弁護士太田宏美の公式ブログ

正しい裁判を得るために

判事ディード 法の聖域 第16話 真実の闇

2011年07月04日 | 判事ディード 法の聖域

第16話は真実の闇(DEFENSE  OF  REALM)です。
今回も法廷は大荒れです。
イアンはどうしてもディードを辞めさせたいということで、前回の
「他人を守る罪」での原告との関係を持ちだします。
相手は判事なので、明確な証拠がなければ、動きません。モンティが、
女性が官舎から朝帰りしていたのを目撃したという奥さんの証言だけでは弱い
というのはそういうことです。ただ、みんなディードの行動には
にがにがしく思っているので、結局、同僚のジャッジ達の意見だということで、
ディードを現場から外し、2週間ほどワーウィックでの研修に講師として派遣させます。
ディードとしては選択肢はなく、モンティやニヴァンに説得されて、島流しです。

今回こそは、さすがのディードも終わりかと思わせます。

ディードに代わってジョーがパートタイム判事として頑張ります。
パートタイムで、ほやほやですから、当然、簡単な窃盗事件が配点されます。
今回の事件は日本でいえば横領に当たるのではないかと思います
(一般的には横領は窃盗ほどは簡単ではありません)。
イギリスでは1968年に他人の財産の侵害に関する法律を整理し、
「THEFT ACT」を制定し、
どのようなものがTHEFTに該当するかを侵害の手段・方法等の態様に応じて
類型化しました。
セクション15は「Obtainig property by deception」
(詐欺手段により他人の財産を取得すること)、
セクション15Aは「Obtainig a money transfer by deception」
(詐欺手段によりmoney transfer をうけること)と定めているので、
そういう犯罪なのです。字幕で窃盗、横領、詐欺という字句がいろいろ出てきて
混乱しますが、日本語の字句にとらわれずに、
要は「Obtainig property by deception」と
「Obtainig a money transfer by deception」の犯罪だと
しっかりと頭に入れておいてください。

窃盗は本来はそれほど難しい裁判ではないのですが、
ここではdeception(詐欺手段)が要件ですから、そこが本来は争点です。

被害者のティム・リストフィールドは大実業・大富豪で、産業界に果たした功績で
サーの称号を付与された人物ですから400万ポンドという大金の被害に
直ぐに気がつかなかったとしても不思議ではないのです。
被告人のルーファス・バロンの言い分は、ティムはバイセクシュアルで
二人で将来一緒になるためにくれたとか、
離婚騒動中の奥さんから財産を隠すためというのですが、これは怪しいですね。
弁護人のカントウエルも実際は被告人のいいわけが本当だとは
思っていないようでした。
ですから、パープルのベン判事が「evidence is straightforward」
(証拠ははっきりしている)というのは尤もなのです。
ですから、ジョーが形どおりの訴訟指揮をすれば、
おそらく簡単に被告人有罪になったはずです。

問題は、ジョーはディードの教え子です。
被告人の言い分に理由がありそうなら徹底的に証拠調べをするという
姿勢です。真実が隠されていると思うと(ディードはこの嗅覚がするどいのです)
それを暴きたいという欲求が凄いのです。
それが被告人のためになるという考えです。

ところで、被害の440万ポンドにはどうやら2種類あるらしいことに
気付きますね。
被害者のサー・リストフィールドも370万ポンドも盗られてという言い方を
法廷外でニールにはしています。
つまり、70万ポンドと370万ポンドです。
370万ポンドはサー・リストフィールドのサインのようで
(本人は覚えていない)、money transfer のようです。
被告人の口座に移し替えられ、その後、スペインに別荘を購入したり、
ポルシェを購入したり、ペアウオッチを買ったりなど贅沢三昧です。
70万ポンドは30万ポンドと40万ポンドの2通の小切手です。
サー・リストフィールドの署名は被告人が書いたことは問題がありません。
被告人はサー・リストフィールドに頼まれて署名を代行したというのですが、
起訴事実では被告人が勝手に偽造したことになっています。

