けさの朝日新聞に『(耕論)株高「冷たいバブル」』のインタビュー記事があり、大槻奈那、都築金龍、坂本篤紀の3人がそれぞれ自説を述べていたが、まったくかみ合っていなかった。
株の売買を自分がしたいか、あるいは、株高を景気がよいと感じるか、否かは、個人的な問題で、それでは、討論にはならない。「耕論」担当編集者が聞き手の記者と話し合って問題の焦点を絞らないと、語り手の3人がかみあうのは無理である。
証券会社のアナリスト大槻奈々は、《実体経済から極端に乖離した「バブル」ではなさそう》と語っている。ここで「極端」という限定詞、「なさそう」と推量の助動詞をつけているから、「株高」に後ろめたさを感じながら、株の売買を勧めている。したがって、ここで、議論を深めるには、日本の株式市場について知識を持ちながら証券会社と利害の異なる語り手をさがして、朝日新聞は大槻にぶつけないといけない。
大槻は次のようにいう。
《今の株高を「官制相場」と見る向きもあります。日本銀行によるETF(上場投資信託)買い入れをとらえたものですが、市場をけん引しているのは外国人投資家や機関投資家です。》
最近、「外国投資ファンドは日本株式市場から引き揚げている」という経済評論家の証言もある。「官制相場」であるか否かが、1つの争点であるし、本当に「外国投資ファンドが市場をけん引している」のかを、定量的に議論せねばいけない。
大槻は、《(株価収益率(PER)が)1980年代の後半のバブル期の70~80倍に比べれば割安》といっている。いっぽうで、大槻はつぎのようにいう。
《配当と株価の上昇分を合わせ年3%で運用できれば十分という堅実な考え方の人も多い。》
ここで、大槻は罠をしかけている。株価収益率とは、会社が上げた当期の純利益を発行株数で割った「1株当たりの純利益」で現在の株価を割ったものである。すなわち、株価が配当金の何倍かを示す数字ではない。会社は純利益をすべて配当として吐き出すわけではない。日本は会社の留保分が大きいから、配当金による株主の収益はずっと小さいと考えるべきである。
にもかかわらず、大槻は気楽に「年3%」という数値をだす。人をだまかすときは数値をいうと騙しやすい。大槻は、「配当と株価上昇分を合わせて」とか、「人も多い」と言う。「人も多い」というのは、自分の意見ではございませんという逃げである。また、「配当」と「株価上昇分」との比率を明らかにしていない。ということは、「年3%」という数字には意味がない。
大槻はさらにつぎのように言う。
《(中小企業関係者の方々に)「株価がどこまで上がると思うか」と尋ねたら、「3万4千円から3万6千円」が一番多かった。》
バブルの時、企業の経営者たちが株を買うのが一番悲劇を生む。彼らが証券会社の餌食なって、従業員たちが路頭に迷うからだ。現在、中小企業の経営者は、政府や銀行からコロナ融資を受けても返す見通しがつかない。このようなとき、馬券を買うように株に手を出す者が出てくる。証券会社のアナリストは悪魔のささやきを行う。
したがって、大槻に対する論者は、この悪魔のささやき、あなただけはバブルの崩壊を逃げ切れる、という楽観論を否定しないといけない。
学生投資連合相談役の都築金龍は、つぎのように言っている。
《「老後2千万円」問題がニュースになって以来、若者の間に将来不安が広がっている面もあるように感じます。》
《一流企業に入っても全く安泰でない時代には、自分の才覚で稼ぐ方法を身に着けられたらと思います。投資はその手段です。》
大槻は、借金の返還に苦しむ中小企業の経営者を餌食にしているのに対し、都築は、将来に不安な学生を餌食にしている。都築は、韓国の「東学アリ」と同じように希望を持てない若者を餌食にしている。
株がささやかなギャンブルであるかぎり問題ではないが、株式市場は本来誰かが儲かって誰かが損をするところであり、胴元の証券会社は手数料で確実にもうかる。「自分の才覚で儲かる」とだます、大槻や都築に反論する者を選ばなかった朝日新聞の(講論)担当者は何者ぞ。
株式市場には、企業への返還なしの融資と株主のギャンブルという二側面がある。現在、エコノミストたちは、悲劇をあまり生まないで、現在の官制相場をいかに解消するかを議論している。追い詰められている若者や中小企業経営者者が、現在の官制相場の犠牲者にならないことを祈る。
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