第15話は他人を守る罪(IN Defence of Others)です。
レイプや幼児に対する性的犯罪と養子縁組が絡み合った展開です。
幼児性愛症者を殺したアラン・ファールズの弁護をジョーがします。担当は
ディード判事です。
ジョーはマイケルを養子に迎えるための試験期間を過ごしています。
仕事はセーブ中ですが、被告人のアラン・ファールズがどうしてもというので
弁護を引き受けることにしましたが、有罪を認めるしかないとの考えでした。
もう一件の刑事事件はモンティ・エヴェラード判事担当で13歳の少年が先生を
レイプしたという事件です。これは直接ディードとは関係ないのですが、
実はこの少年(ポール・ローレンス)の養母が養子縁組委員会を相手取って起こしている
予備審査がディードの担当なのです。
この少年、不良少年だったのです。養親の10歳の女の子にも性的暴行をし、
養親の家庭をめちゃめちゃに破壊してしまったのです。
養母のハースト夫人は養子縁組前に委員会が養子のポールが家族に破壊的な結果を
もたらすことが予測できたにも関わらず、十分な情報を公開しなかったとして
委員会の責任を争っている事件です。これまでにも2回申立をしていますが、
いずれも却下されています。
この事件の委員会の代理人はジョージです。
担当職員はジョーとマイケルの養子縁組の担当のトレイダウェイでした。
これと絡んで、マイケルの実父が急に南アフリカから出てきます。
いないと思っていた実の父親が現れた以上、ジョーとの養子縁組はどうなるのか?
ジョーは私生活でも問題を抱えることになります。
アラン・ファールズの殺人事件ですが、
彼は7年の刑に服し、後1日で終了というときに、別の囚人のベイリスを殺害したのです。
刑務所内ですから、殺害の一部始終を撮影したCCTVがあるので、殺害の事実は
否定のしようがありません。
しかし、彼は無罪を主張するつもりです。
無罪を主張するには意思能力がなかったことを争うしかありませんが、
彼自身正気だったというのです。
無罪の根拠は何か?
実は被害者のベイリスは幼児性愛症者なのです。最低でも8回逮捕されていますが、
いずれも証拠なしで無罪となっています。今回の服役も、
メインの性犯罪は証拠なしで崩れましたが、証拠隠滅があったという司法妨害罪で
3か月の実刑になったのです。
アランの言い分は、ベイリンが社会に出れば、また必ず幼児に対する性犯罪をおかす
はずである、しかしベイリンは賢く捕まらない、だから、他人を守るために、殺すしかなかった
ので、無罪というものです。
専門的にいえば、他人を守るためであってもさし迫った危険の存在が必要ですが、
そのような危険があったとみるのは難しいです。
しかし、世間の風潮はといえば、性犯罪、特に幼児に対する性的暴行については
極めて厳しい見方です。
CSI(検察)ですら、MURDER(故意または重大な過失がある。終身刑のみ)ではなく、
MANSLAUGHTER(過失致死)で15年での交渉を望んでいます。
無罪を主張するということは、もし、認められない場合には、終身刑しかないので
大変危険です。殺害という事実は否定しようもないからです。
アランは頭がよく、服役中に法律の勉強をして、2つの単位をとったほどです。
ジョーに依頼したのも、ジョーが「囚人には、最良のあらゆる防御を受ける権利がある」
との持論を実行していることを調べてなのです。
ジョーのアドバイスも断り、無罪で戦うことにきめます。
決め手は、新聞が被害者であるベイリンのことを「モンスター(ばけもの)」と呼んでいる
ことから、素人の陪審員の判断に賭けることにしたのです。
ジョーもやるしかないということでしょう。やや問題のある訴訟行為をします。
アランは幼児性愛者と主張しますが、無罪になっているので、法律の世界では
あくまでも推測にすぎないことになります。
しかし、事実あったこととして質問の際に意見をいうなどし、ディードから撤回を注意
されたりしますが、しません。
また、最終弁論でも、これは言ってはいけないのですがと言いながら言います。
明らかに問題ですが、陪審員に印象づけるにはそれしかないわけです。
(検事、弁護士、判事が昼食をしながら、最終弁論の打合せをしています。
