猫じじいのブログ

子どもたちや若者や弱者のために役立てばと、人権、思想、宗教、政治、教育、科学、精神医学について、自分の考えを述べます。

あまりにも政治家が不真面目である、日本の新型コロナ感染対策

2021-04-20 23:05:20 | 新型コロナウイルス


新型コロナは第4波を迎えている。大阪は毎週過去最高の新規感染数をだしている。新型コロナの感染は全国に広がっている。日本全国の新規感染数はイギリスの新規感染数を越えた。

新型コロナのことを思うだけで無力感に襲われ、口にもしたくない。政府や政治家があまりにもウソと自分弁護だけで、政権交代しかないのに、マスコミは新型コロナの危険を煽るだけで、新型コロナ対策を正していないように見えるからだ。

今年の2月3日、特別措置法、感染症法、検疫法の改正が、自民・公明両党や立憲民主党、日本維新の会などの賛成多数で可決され、10日後の2月13日に施行された。この改正で何が新型コロナの「まん延」を防ぐに貢献したのか。

私には、政府が新型コロナ対策をやっているフリをするために改正したのにしか、思えない。

菅義偉は新型コロナのまん延が抑えきれていないのに、「GoToキャンペーン」を進めたことを国民に謝罪していない。それを後押しした公明党も「自分たちは誤っていた」と言い、態度を改めるべきである。

1月6日に始まった緊急事態宣言を3週間早く解除を要請したことに、大阪市長の吉村洋文は、反省の弁をしていない。別に謝罪しろとはいわないが、彼は何を教訓としたのか。

残念ながら、私の近所(横浜市の郊外)の中華料理店には「GoToイート」キャンペーンのクーポンが使えますと、1月の緊急事態宣言がまだ続く2月から、貼り紙がある。また、そのころから、晴れた土日の屋外は人出で にぎあっていた。4月のいまは、完全に、新型コロナ以前と変わらぬ人出になっている。

いっぽうで、NPOで子どもたちの相手をしていると、親たちから感染拡大の中いつまで開いているのかとか、リーモートにならないのかの問い合わせが相続いている。このコロナ感染を憂いている人が いっぱい いるのだ。

日本は、新型コロナまん延を心配する人と、人出が町にあふれないと景気が悪くなると思う人とに、分断が起きている。そして、「景気」優先がいつのまにか「通念(Conventional Wisdom)」になっている。しかし、「景気」というのはムードであって、緊急事態宣言の間も、経済の屋台は動いていた。農林水産業も製造業も普通どおりであった。

日本の労働人口のうち、宿泊業と飲食サービス業は5.9%しかない。したがって、時短しても他の産業から支援で、労働者を救える。あるいは、外国労働者がはいってこなくて困っている産業への転出をはかることもできる。

「経済」だという人はデータをあげて議論してほしい。感染対策をしながら「経済」を維持する筋道(strategy)を探してほしい。

菅政権が1月からの緊急事態を解除するとき、つぎの対策を述べていた。

 第1に、引き続き対策の中心となる飲食を通じた感染防止、
 第2に、変異株に関する監視体制の強化、
 第3に、感染拡大の予兆をつかむための戦略的な検査の実施、
 第4に、安全・迅速なワクチン接種、
 第5に、次の感染拡大に備えた医療体制の強化、

これはちゃんと実行したのか。第1については、時短を1時間もとに戻した。すなわち、自粛要請をゆるめたのである。第2、第3、第4、第5は守らなかった。なぜ、約束を守れなかったかの弁を私は聞いていない。第4は無理な約束で、私は期待していない。しかし、第2、第3、第5の約束は実行できることで、実行されなかったのは菅義偉の無能からきている。あるいは、約束を守るつもりがはじめからなかったのかもしれない。

もう1つ、気になることは、菅義偉をはじめとする政治家は、専門家を自分より低く見ているのではないか。先日、数理疫学者の西浦博は、医療や科学のアドバイザーを政府は置くべきだと言っていた。実際、政府は、多数の専門家を儀式に集めるだけで、会議の前に役人が結論を決めており、しかも、会議の終了前に、結論をマスコミに流す。専門家を完全にバカにしている。

