私の引きこもりの息子は、東京大学院教授の林香里の「親ガチャ」が流行っている話はウソだという。9月30日の論壇時評の『親ガチャの運不運 諦めが覆う社会のひずみ』のことである。そんなものだろう。論壇はエリートの戯言の場であり、大学の先生の言うことはクソである。
本当に追い詰められている者は、戯言をいって諦めることなんてできない。怒りにつつまれたり、うつになったり、自殺したりする。社会は変えられるという政治意識をもたないと、人は、どこまでも落ちていく。
おととい、1カ月ぶりに、不登校の子が、私のいるNPOのフリースクルーに顔をだした。母親が行けと言うから来たと言う。私と一緒にいると勉強の能率が上がらないと彼は言う。それで、私は私の非力を彼に謝った。
中学3年生で、先日、高校が内定した子である。内定したのだから、心の余裕がでてきたのか、と思ったらそうでない。どん底まで落ち込んでいた。今度の高校で授業についていけないのでないか、と心配だから勉強しないといけないと言う。じつは、内定した高校は、中学校の授業についていけない子どもたちを集めた私立の高校である。自信を失った子どもたちや、知的にグレーゾンの子どもたちを集めて指導する学校である。熟練している教師のいる良質の学校で、みんながついてこれるように授業をする。
自分で勉強すること自体は悪いことではない。ところが、彼は、ひとりで勉強していると、覚えることができなかったり、問題が解けなかったりして、無性に自分に腹が立ってくるそうである。そうすると、自分を傷つけたくなるのだそうである。いつも、途中で勉強を続けられなくなるのだそうである。
自分にイライラするというのは、うつの入り口である。他人を責める人はうつにならない。本当は無理して勉強するのではなく休んだ方がよい。
ところが、高校の授業がついていけるかだけでなく、高校にはいって大学の進学の推薦をもらわないと、ブラック企業にしか就職できない、と彼は言う。高い給料をもらえないと言う。どこで、そんなことを思うようになったのだろうか。だいたい、高校に併設されている大学を卒業できたって、高い給料をもらえるのは難しいだろう。それに、心をわずらえば、普通に働くことさえ、できないだろう。
じつは勉強方法にも問題がある。考えずに覚えることに彼は専念している。単語帳で英単語を覚えようとしている。スペルがキチンと書けないといけないと言う。勉強は、脳に負担をかけないようにやらないと、心に余裕がなくなる。そこに、勉強のコツがある。
今年の1月に新しい大学入学の共通テストの英語は、英語を英語のまま理解し、問いに答えることを求めている。新しい共通テストは、英語を日本語に訳せよなんて、野暮なことを言っていない。文法の問題も出さない。強迫的な勉強をしていると、新しい教育のあり方にもついていけなくなる。英語教育は進歩している。
1カ月前はこれほどひどくなかった。これから、毎週きてもらって、すこしずつ、自分を追い込むことをやめてもらい、自分を愛せるようにしたい。彼に、「来週も来てくれるかな」と別れ際にお願いをした。
「親ガチャ」で言えば、その子は片親である。母親はその子が生まれる前に離婚したという。