被告人の代理人のカントウエルですが、彼は優秀な弁護士です。
優秀な弁護士というのは、一筋縄ではいかず、癖があり、嫌味な感じがします。
少なくともお人好しではありません。
カントウエルとジョーやディードとの関係ですが、
少なくとも悪くはありません。あるいは、カントウエルは巧妙で、
判事の性格を見抜き、うまく立ち回っている可能性もあります。
依頼者のために最大限の弁護をしているように見えます。
裁判官がジョーだとわかったときのカントウエルの表情は、
カントウエルが何かを感じたことを表しています。
その後の訴訟活動から、ジョーの性格をうまーく利用していることがわかります。
ベン判事も被告人側に甘いのではないかと(take advantage )と注意しています。
それに対してジョーは「でも真実発見のためには」というような説明をしています。
きっと「真実発見」というのがキーワードかもしれません。

カントウエルは70万ポンドが勝負とみていますね。
これは現金化しているので、何のための金かの説明がつかなかったら、
被告人がTHEFTした(日本的発想では横領かな)という心証を
陪審員に持たせてしまいます。
それで、裁判所内の拘置所で被告人に執拗に問いただすのです。
しかし、被告人からはいい返事がないので、
カントウエルは弁護士として出来ることをやることにしたのです。
同様な小切手での処理が他にあることの調査をジョーに求めるのです。
形通りの裁判であれば、必要ないとなるのですが、ジョーですから、
当然認めるわけです。17通?もあったのです。
最初はカントウエルも企業文化だと言っています。

10年の懲役もあると説得されて、とうとう被告人も賄賂の資金だと告白します。
爆弾発言ですから、例によって裁判官室で協議します。
その結果、検察側は、取下げ、弁護側も大喜びでした。
ところが、アシスタント役で横に座ったディードは認めません。
裁判は続行です。
弁護側はここで一気に攻勢をかけます。
サー・リストフィールドを厳しく反対尋問しますが当然否認です。

被告人に尋問させ、賄賂の詳細を証言させます。
見返りとして、本来の代金の2倍、3倍が税金の中から支払われる
仕組みを証言します。陪審員としては、サー・リストフィールドは許せない、
利用された被告人は可哀そうとなるわけです。やっぱり無罪でした。

最後のカウントウエルと被告人の会話―同性愛なんて嘘なんだろう、
それなら財産隠しは? そのうち財産を返せという裁判を起こされる、
そうなったら弁護してあげるなどーの発言から実際はTHEFTだったと
言っているわけです。種明かしのようなものです。
そして、カウントウエルの今度は「現金でね」といわせていますが、
これがカウントウエルなんです。

さて、ジョーの被告人寄りの訴訟指揮については、
サー・リストフィールド側(内務大臣も含む)から明らかな脅し
(南アフリカに行ったマイケルに危害を加える、不審電話、誘拐など)があります。
またイアンからベン判事を経由しての干渉もあります。
賄賂の暴露を恐れたものだったのです。

ディード判事に女性にからむ問題行動があることは事実です。
しかし、イアンたちがディード排除を執拗に狙うのは、
政治活動内の腐敗が暴かれることを防止するためなのです。
内務大臣のニールは7000万ポンドの男といわれている(ジョージによる)
のは、こうして危険を冒して地位と金を手にいれたからというのが
ディードの考えなのです。
内務大臣の職務権限からイアンは大臣の圧力に弱いという事情があるのです。

なお、この事件はサー・リストフィールド側の告訴から始まったものと
推測します。
おそらく、被告人は賄賂の資金ねん出のために協力をしているので、
それが世間に知られることを恐れ少々の着服では事件を表ざたにしないと
甘く見ていた可能性はあります。少々ならよかったのでしょうが、
370万ポンドにもなればサー・リストフィールドも無視できない、
金が惜しくなったのでしょう。
そして賄賂など知らない警察は、簡単に勝てるとみて、
起訴することにしたのだと思います。
サー・リストフィールドも本当は370万ポンドですから、最初から
そうすべきだったのでしょうが、後の70万ポンドについては
説明がしにくいので、事情を知らない警察が行きがかり上、
一緒にしたのではと推測します。