会議には自由な発言が必要で、そこでの対話を通じて、合理的な対策が合意されることがだいじだ。そのためには、会議の参加者は多様性を確保するに必要最小限でよく、会議参加者は自分の意見を事前に公開し、その批判を理解したうえで、会議に参加し、闘わした討論の過程を政府は全公開する。動画で充分である。そこでの合意事項と、会議に参加できない専門家たちの意見とに、政府は敬意を払わなければならない。

ワクチンが、現実にはビジネスの対象であるから、欧米優先になるのはある程度しかたがない。しかし、欧米でワクチン接種が行き渡れば、日本に売り込むのは明らかである。だから、待てば、必ず、日本でのワクチン接種は行き渡る。それまでの間、政府はできることを誠実に実行すべきである。

ジョー・バイデンに菅義偉が押されっぱなしの日米共同声明

2021-04-18 23:34:55 | 日本の外交


けさ、日米首脳共同声明を読んで、あまりにも広範囲な事柄に言及しているのに驚いた。菅義偉は何に言及しているかわからずに、ジョー・バイデンに押しまくれたのではないか。事前に菅の意図していたことは、「日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを再確認」、「辺野古における普天間飛行場代替施設の建設」、「安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅総理の努力を支持」だけではないか、と感じた。

各新聞社は、日米首脳共同声明全文(日本語)を載せているが、これは日本政府外務省の仮訳をそのままのせたものである。英文が正式な声明である。

仮訳の「量子科学」とは“quantum information sciences”の訳である。日本社会では「量子計算」とか「量子情報科学」のいわれているものである。新しい高速コンピューターを可能にする技術と一般に期待されているが、個人的には私は信用していない。
また、仮訳の「地域的なサージ・キャパシティ」は“regional surge capacity”の訳である。これは「地域緊急医療体制(態勢)」のことである。
仮訳の「安全」は“security”の訳で、バイデンは「米国の軍事的防衛」だけでなく「米国産業の防衛」という意味を含めている。
「グローバル・デジタル連結性パートナーシップ」は“Global Digital Connectivity Partnership”の訳だが、何のことか私は知らない。

外務省の役人は、バイデンが何に言及しているのか、わかって、菅をサポートできたのだろうか。なにか、こころもとない。

ダニエル・L・エヴェレットは、『言語の起源 人類の最も偉大な発明』(白揚社)の第9章に、文化的背景が異なる集団が取引するときの誤解とそれにもとづく不信について書いている。具体的には、アメリカ先住民とアメリカ連邦政府との条約が生んだ悲劇である。

昨年の11月、「甘いもの好きでバイデンと菅がウマがあう」という番組構成にパックンが怒っていた。これは、トップの個人的友好関係で国と国との関係が動くと、アメリカの国民が考えていないということだ。

バイデンはたくさんのことをアメリカ国民に約束している。そして、日本と違い、当選したら、その約束を実行しようと努力する。少なくとも、彼の側近は実行しようと努力する。それは、トランプでも同じだった。

バイデンは「老いぼれ政治屋さん、やるじぁないの(Old Pol, New Tricks)」とコラムニストに言われるほど、老体に鞭打って、攻撃的になっている。

当然、バイデンは約束したことを共同声明に盛り込もうとする。それは、外務省の役人が予測できることであった。菅は、16日の共同声明で、あのように多くのことにコミットすべきではなかった。あとで、「共同声明」での多くのコミットメントが、日本の外交の足を引っ張るだろう。

バイデンは、中国を敵視している。これは、「自由と民主主義」の理念からだけでなく、アメリカ国民の経済的利益を守ろうとしている。これは、声明のつぎの言及からも裏付けられる。

《知的財産権の侵害、強制技術移転、過剰生産能力問題、貿易歪曲的な産業補助金の利用を含む、非市場的及びその他の不公正な貿易慣行に対処するため引き続き協力していく。》