その席で、ディードは、他人のためにしたなどという弁論はしないでと言いますが、
ジョーはそれが本人の希望ですとやんわりと断り、検事役の弁護士は、
陪審員はこういう事件には敏感だからと懸念を表明し、でもディードは
陪審員も驚くほど常識を持っているからと楽観的です)
また、アラン本人もいわなければならないことは言います。
6月21日にアップロードした「EXACTING JUSTICE」もそうでしたが、
犯罪の動機となった、本人の受けた心の傷を語ることは、感動を呼ぶものなのです。
アランの言い分は、要は、法律や裁判が役割を果たせていないなら、自分がやるしかない
ではないかということでしょう。
しかし、現代社会というのは、私的制裁は認めない、そのかわりに国が代わって
司法の名の下に正義を行うシステムを作ったはずでした。
というものの、現実の世界では、システムが時代の流れについていけず、ある分野
では耐え難いほどの支障が生じていることは事実です。
こういう場合は、法律やその専門家は無力です。
むしろ一般人の素直な良識こそが力となり得るのです。
さて、アランですが、2歳のときに父親が精神的に病み、いなくなりました、
5歳のときに母親のボーイフレンドに性的虐待をうけました。
9歳のときにはじめて人に話しました。でも何もおこりません。
そのうち母親が薬物依存になり、施設にはいりました。
そこでも施設の職員から虐待を受けました。大人はみんなそうだと思うようになった。
そして自殺を考えるようになり、最後は精神病院入りとなった。
親切な人に会い救われた。
虐待した人を探し出し。告訴しました。
証拠がないということで、起訴されなかった。しかし、その人を攻撃したため、
殺人未遂で7年の実刑になった。悪いことをしたことは事実なので、軽減は断り
素直に刑に服した。
残りあと1日というところで、後数週間で出所するベイリンとあった。
出たらまた幼児に対する性的虐待をすることは確実である、
それを防止するために、ベルト代わりのワイヤーで絞め殺してしまったというのです。
検察側は、復讐ではないかと突っ込みますが、本人は子供たちに対する性的虐待を
防止するためと言い張ります。
検事役の弁護士は、陪審員に判断していもらいましょうと締めくくります。
アランはひとり喋ります。
性的虐待をうけるということは、心が死んでしまうということである(die inside)。
虐待を受けた子供は決して回復しない。
自分を心がなく薄よごれて愛情や尊敬にあたいしないと感じるようになってしまう、
というのです。
これからの人生、子供たちに虐待が起こらないようにしたい。
陪審員、あっという間に評決に達しました。全員一致の無罪です。
さすがのディードもこの評決には反対ですが、仕方ありません。
法律で割り切れないことがあることは事実です。
しかし、ここまでくると、いかがなものかという感じがします。
検察側の弁護士から法律じゃあり得ないよ、よくやったねと祝福されます。
アランは記者会見をもちますが、そこで、本音(復讐だったこと)が出てきます。
ジョーは苦々しい思いです。ディードがこれからは忙しくなるね、などと勝訴を祝福しますが、
ジョー自身は最悪の日だと苦り切っています。依頼者に騙された、利用されたという思いでしょうか。
話がそれるかもしれませんが、今回のアレンのような辛い体験をそのまま語ることは
陪審員だけでなく、専門の裁判官の心を動かすこともあるのです。
私も刑事事件の弁護で経験したことがあります。
素人の場合は、0か100かのような形で現れるという違いがあるのかもしれません。
さて、ハースト夫人の方ですが、養子のポールは合意を争っていましたが、有罪になりました。
当然でしょう。
刑事を担当したモンティもああいうワルを養子にするなど信じられないという意見です。
また、ディードが担当する予審でも、委員会側は、家族に深い悲しみをもたらすかもしれない
と警告しているのです。
ハースト夫人本人さえ、委員会側はポールを罰するかのように養子にさせないようにしていた
というのです。
そして、試験期間中にも、何をしでかすかわからない、一瞬たりとも目が離せない子だとわかり、
夫の方は養子に反対したというのですが、夫人が説得して養子にしたというのです。
