猫じじいのブログ

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トリチウム水を人類共有の海洋に放出するのは無責任

2021-04-13 22:50:30 | 原発を考える
 
きょうの午後7時のNHKニュースで、福島第1原発のタンクの汚染水の海洋放出を菅義偉が決めたと報道していた。この報道は政府発表をそのまま流しているもので、NHKはジャーナリズムとしての良心を失っている。NHKの報道は政府の宣伝活動の一環にすぎなかった。
 
NHKは、政府の決定と報道しながら、一方で、地元民と丁寧に話し合えと言っている。結論が決まっているのに、話し合えというのは矛盾である。「菅政権をぶっつぶせ」というのが筋ではないか。
 
政府が2年をめどに海洋放出すると言っているが、一方で、東電は来年の夏にはタンク増設の敷地がなくなると言う。すると、菅義偉がいう「2年をめど」というのは、地元の納得を2年間待つという意味ではなく、汚染水を薄める装置が稼働し始めるのに2年かかるかもしれない、と言っているにすぎない。
 
政府は「科学的根拠」にもとづく判断だから、「風評被害」をなくせば良いといっているが、本当だろうか。
 
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NHKは「処理水」の海洋放出としていっているが、あくまで「汚染水」の放出である。いままで、なぜ、東電(東京電力)がタンクの「処理水」を放出しなかったか。国の決めた放射能物質の濃度基準を越えているからである。基準を越えている放射能物質はトリチウムだけでない。
 
「処理水」は「ALPS処理水」であって、東芝の開発した多核種除去設備ALPSから出てくる「処理水」は「放射能汚染水」であったということである。
 
NHKは「国の基準の40分の1に海水で薄めての放出」と強調していたが、これには落とし穴がある。「40分の1」に薄めるというのは、国が東電に要請したことではなく、東電の自主基準であって、東電が今後変更できる。
 
現在のタンクの汚染水が、国の基準をどれだけ超えているかを、NHKは報道していない。いったい、東電は、何倍に薄めるといっているのか。「国の基準の40分の1に薄めての放出」を本当に実行した場合、どれだけの年月がかかるのか。専門家は、50年から60年かかるという。東電は7年で放出するといっているから、はじめから、この自主基準は見せ球と思われる。
 
菅義偉は、原子力規制員会が東電の汚染水の薄める設備の能力を書類審査するといっているが、何トン処理できるかであって「国の基準の40分の1」を守るかではない。
 
海洋は人類共有の財産である。「汚染水」を薄めて放出することがまともな政策だろうか。「汚染水」が海洋の中で自然に薄まるということは期待できない。海流によってどこかに運ばれることがあっても、汚染水の拡散のスピードは非常に遅いのである。一番ありうることは、放出場所に汚染水が蓄積することである。そうなると、薄める海水はどこからもってくるのだろう。
 
陸の生物と違って、海の生物は汚染水に浸かったままだ。海洋生物に障害が出てくるだろう。
 
NHKは、IAEA(国際原子力機関)が日本政府の「海洋放出」を支持していると報道していたが、IAEAは原子力利用推進機関であり、すなわち、利害関係者であり、客観的な判断ではない。また、他の原発でもトリチウム水を放出しているからは、海洋放出の理由にならない。これは「みんなで赤信号をわたれば怖くない」と同じ論理である。
 
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では、解決策は「汚染水の海洋放出」しかないのか。
 
トリチウム水というから、わかりにくいが、水素原子の原子核が中性子を2個吸いとったものをトリチウム、あるいは、三重水素という。トリチウムは不安定で、ベータ線(電子線)をだしてヘリウムになる。12.3年でトリチウムの半分はヘリウムになる。したがってトリチウムは自然にはほとんど存在しない。メディアが、トリチウムが自然界にもあるというのは詭弁である。あくまで、人間が原発でトリチウムをつくっている。
 