《開かれた民主的な原則にのっとり、透明な貿易ルール及び規則並びに高い労働・環境基準によって支えられ、低炭素の未来と整合的な経済成長を生み出すだろう。》

この「高い労働・環境基準」は“high labor and environmental standards”の訳である。
バイデンは、民主党の昔ながらの基盤、産業労働者の支持を共和党から奪い返そうとして、これらを声明に含めた。そして、これらは、将来、日本の経済政策を砲撃する弾となる。1980年代の日米経済摩擦を思い起こせばわかることだ。

また、「在日米軍駐留経費負担に関する有意義な多年度の合意」「世界貿易機関(WTO)改革」「世界保健機関(WHO)を改革」「新型コロナウイルスの起源(の検証)」まで、菅はコミットしている。

菅首相は、アメリカの大統領となにを取引すべきか、わかっていないようである。

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政府のトリチウム汚染水の海洋放出を科学的・技術的・倫理的にメディアは検証せよ

2021-04-17 23:10:55 | 原発を考える


メディアは、いま、トリチウム汚染水の海洋放出を当然のことかのよう受け止め、反対するものは頭がおかしいかのように、あらぬ風評を流す者かのように、報道している。16日のTBSテレビ『ひるおび』もひどかった。

朝日新聞でも、海洋放出について、16日の言及記事は1件(30面の社会面)、17日は2件(7面の経済面)しかない。それも、不評被害についての言及にすぎない。紙面はコロナ、コロナで埋め尽くされている。

海洋放出の問題は、科学に無知な人たちが騒ぐことで起きる問題なのか。

トリチウム汚染水の海洋放出は、まず自然環境破壊である。

放射能汚染というと、必ず自然界に放射線をだす物質があるという者が現れる。放射線をだすということは、放射性物質が自然に崩壊する不安定な物質ということで、人工的に作らなければ、自然界にほとんど存在しえない。

放射性物質の量は、ベクレル(Bq)という単位ではかる。これは1秒に1個、放射性元素の原子核が崩壊するということである。

トリチウム(三重水素)は、半減期が約4500日であり、つねに生成されなければ、自然界に存在できない。大気上層で窒素原子や酸素原子が宇宙線を浴びて微量ながら常にできている。そのために、自然界にある水素原子のうち、その百兆分の1がトリチウムであると推定されている。

これは、水1リットルにつき0.118ベクレルのトリチウムが自然界にあることを意味する。今回のトリチウムの海洋放出基準では、1リットルにつき1500ベクレルと言っているから、その1万倍以上になっている。

さて、第2次世界大戦後、大気圏内原爆水爆実験をするものだから、大気のトリチウムの濃度が、一時、自然の濃度の200倍になった。私の子ども時代、町の人びとはガンになるから雨にあたらないようにとささやきあっていた。

1963年に米ソ英が大気圏内核実験停止条約を結ぶことで、トリチウム濃度がさがってきた。ところが、この下がりがこの30年間鈍ってきている。これは原子力発電がトリチウムに放出しているからと推定される。

トリチウム海洋放出は自然環境を破壊するのである。

原爆水爆実験でも原子力発電でも、核分裂連鎖反応が起きているから、水素原子がその中性子を2個吸いとってトリチウムができる。

今回、東電と政府は世界中の原発で大量のトリチウムを放出していると主張する。原発ではそのトリチウムが外にでないよう設計されているはずだ。原発のトリチウムの生産量と海洋放出のトリチウム量とは違うはずだと思う。ネットで、現在の海洋放出の量を調べようとしたが、文献が見つからない。メディアは政府の出す資料に基づき報道するのではなく、その信ぴょう性を独自に調べて欲しい。

それに他国が自然界にトリチウムを放出しているからといって、日本がトリチウムを放出すればよいというのは、倫理的に問題である。

また、排水基準と飲料水基準とは異なる。EUの基準は1リットルあたり100ベクレルである。したがって、海洋放出の排水基準の1リットルあたり1500ベクレルのトリチウム水を飲んではいけない。