今回はディードは裏方だったにもかかわらず、
ディードの本質をはっきりと視聴者に見せることができました。
ジョーが脅しに負けそうになります。
ディードがいなければ、負けたはずです。
ここではジョーは普通の裁判官の象徴かもしれません。
そのジョーが誘拐され脅されたという事実もきちんと捉えたうえで
(他の人は妄想だと見ているようです)、ジョーを叱咤激励しています。

賄賂の件がわかって判事室で関係者が集まって協議する場面がありますが、
おそらく普通ならここでダウンしてしまいます。
でもディードは賄賂の受け取り手の名前もはっきりと言わせます。
ディードは満足そうにほくそ笑んでいました。
また、法廷で、裁判中止を求める検察側に対し、これを拒否し、
続行を決めるなど、つぎつぎと難しい決断を迫られる場面があります。
ジョーは放心状態で何もできないときに、ジョーを思いやりながらも、
また難しい方を選択します。

ディードは女性関係ではだらしないかもしれませんが、
正義を果たすという使命がいかに厳しく、また頼もしいものかを
みんなに知らせてくれたと思います。
ディードが戦っているのは、政府(Government)だということ、
政治の司法に対する干渉だということを、モンティも目の前でみたのです。
だから、最後に気をつけるようにとわざわざ言葉をかけています。
ディードが弱みにもかかわらず、辞めずにすんでいるのは、
正義のために徹底的に戦っているからだと思います。

REALM というのはエギィゼクティブ(政府)のことだったように思います。
やはり司法は国民のためにあるのであり、三権分立、
互いに牽制しあうことが大事だと、ディードは研修で持論を展開しています。
国民が政治家を選んだんだから、という質問には、国民の政治に対する
無関心で政治家が好きなようにすると国民の無関心を嘆いています。
だからこそ、三権分立が重要だともいっています。
この辺りは、最近の日本政治状況をみると、身につまされる思いがします。

私自身聞き取れない言葉がいっぱいですが、すっきりとしないことあるのは、
制度の違いであり、翻訳が難しいことがあります。
しかし、明らかに誤訳とおもわれるところもあります。

たとえば、初めのころのロード・チャニングがイアンに頼まれ
ディードにFellow Judgeたちが辞任を求めていることを伝える場面で、
ディードが「Take council ‘s advice」というのを「従いますよ」
としていましたが、これは「弁護士に相談してみますよ」ということです。
ですから、その後直ぐにジョーの事務所に行っているのです。

「法務官」というのもおかしいと思いました。詳しくは忘れましたが、
ジョーの裁判官としての評価の部分だったとおもうのですが、
Benchというのは裁判官のことBarというのは弁護士のことです。
また、ジョーは裁判官といっても正式にはRecorderという職名です。
法務官というのはあり得ません。

また、一番気になったのがサー・リストフィールドのことを
原告と訳していることです。原告が出てくるのは民事裁判です。
お金が絡んでいるので、民事もあり得ます。
現にサー・リストフィールドは370万ポンドを取り戻したいようですから。
しかし、日本でもよくあることですが、民事狙いではあっても、
刑事告訴からスタートすることはあるのです。
民事は示談で解決するというわけです。
何度も原告という言い方が出てくるので、しっかりと見ましたが、刑事裁判です。
刑事裁判では「原告」はないので、英語ではどうなっているか、
しっかり聞きましたがサー・リストフィールドと名前を言っています。
民事では原告は「Claimant」です。
15話で関係した女性についてはクレイマントと言っています。

実際、サー・リストフィールドは裁判の当事者ではないので、
70万ポンド(これは被告人が現金化したものを
サー・リストフィールドに渡しているのです)の使い道については
サー・リストフィールドは「not  on trial」なので、
そこまで明らかにする必要がないとして、何回も出てきているのです。
本人も自分はvictim(被害者)だと言っています。
ですから、名前を使いたくないなら「被害者」と翻訳すべきものです。

今回のドラマはかなり違ったストーリー展開になっており、ますます今後が楽しみです。