよね。」

「まぁね…。」

先輩の悪口を言いたいのか…。

だけど、私は、その人の事は、表向きの部分しか知らないし…。意見を求められたら困る💦


…話しは続かなかった。

Aもこの程度で止めておこうと思ったのかも知れない。

少しホッとした。

また、団子屋さんで会うと、こんな話になるのかな…💦

『見た目と違うよ』

に対してどんな返答がいいのか…?

見た目と違う部分を聞けば、悪口が始まるかも知れない。

悪口に同意すれば、自分の事務所の先輩の悪口を言われると嫌な気分だろうし、否定すればもっと腹が立つかも知れないし…。

『へぇ~!』

…と言って、他人事のように聞き続けるしか無いと思うけど、Aは、他人事の対応をし続ける私にも腹を立てそう💦💦

…難しい💦





あの頃(苦悩)2

2020-05-18 07:21:20 | 日記
団子屋さんで、みたらし団子を頬張っていると…、やたらと鼻水をすする音…。

振り返ると、Aでした。

…Aは、泣いていました。

Aに背を向けていた私は、このまま知らないふりをしよう…と、ずっと固まっていました。
きっとAは、私なんかに弱味を見せたくないハズ。

「あのさ…!」

え?気づいていた?

「風邪引いちゃってさ!」

「風邪?大丈夫?」

絶対風邪なんかじゃない…。

たぶん、私に気付いて、泣いたのをごまかしたんだと思う…。

だけど、その日から時々団子屋でAを見掛けるようになった。

苦手なAに会いたくないなら、
団子屋に寄らない…という手もあったけど、分かりやすく団子屋を避けるのも大人げない…と思った。

時々、団子屋でAを見つけたし、一緒のテーブルに着いたりしたが、今一つ距離は縮まらないまま…。

「○○さんから連絡もらって、会いに行ったの」

「○○さん?」

○○さんとは、少し前まで露出の多かった女優さんだ。(露出とは、肌を見せるという意味では無いです💦)

Aは、その女優さんの後輩。(事務所の…だと思います)

そういえば、可愛がってもらってる…みたいな話しを、最初の頃に聞いた記憶がある。


「買い物に付き合った」

「へぇ~❗楽しそう❗」

「まさか…。私は荷物持ちだから。」

急に表情が暗くなった。





あの頃(苦悩)

2020-05-17 07:20:06 | 日記
Aのお話しです。

これまで、Aの事を、『わがままで困った人』というイメージで書いて来ましたが、彼女も彼女なりに、いつも深く悩んで傷ついていました。

子役からの卒業…というか、大人になってからの転身って、本当に難しいらしいんです。

しかも、彼女は、『大活躍』というほどの経歴では無かったのですし、キャラクターが定まりきれていない雰囲気だったので、本当に悩んでいたと思います。

彼女がどんな活躍をしていたのか…というと、実のところ、私は全く知らない(観たことが無い)んです。

彼女が活躍していた頃は、私は田舎ののんきな小娘。
もちろん、今のように、過去の画像を観る事ができるツール(DVD、ビデオ)なんてありません。

…なので、噂に聞いた話ししか知らないワケです。
しかも、出会った時、既に彼女は、『嫌みな元子役』として存在してましたから、周りから聞こえてくる彼女の業績は、悪意のある情報も混じっていた事と思います。

だけど、やっぱり、彼女には能力があったと思います。

皆が同じスタートラインにスタンバイしても、彼女は数メートル先からのスタートですし、良くない噂を差し引いても、基本の力があるので、スタートダッシュ力が強いんです。

だから、いつも少し前を走っていた彼女。

彼女は、謎の存在でした。


彼女とのいろんなトラブルを過ごしていた私も、彼女は『要注意』の貼り紙を貼ってましたから、いつも距離をあけていました。



ところで、私は、レッスンに向かう道のりにひっそりと佇む団子屋さんが大好きで、

何度かその道を通った人でも
「そんな店あったっけ?」
と言うくらいに存在感の無いひっそりとしたお店構えでした。

ある日、その店に入ると、大好きなつぶあんとみたらし団子を頬張っていました。

すると、やたらと鼻水をすする音が…。

振り返るとAでした。

Aは、後から入って来たんですね。私は台本を読んでいて全く気づきませんでした。

鼻水をすする音がうるさい。

…え?泣いてる?