また濃度と総量とを混同してはいけない。復興庁の動画が、1リットル当たり1500ベクレルは、大人の体内に数十ベクレルとたいした差がないように、いっていたが、前者は濃度であり、後者は総量である。復興庁の論理では、クジラの体内のトリチウム総量と1500ベクレルと比較して、基準は「安全で安心」ということになる。あくまで、水1リットルあたり0.118ベクレルと比較すべきである。

つぎに、政府は、年に22兆ベクレルのトリチウムを海洋に放出するというが、その大きさが問題である。

海洋放出の基準、1リットルあたり1500リットルから計算すると、1日あたり4万トンのトリチウム水を放出することになる。排水基準に達するために、平均500分の1にトリチウム処理水を薄めると政府がいっているが、すると、放出の汚染水とほぼ同量の海水を汲み上げることになる。これを30年から40年続けるというが、現実的なのだろうか。その間に津波が来ることになる。放出したトリチウム水を再び汲み上げることがないようにしないといけない。メディアはこの現実性を検証すべきである。

さらに、政府は原子炉建屋内にどれだけのトリチウムが存在する推定しているのか。5年前にその推定値が出されているが、今回はそれなしに30年から40年と政府はいっている。新しいトリチウムの生成は本当にないのか。それから、ALPSで処理するうちに消えている多量の水があるようだが、第3者がはいって調査する必要がないのか。

最後に私がわからないのは、どうして地下水の原子炉建屋に流れ込まないようにしないのかということである。地下水の流れ込みがなければ、循環型でデブリを冷却できる。汚染水そのものが発生しないのである。

2014年か2015年に安上がりだからといって東電は凍土壁をつくった。しかし、実際には、凍土壁完成後も、地下水が140トン流れ込んでいる。凍土壁は失敗だったから、防水をほどこしたコンクリート壁で原子炉を囲めばよい。地震が起きる前は、原子炉建屋に地下水が流れ込まなかったのだから、コンクリート壁は凍土より有効である。

汚染水が発生しないという方策をコストの面から避け、風評被害の対策をとるから、海洋放出するとは、おかしい。何か、科学技術の問題を精神論の問題に、政府はすり替えている。メディアまで、政府の精神論に乗っかるのではなく、ちゃんと政府のいうことは、科学的か、技術的裏付けがあるのかを検証すべきである。そして、倫理の問題として、国民に判断を求めないといけない。

けさのモーリーン・ダウドのコラム『古ぼけたジョーの…』が面白い

2021-04-16 22:51:56 | 社会時評

けさの朝日新聞の⦅コラムニストの眼⦆が面白い。ピューリッツァー賞を受賞している67歳のコラムニスト、モーリーン・ダウド(Maureen Dowd)の『オバマ政権への皮肉 「古ぼけた」ジョーの進歩性』が面白い。3月20日のニュヨークタイムズのコラム“Old Pol, New Tricks/ Biden’s got the buzz. Who’s smirking now?”の翻訳である。

“pol”は政治家(politician)の蔑称である。“old”をつけることで、「憎めないおいぼれの」というニュアンスがつく。日本社会と違い、アメリカ社会では老人は権威をもたない。老人は、哀れな生き物だが、みんなにとって何か懐かしい存在なのだ。

“New Tricks” の意味が 私には わからなかったが、BBC Oneの有名な刑事もの番組のタイトルなのだそうだ。ウィキペデイアを見ると、「ロンドン警視庁の女性警視サンドラは、未解決事件捜査専門の新設部署ユーコス(UCOS)を率いることになる。チームメンバーは皆退職した元刑事。個性的なメンバーがそれぞれの持ち味を生かし、次々と難事件を解決していく」とある。

日本では、CS衛星放送AXNミステリーで、『ニュー・トリックス~退職デカの事件簿~』のタイトルで放映されている。 

さらに、“You can't teach an old dog new tricks”と言う諺がもともとあり、これは「もう歳だから新しい芸を教えるのは無理じゃない?」という意味だ。

