あの頃(現場)8

2020-05-16 07:46:28 | 日記
「赤ちゃんになる…っていうレッスンをやったじゃない❗あれをやればいいんだよ。大丈夫だよ❗」

Mちゃんは、額にうっすらと汗をかいているのに、小さく震えている。

…大丈夫だろうか?


「Mさん、監督さんが呼んでます」

助監督さんが、Mちゃんを呼びに来た。

そして、しばらく帰って来ませんでした。


ーー結果から言うと、Mちゃんは、無事に『泣き叫ぶ』を演じきりました。

その日、監督さんに呼ばれて何があったのか…。後からMちゃんに聞いた話しなのですが…、

監督さんは、何も言わず、Mちゃんに撮影風景を見せてくれていたそうです。

…それだけです。

ただ、Mちゃんの側の気持ちの変化としては、

主演の俳優さんのすごい勢い。

出てきてすぐに死んでしまう役の人。

少しのセリフでも、号泣する人。

走り回るスタッフさん。

本当にたくさんの人たちがこの作品を作りあげてるんだ…と、しみじみ感じたとか…。

『やるしかない‼️』

という覚悟みたいなものが湧いて来たそうです。

監督さんはMちゃんを見抜いていたのか…もしくは、一か八か…出来る子か出来ない子なのかを賭けたのか…。

(ちなみに、私は、後半だと思います)

出来上がった作品を見たら、Mちゃんの演技は絶品でした。
しかも、自信満々じゃない演技が、尚一層リアルでそれなりの迫力があるんです。

監督さんは、そこまで見抜いていたのかな…?

あの頃(現場)7

2020-05-15 07:24:24 | 日記
「Mちゃんは、泣き叫ぶ演技が出来ないんだそうですよ‼」

Aは、様子を見にきた助監督さんに言った。

助監督さんは、あわてて監督のところへ走った。

ま、待って‼️…何を言い出すの?

そんな事を監督さんの耳に入れるなんて、Mちゃんのこれからの可能性を潰してしまうようなものじゃない💦💦

「本当のことだもの‼️」

"騒ぎ過ぎたかな?💦"

Aも、少し焦っている様子だった。

「Mちゃん、大丈夫だからね。監督さんに『自信が無い』とか言っちゃだめだよ!Mちゃんは、絶対できる‼️」

そういえは、『泣き叫ぶ』ほどでは無いが『動物』や『赤ちゃん』を演じるというレッスンをした。

「ワンワン❗」

「にゃ~お~」

「おぎゃー!おぎゃー!」

これ、意外に出来ないんです。

まず、恥じらいが邪魔をします。

そして、四つん這いになってやたらと元気に走り回る(←犬)…とか、クネクネと腰を振って妖艶?に歩く(←猫)仰向けに寝て、手足を縮めて泣く(←赤ちゃん)…ふだん、よ~く見てるけど、イザ演じるとなると、なんか思うようには行かないんです。

やっぱり、いい大人になると、恥ずかしい…というのが邪魔をするので、『成りきれない』んですよね。

もちろん、その時、Mちゃんも出来なくてすごく悩んだ。

Mちゃんは、『躾』の厳しそうな厳格なおばあさまに育てられているから、余計に苦労したんでしょうね。

だけど、何度も何度もチャレンジして、やっと先生からOKをもらった。

「赤ちゃんになる…っていうレッスンの時、Mちゃん、頑張って頑張って、なんとか出来たよね。泣き叫ぶのだって、あれと、同じだよ。あれをやればいいんだよ。大丈夫、大丈夫❗」