実の娘が養子のポールの性的暴行を受けたことで家庭は崩壊し、離婚となったのです。
それでもハースト夫人はポールを見捨てることができず、
委員会に責任転嫁をしようとしているのです。
さて、またまたここで一大事です。
ジョーは突然現れたマイケルの実父マックにマイケルを引き渡すかどうかで、
忙しい殺人事件の合間を縫って、マック、マイケルとの時間も作り出しています。
ディードから電話があってもいつも留守電です。
ディードはジョーがマックに惹かれていくことに強い嫉妬心を抱きます。
ジョーと会えないことで寂しい思いもしています。
一人で食事をしているディードをみてハースト夫人が話しかけてきます。
最初は事件の原告と話すことはできないと断っていましたが、
女好きな本性に逆らず、とうとう官舎で一晩を過ごしてしまいます。
ディードは、どうしてあんな悪い子を養子にしたのとか、委員会に責任転嫁しても
何もかわらないなど、率直に話します。
ハースト夫人も自問自答するけれど、答えはわからないというのです。
自分の責任(一瞬よそ見をした瞬間に激突事故を起こし)で息子を死なせてしまった
後だったいうのです。
息子の死に責任がある自分を罰する、自己破滅願望かもしれないなどの話をします。
いずれにしろ、ディードに話を聞いてもらったことは良かったようです。
ディードはこのハーストの件については、棄却(却下)の裁決をしました。
養子縁組というのは、本当に難しいですね。
日本の場合は、親族間のことが多いようですが、
外国はむしろ他人のことが多いようです。
アンジェリナーとかマドンナなどアフリカやアジアの子供を養子にすることも多いです。
全く赤の他人となると将来どうなるかわからない、実の子だってどうなるかわからないのです、
また、ジョーのように急に実の親が現れるかもしれないのです。
おそらく、こういう問題は多いのではないかと推測します。
理屈ではない、感情の問題なのでしょう。
ですから、ハースト夫人も気持ちの整理がつかなくて何度も委員会を訴えているのでしょう。
(元夫や娘たちを訴えるわけにはいきませんし、ましてや養子のポール
を訴えるわけにはいきませんから)
ディードとイアンとの戦いはまだまだ継続しています。
ハースト夫人が朝帰りするところをモンティの奥さんが目撃しました。
モンティは同じハイコート判事として関わりを持ちたくないようですが、
モンティの奥さんはこういうどろどろがお好みですから、イアンを焚きつけます。
女の弁護士(ジョーのこと)のときは失敗したが、担当事件の当事者と
寝たのだから、今度こそはディードを破滅に追いやってやると鼻息荒いです。
イアンが直接対決しますが、例によってディードは尻尾を出しません。
マスコミに知れたら大変だと言われても、そちらが言わなきゃマスコミは知らないよ
などと、煙に巻くだけです。
モンティは表向きは関係ない、自分も奥さんも証人にはなれないと言いながら、
負けたハースト夫人に「事実を話せば勝てるよ」と言って説得すれば、証言する
かもねと、知恵を授けます。
例によってイアンの部下のジェームズが説得しますが、
ハースト夫人はディードが話を聞いてくれたことで整理がついており、
勝ち負けはどうでもよくなっています。
そして、養親子関係というのも奇妙なもので、親子関係には違いなく、親子としての
情もあるのです。不満がありながらも、何とかそれに対応しようとする気持ちが実の親子
同然にあるのです。
ハースト夫人はディードのアドバイスをうけ、前に進むことに決めたのです。
娘との関係修復をしながら、ポールも決して見捨てないと決めたのです。
またしても、イアンの画策は失敗しました。
おそらく、イギリス社会が抱えている深刻な問題の反映でしょう。
何が良い悪いと一刀両断的に切れるわけではありません。
人間は感情の動物です。
ただ、都合が悪いからと言って、目をそむけるのではなく、
こういう番組を通して、みんなが考える、その中から、ベターな解決策が
見つかっていくことになるのでしょう。
欠点を抱えたままのディードだからこそ共感を得られるのでしょう。
アランの関係部分を編集したものがインターネットでみつかりました。
ドラマの雰囲気も少しはわかるかもしれません。埋め込みで不可でした。