したがって、このコラムのタイトル“Old Pol, New Tricks”は「老いぼれ政治屋 やるんじゃない」という意味だ。まあ、かなりキツイ言い方だが。

モーリーン・ダウドによると、老練な政治家といわれていたジョー・バイデンは、オバマ政権の時代、副大統領であったのにもかかわらず、オバマ大統領の側近にバカにされ、仕事の場が与えられなかった。

《(バイデン氏は)ちょっとまぬけでおしゃべりだった。時代遅れで、要はさえない人物だったのだ。》

《オバマ大統領が同性婚への支持を決めかねていたのに、バイデン氏が討論番組でうっかり支持を表明してしまい、オバマ氏の側近が激怒した。彼らは匿名で記者たちに対してバイデン氏を酷評し、会議から締め出し、一部の国内メディアへの出演を禁じた。》

ところが、急進的な政策を行うと期待されたオバマは、大統領になったら、控えめなことしかしなかった。そして、何もできない、何もしないと思われて大統領になったバイデンが、いま、急進的な政策をかかげ、それを実行しているんじゃないか、というのが、このコラムの趣旨である。

《古ぼけて時代遅れのバイデン氏は、素早く動き、さまざまな問題を打破した。洗練され、現代的なオバマ氏が議事を妨害する共和党と協力しようとし続けたのとは違い、バイデン氏は「たやすい選択だ」と言って、彼らを追い払った。》

さて、BBCの刑事もの番組からすると、この「老いぼれ政治屋(犬)」を率いて活躍する女性がいることになる。だれのことだろう。

[補遺]
朝日新聞の翻訳は、モーリーン・ダウドの原文をかなり飛ばして、短くしているので、アメリカ政治のどぎつさが伝わらなくなっている。原文はニューヨクタイムズのサイトで無料で読める。

トリチウム水の海洋放出は科学的な決断で全くない

2021-04-15 22:41:24 | 原発を考える


きのうのBS日テレ『深層NEWS』のトリチウム水海洋放出の座談会で、菅義偉の海洋放出の決定過程に批判は出てきたが、海洋放出そのものについて議論されなかった。ここでは、海洋放出にまつわる諸問題について科学的に考えてみたい。

ここで、考察するのは(1)放出基準は自然界にあるトリチウムの濃度とそれほど変わらないのか、(2)海洋放出される希釈されたトリチウム水は飲んで大丈夫なのか、(3)一体どれだけの量のトリチウム水をいつまで海洋放出するのか、(4)本当に海洋放出しかないのか、である。

トリチウム(三重水素)の半減期は約4,500日と短いので、自然にはほとんど存在しない。大気上層で窒素原子や酸素原子に宇宙線があたることで生成されるトリチウムとその自然崩壊との釣り合いで、地表にトリチウムが水素原子のおおよそ100兆分の1の割合であると推定されている。この値を水に適用すると、1リットルあたり0.118ベクレルとなる。

今回、政府がトリチウム水を希釈して海洋に放出するといっているのは、1リットルあたり1,500ベクレルにして放出するといっているのだ。したがって、自然界に存在するトリチウム濃度の1万3千倍のトリチウムを海洋に放出することになる。

☆ 今回の海洋放出基準1,500ベクレルは決して小さな量ではない!

大気中のトリチウム濃度は、原爆や水爆実験による大気汚染の状況をモニターするために、継続的に観測されてきた。米英ソによる大気圏内核実験停止条約が結ばれる1963年には、自然に存在するトリチウム濃度の200倍以上になっていた。大気圏内核実験をやめることで現在5倍程度に下がっている。しかし、30年前からその下がり方が、トリチウムの半減期から考えられるより、ずっとなだらかになっている。これは、新たなトリチウム発生源が出てきたからと考えられている。

☆ 全世界の原発がトリチウムを放出して大気汚染を起こしている!

