企業などに一定割合以上の障害者の雇用を義務づけている法定雇用率が、障害者の自立をめざす障害者雇用促進法の改正により4月に引き上げられる。現場のさまざまな取り組みが功を奏し、県内企業の雇用者数は過去最高を更新。関係者はさらなる雇用の拡大をめざすが、現状には課題もあり、雇用拡大には障害者本人や家族、企業を支援する体制の拡充も必要そうだ。
6日、岐阜市にある岐阜産業会館に企業など52社のブースが並んだ。岐阜、西濃地域合同の障害者向けの合同面接会だ。参加者約160人は真剣な表情で人事担当者らの話を聞いた。
昨年末、岐阜労働局がその年の障害者の雇用状況(6月1日現在)を公表。県内企業の雇用数は5733人と過去最高で、雇用率も2・02%と全国平均の1・97%を上回った。法定雇用率を達成した企業の割合58・4%も前年を超えた。ただ、同労働局職業対策課の担当者は「達成は大企業によるところも大きい。中小企業に対しての働きかけが必要だ」と指摘する。
同労働局は昨年末、50人以上の県内全1437社のうち、障害者を未採用の366社に初めてアンケートを実施。回答には「社内に働ける職域がない」「人事フォローできる体制がない」といったものも多く、企業の努力だけでの解決は難しい一面も垣間見える。労働局やハローワークが中心になり、企業内で障害者を支援する社員の養成講座を開くなどして、採用企業をさらに増やそうとしている。
好調な数字は現場の採用にも表れている。寝具製造などを手がけ、障害者を多く雇用している第三セクター「サン・シング東海」(大野町)の今井正聡常務は「求人を出しても、人材の奪い合いで、うちが新規に採用するのはなかなか難しくなっている」と話す。
ただ、関係者の多くは、数字は結果論で、安定した就業に向け、状況が異なる一人ひとりに寄り添う体制が重要だと訴える。
県立海津特別支援学校(海津市)は昨年、普段の生徒と接することで障害者への理解を深めてもらおうと、地域にある企業の社員研修を学校で開いた。ハローワークなどと連携し、地元企業に教師が出向いて就職先を開拓するといった地道な努力も続けている。こうした現場の取り組みは、障害者が職場に定着することで、より安定した生活につなげるのが目的だ。
一方、就職の前後に障害者を継続的に支援する仕組みもある。同法に基づいて設置され、就業部分は国、生活支援部分は各都道府県が委託して社会福祉法人などが運営する「障害者就業・生活支援センター」だ。県内には6カ所あり、西濃地域センターの山下美智恵所長は「障害者としてではなく、人材として送り出すことが大切。本人や家族、企業のニーズを分析し、互いに信頼関係を築くことが定着への鍵」と話す。
とはいえ、同センターの職員は7人で、1人あたりが担当するのは60~70人。本人や企業などからの相談は、就職後も続く。今後、障害者の社会進出が進むのに伴い、支援を継続するには体制を拡充することが欠かせない。
そうした中、昨年4月、軽度の知的障害者が対象の県立岐阜清流高等特別支援学校が開校。同校は、卒業後も学校として元生徒らを見守る仕組みを設けた。障害者の支援体制を拡充する一環で、4月には大垣市にもこうした学校が開校予定だ。
障害者の雇用を取り巻く課題はほかにもある。離職率が高い傾向がある一方で、年々求職者が増えている精神障害者への取り組みだ。サン・シング東海の今井さんは「今や障害者は身近な存在。健常者もいつ同じ状況になるか分からない。ひとごとと捉えずに、社会全体で考えることが、課題解決の一歩ではないか」と話している。(古沢孝樹)
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〈障害者雇用と法定雇用率〉 1960年に制定された「身体障害者雇用促進法」が起源。87年に障害者の対象範囲を拡大し、「障害者雇用促進法」に改正。障害者が就業を通じて安定的に自立し、社会に参画することをめざす。同時に企業や自治体などに雇用義務を負わせ、従業員の割合に対して一定数の障害者を雇用する法定雇用率を規定した。一般企業では現行の2.0%は今年4月に2.2%に引き上げられ、さらに3年以内に2.3%となる。
障害者向けの合同面接会。企業のブースでは参加者が真剣な表情で採用担当者の話を聞いた
2018年2月11日 朝日新聞デジタル