山道を散歩していると、まだまだ雪が残っている。
日差しは温かいが、東側、北側には、雪が溶けずに残っている。
イルカの「名残り雪」のメロディが頭に浮かぶ。
島崎藤村の「千曲川旅情の歌」の「緑なすはこべは萌えず 若草も籍(し)く
によしなし しろがねの衾( ふすま)の岡辺(おかべ) 日に溶けて淡雪流る
あたゝかき光はあれど ・・」の一節がぴったりだ。
震災の被災地では、未だ時々雪が舞うようだ。寒さが身に染みるだろう。おまけ
に余震である。曲や詩どころではない。
地震ではないが、伊勢湾台風のおりのことを思い出す。轟々と唸る風速70mの
風の中、押し寄せた高潮に、胸まで水に浸かり、隣の家に避難。風に揺れる家の
窓を必死で押さえて一夜を明かし、白み始めた空の下に我が家の屋根が残ってい
たときの安堵感、同時に家の内外に押し寄せた材木などの浮遊物に一瞬茫然となっ
た。
津波の被害はあの何十倍だろうが、少しは似ているかもしれない。しかし若さは
武器だ。高校生だった私はそんな中でも不安は感じなかった。それから2週間、
学校へ行くより、すぐ復旧作業に取り掛かった。二日目から兄貴の友人が訪ねて
きてくれ、激励してくれた。蝋燭の光の中で、ギターを弾き、歌を唄った。浸水
で使えなくなった畳や、布団を運び出し、溝の中に入り込んだ魚と遊んだ。
家族の中で、兄と親父は帰宅できず3日間は男は私だけだったので、これをきっ
かけに大人として自立できたように思う。
被災地ではこれから復興が始まる。ただ年配の方が多いのが気がかりだ。
就職できない若者が全国に大勢いる。組織的に継続的に復興に力を貸せないのだ
ろうか。