ほかの原発が海洋にトリチウムを放出しているからといって、福島第1原発の事故処理でも、海洋に放出していいわけではない。地球の自然環境を守るためにも、トリチウムを海洋に放出してはいけない。

おととい、閣僚の麻生太郎は、「中国やら韓国やらが海に放出しているのと同じもの以下ですから、科学的根拠に基づいて、もうちょっと早くやったらと僕は思ってましたけど、いずれにしてもこういうこと(海洋放出)やられることになったんで、別にあの水飲んでもナンちゅうことないそうですから」と話した。

さすがにBS日テレ『深層NEWS』でも、放出水を飲んでいけないと視聴者に注意していた。EUの飲料水の基準は、1リットルあたり100ベクレル以下である。東電と政府のいう希釈トリチウム水は、EUの飲料水基準の15倍である。

☆ 海洋放出の1500ベクレルのトリチウム水は飲んではいけない!

海洋生物に対する影響はまだわかっていない。海洋生物は、EUの飲料水基準の15倍の中でずっと暮らすわけだから、何らかの影響があってもおかしくない。

1リットルあたり1,500ベクレルは根拠のある数値ではなく、たんに、福島第1原発の側溝の汚染水を捨てるために、事故直後に作った基準である。大量の汚染水を放出するとなったら、側溝の放出基準でよいのだろうか。

それでは、どれだけの量のトリチウム水を放出すると政府と東電はいっているのか。1年に22兆ベクレルのトリチウムを海洋放出するという。このロジックは、これまで、福島第1原発は年に22兆ベクレルを放出してきたからだという。この値については、私は良く分からない。これまで、東電と政府はトリチウムが使用済み核燃料のカプセルの中に閉じこめられてきたと言っているからだ。正直な値なのか、それとも、つじつま合わせの数だろうか。

東電と政府の基準、1リットル当たり1,500ベクレルに合わせると、これは、1日あたり4万トンのトリチウム水を放出することになる。これは大河が海に注ぐ水の量である。放出はできるだろうが、薄めるために大量の海水をくみ上げないといけない。

☆ 一日当たり4万トンというのは、現在の地下水の流れ込み、140トンよりずっと大きい量なのだ!

現在、東電と政府のプランではタンクの汚染水海水で平均500分の1に薄めるといっている。すると、1日当たり4万トンの海水をくみ上げることになる。希釈装置をどこに置くのだろうか。津波による希釈装置の破損も防がないといけない。そして、放出したトリチウム水を また くみ上げて、それで希釈するということをさけないといけない。

☆ 希釈というのは本当に守るつもりのある計画なのか!

どこに大量のトリチウム水を放出し、どこから大量の海水をくみあげるかのプランを明確にしないといけない。

東電と政府は、いま、デブリが核分裂反応を起こしていない、と主張している。その証拠は示されていないと思う。東電と政府によれば、現在のトリチウムはすべて事故前の核分裂連鎖反応でできたとして、2011年3月11日に原子炉内にトリチウムが3.4千兆ベクレルあったと推定している。2016年3月24日の報告では、トリチウムが自然崩壊で2.6千兆ベクレルに減ったと推定する。この延長上に22兆ベクレルの海洋放出は30年から40年続けると言っている。この値を私はまだ検証していない。別の論者は50年から60年だという。

もし、新たにトリチウムが発生していないなら、最終的に必要なタンクは用地を買収して今の2倍弱のタンクを増設すればよいことになる

BS日テレ『深層NEWS』で本当に海洋放出しかないのか、という疑問の声があがった。(1)タンクは増設できる、(2)地下水の流れ込みは遮断できる、すなわち、汚染水の発生を阻止できる、(3)地表深く砂礫層に汚染水を注入できる、などがある。とくに、新たなトリチウムがデブリから発生している場合にも、(2)、(3)は有効である。

IAEAは、原発推進機関であり、東電・東芝・政府と利害を共有する。中立的とは言えない。科学的な情報源と言えない。政府と東電は結局、電通などを使って国民を騙そうとしているのではないか。海洋放出を白紙撤回することこそ誠実な対応ではないか。立憲民主党は本件について腰が引けているのではないか。

安価であることを基準にして政治的決断すれば、凍土壁で地下水の流れ込みを阻止しようとした5年前の失敗を繰り返すことになる。