小雨降る午前中、ふたたび岡崎城址をぐるりと巡る。空堀に高く積まれた野面積の石垣、家康公産湯の井戸、岡崎城二の丸能楽堂と歩いて、三河武士のやかた前で武将に扮したボランティアから、お城の成り立ちや家康公の説明を聞く。ここは来年度放映されるNHK大河にあわせて期間限定のドラマ館へと替わる予定で、主役家康公に扮する松本潤が何度か訪れているのだそう。
本丸広場にあるからくり時計の前に立ち、機械仕掛けの家康公が謡いながら能面をつけて舞う様子をよくできたものだと感心しながら見る。最後に城内日本庭園のなかの立礼で紅葉を眺めながら一服して、雨の中をタクシーで「東岡崎」駅へと出る。名鉄本線に乗り、名古屋市内「神宮前」で下車して、いよいよ熱田神宮へと向かう。
熱田神宮は日本武尊ゆかりの杜、大化年間の創建。皇室三種の神器のうち、草薙剣を祀るという。なんども名古屋には来ているけれど、熱田神宮を訪れるのは初めて、ようやくの念願がかなう。
車の行きかう大通りを渡って東門から境内の中に歩を進めれば、もう神聖な雰囲気だ。社務所から信長塀を越えてゆくと、巨大な神楽殿のとなりが石段となっていて、そこを上ると真正面に神明造りの本宮が見えている。意外なくらい駅からは近いことに驚く。周囲には熱田三大古墳が点在しているらしいが、位置関係がよくわからないので、地理学的考察には思考が回らない。清水杜から続く小径をぐるりと本殿の裏側まで探索してみる。
せっかくなので、南方向の正門まで参道を踏みしめて歩いてみることにした。こちらから参るのが本来は正式なのだろうけれども、後からできたJR熱田駅は北側にあり名鉄神宮前駅は東側という位置関係で、殆どの参拝客は東門からショートカットして本宮に向かうようになるから、どうもアプローチとしては空間的な有難みが薄れてしまっているきらいがあるのではないだろうか。
神宮正門からさらに進めば旧東海道宮宿にぶつかり、お伊勢参りにとつながる桑名宿へと向かう宮の渡し場がある。現代は埋め立てが進んでしまって当時の面影を想像することは難しいだろう。古の地図だとこのあたりが伊勢湾に面した熱田湊の年魚市潟(あゆちがた)にあたり、愛知の語源とされる。尾張名古屋の原点がここにあるわけだ。
というわけで、もうすこし時間があれば、ブラタモリよろしく宮の渡し公園七里の渡し跡まで訪れて見たかったが、これは仕方なし。帰りの新幹線の時間が気になりだしたが、せっかくなので「きよめ餅総本家」に立ち寄り、レトロな雰囲気を残す神宮前駅商店町の一角、ひなびた構えの「喜与女茶寮」へ入ってひと休みしながら、ほうじ茶できよめ餅を頬張り、熱田との名残りを惜しむ。
こうしてみると熱田周辺は、庶民的な大須観音商店街、異国情緒も混じる覚王山日泰寺参道とならんで、神宮の杜を取り囲むようにして門前町歩きと古墳巡りに、旧東海道宿場渡しの名残りを楽しめるところ、といえるだろうか。個人的に名古屋については、この訪問ですこし総括ができたかもしれない。
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