トリチウムは化学的性質が水素と同じだから、質量が異なるということで、分離しなければならない。核融合の研究では、デューテリウム(二重水素)やトリチウムをあたりまえのように分離し、使用している。だから、技術的には取り除ける。しかし、それが高価であるから、東電の対策から除外され、一番安価な海洋放出が東電と政府によって選ばれただけである。(もちろん、安価に取り除く方法が将来発明される可能性はある。)
 
現時点では、トリチウムをとり除くことを検討する前に、なぜ、トリチウム水ができるのか、という問題を考えるべきである。トリチウム水が発生しなければ良いのだ。この問題を政府も東電も隠している。
 
トリチウム水ができるのは、水に中性子線が当たるからである。中性子線はどこからくるのかである。デブリからくるとすれば、デブリの中で核分裂反応が起きていることになる。中性子の寿命は短いから10年前の中性子がいまだに飛び回っていることは科学的にありえない。デブリの核分裂反応を止めるには、もっと、小さい破片にわけるしかないが、デブリの取り出しができない現状では不可能である。
 
使用済み核燃料は水につけたまま保管されている。すなわち、デブリに新たな水をかけなければよい。このようにできないのは、地下水がデブリのある場所に流れ込んでくるからではないか。地下水の流れ込みを、いまだに東電がコントロールできていないということである。
 
地下水の流れ込みをコントロールすることが東電の約束であった。東電は2014年に原子炉建屋のまわりの地面を凍らせた凍土壁をつくった。しかし、壁とならず、いまだに1日約140トンの地下水が流れこんでいるという。この値は、現在の汚染水の増加量とあっている。
 
凍土壁の計画の段階で、防水措置のほどこされたコンクリート壁をつくるという案も当時出されていた。しかし、凍土壁のコストのほうが安いということで、採用されなかった。ずっと地面を凍らせる電気代と汚染水のタンクを建設しつづける費用を考えるとき、正しい選択であったとはいえない。
 
このことが、いま、議論の対象にならない理由を不思議に思う。地下水の流れ込みを止めないといけない。冷却だけなら、熱交換器のある循環型の水でデブリを冷やすことができ、汚染水が大量に発生することはない。
 
それに、海洋放出の前に、(1) タンクはまだ増設できるし、(2) 地中深く放出する手段もある。
 
福島第1原発のまわりには、人が住んでいない土地が広がっている。用地を買収すればタンクを増設できる。123年たてば、トリチウムの濃度は自然に1024分の1になる。
 
また、地下深く1000メートルぐらいで、水を貯えることのできる地層がないか、調べ、そこに、汚染水を送りこめばよい。汚染水はその地層で拡散をおこし、いずれ海洋に流れ込むだろうが、十分時間がかかって海洋に達するなら、その間に、トリチウムも減っているだろう。
 
アメリカなどでシェルオイル採掘で小規模な地震が起きているのは、岩盤に含まれる石油を取り出すために、薬剤を混入した加圧水で岩盤破壊を行っているからである。汚染水を吸収する砂礫層に流し込めば地震の心配はないと思う。
 
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それにしても、地下水の流れ込みを止めることは確実にできることだから、海洋放出の前に、東電と政府は行わないといけない。原発を新たに作るより、ずっと低いコストで実現できることである。
 
海洋放出は、原発事故が起きたとき、東電経営陣が自衛隊に事故処理を任すと言ったのと同じレベルの無責任な発言である。
 
[補遺]
NHKの報道で、国の基準と言っていた1リットルあたり 6万ベクレルとは、日本の「排水基準」である。ウィキペディアによれば、米国の排水基準は 3万7千ベクレルである。同じく、米国の飲料水の規制基準は740ベクレルである。EUの飲料水の基準は100ベクレルである。NHKの報道での飲料水の基準の7分の1は、WHOの基準1万ベクレルを採用したものであり、東電の自主規制1500ベクレルの値は別に根拠がない。EUの規制にあわせるなら、600分の1に薄めないといけないことになる。