「Mさん、監督さんが呼んでます」








あの頃(現場)6

2020-05-14 05:49:52 | 日記
「そんな事も出来ないなんて、ここに居る資格無いよ❗」

キレ気味に大きな声を出したA。

「ここで、大きな声を出さないで💦」

私もあわててしまいました。

「大丈夫ですか?」

たまたま様子を見にきた助監督さんが心配して声を掛けてくれました。

「あ、大丈夫です」

「Mが、悲鳴をあげる演技が出来ないんだそうですよ」

突然、Aは、助監督さんに説明しはじめた。

「あ、そんなことないです!大丈夫です」

私は、必死でフォローしましたが、Aは、水を得た魚のように捲し立てます。

「さっきから、自信が無い…と、泣いてます」

「え?そうなんですか?ちょっと待ってください。監督に相談してみます」

泣いてたのは、自信が無いからじゃない…、Aが私を口撃しはじめたから、この空気に耐えられなくてだ…。

助監督さんは、あわてて監督のところへ向かった。

「Mちゃんは、自信が無いとは言ったけど、出来ないことは無いと思うよ!あんな事を助監督さんに言ったら、事がおおごとになっちゃう💦💦」

私は、Aを責めた。

「…だって、出来ない…でしょ?私は嘘ついてないよ」

さすがに、Aも、騒ぎ立てたことを、少し後悔しているようだ…。







あの頃(現場)5

2020-05-13 04:24:58 | 日記
その日の現場は、待ち時間が長かった。

Mちゃんは、ここのところ、『お○ん』で活躍中なので、その現場では、すでに、『いい役』を用意されていました。

それを知ったAは、ショックだったのか、ずっと無口。

だけど、素朴Mちゃんが苦手なサスペンスですから、台本を読んだMちゃんは

「どうしよう…」

と、戸惑っていました。

Mちゃんの出番は、そんなに多くはありませんでしたが、わりと重要で、しかもなんと、『悲鳴』と『泣き叫ぶ』と、言うト書きが…。

『悲鳴』や『泣き叫ぶ』は、Mちゃんが最も苦手とするものでした。

実はMちゃん、ある老舗の和菓子屋さんのお嬢さん。
一度お店に行ったことあるけど、穏やかなおとうさんとおかあさんと、厳格そうなおばあさま。
…悲鳴をあげたり、泣き叫んだりするにはとても程遠い環境です。

演劇をする…にあたっては、
生まれ育った環境も影響されますよね。

ちなみに、その頃の私たちを指導してくださる先生のひとりに、後にある有名な事務所の代表となる先生が居たのですが、

その先生は、『接客業はするな❗』が口癖でした。

接客業をすると、どんな時も笑顔で、怒りを押さえ込んでしまうから…だそうです。

だけど、接客業でアルバイトをしている…という教え子が多かったと思います。

老舗の和菓子店で育ったなら、究極の笑顔対応の環境ですよね。

最初は、『接客業はするな❗』なんて、無茶苦茶な…💦💦

…と、思いましたが、こんな事を言ってたんだなぁ…と、あらためて思いました。



眉間にシワを寄せて、台本とにらめっこのMちゃん。

Aと私も台本をもらい、配役もされましたが、あまり感情をあらわにする役柄では無かったので、
『役作り』で悩むMちゃんが羨ましかったと思います。

「…どうしよう…。アンコなら、こういう役、上手でしょうね」

こんな言葉がマズかった。

「アンコなら…」と、私を例えに出したものだから、Aがカチンと来たようで…。

「なんで、こんなことで悩むの?!こんなことも出来ないなんて、ここに居る資格無いよ‼」

Aの怒りスイッチを入れてしまった💦💦




あの頃(現場)4

2020-05-12 07:19:17 | 日記
素朴炸裂のMちゃんが、どんな作品に出演したのか…というと、『お○ん』というドラマです。

彼女のイメージは、そのドラマにぴったりでした。

その後も、Mちゃんは、素朴さを必要とされる作品に呼ばれたらしいですが、なぜか同じタイミングでAも呼ばれる。

AとMちゃんが、仲良くなったのか…と言うと、そうでもなく、Aは、事あるごとに、『ぶりっこM』と、周りに言っていたらしいです。

ある日、Mちゃんと、私とAが、ある現場に呼ばれた。

Mちゃんは、相変わらず素朴なまま…。

「『私はいいよ』なんて人は、この世界ではいらない❗」

と言うAの発言は、なくなりましたが、相変わらずMちゃん攻撃が続いていました。

この"ある現場"は、サスペンス。

素朴派のMちゃんには、かなりの苦手分野。

サスペンスと言えば、感情あらわに、叫んだり泣いたり…というイメージがあるものですから…。

その点、感情表現が上手いAには、得意分野。

また、ひと騒動あるんじゃないか…と、私も不安。

今日は、大人なUもいないので、不安でした。