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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

菜種梅雨、日常坦々花紀行

2023年03月23日 | 日記

 この春の花の季節は、寒さのわりに出足が早いようだ。昨年末からのスイセン、一月の初梅に始まって三月に入り桜も寒緋桜、山桜、枝垂れ、ソメイヨシノと五月雨式に咲き継がれてゆく。
 今朝は菜種梅雨の合間、散歩をしようと近くの公園まででかけた。このすり鉢状の雨水地下調整池公園は、周囲を回遊式の通路が巡り、底辺部分が多目的グランドとなっている。
 その通路周囲に植わっているソメイヨシノがまさに見ごろとなり、グランドへ向かって長く枝ぶりを延ばしている。その下を歩いていくと桜色のトンネルで見上げた青空の対比が美しい。改めてそのソメイヨシノを数えてみると11本ある。公園の道路側に沿って植わっているので花の盛りを真近で眺めながら、反対側へ回ってみて、その全景をグランドごしに遠望するのもいい。桜景色のはるか先の向こうは大山丹沢の変わらぬ山並みである。

 ことしの弥生月、思い立つまま車に乗り、近隣ふたつの里山地域まで出かけた。
 中旬の一日は良く晴れて、小一時間ほどのドライブにはもってこいのぽかほか日和となる。国道16号を城山かたくりの里までの道のりだ。このあたりは相模原と町田と端っこの境目、城山湖も近いのどかな雰囲気が漂うところ。川尻八幡神社の大鳥居が建つ表参道入口からすすんで、横道を入っていくと里の入り口、駐車場につく。そこにも早咲きの濃いピンクの桜がちょうどいい感じで咲き誇っている。

 かたくりの里は、個人所有の裏山をこの時期だけ有料で一般開放している。姫コブシの咲く素朴な受付の感じがまずもっていい。入場料500円を払って進むと、よく手入れされた南向き斜面一面にカタクリ堅香子が群生していて、うつむきかげに清楚な薄紫色の五辯花を咲かせている。なんとも可憐で恥ずかしそうにしている乙女の早春姿に重なる印象で、万葉集にも一首歌われている。
 遠くなってしまった少年時代のふるさとの日々が蘇り、なつかしい思いがあふれてくる花だ。

 ゆるやかにくねりながらのぼっている小径の両側には、雪割草、日陰ツツジ、ミツマタ、椿、福寿草、御殿場櫻、ほうき桃と、もうあたり一面が花、花、花の極楽浄土の有り様。
 途中で長椅子に腰かけてひと休み、あたりを眺めながら、おやつをほうばる姿は、文字通り「花もよし団子もよし」といった様子かもしれない。咲き始めた桜も薄ピンクに頬染めて、どこへ気持ちを寄せているのか、といった風情である。やはり、咲き始めの頃の花が一番美しいと思う。


城山かたくりの里(2023.3.16撮影)

 それから数日後の晴れ間、成瀬街道から恩田の丘を越えて奈良町に入り、TBS緑山スタジオを横に見ながら丘をこえて岡上営農地を過ぎ、三輪の里まで足を延ばす。高蔵寺光明会館駐車場に車を置かせてもらい、里山巡りの小さな旅の始まりだ。
 花の寺で知られる真言宗見星山高蔵寺は、昨年一月明けてすぐの失火で本堂ほかが全焼してしまい、そのニュースを知った時には言葉もなく茫然とした。参道入り口の門は閉じられたままだが、境内の桜やコブシの花が咲きだしている。この四月から庭園の一部を週三日に限って参拝が再開されるとの張り紙がある。
 ここを起点に歩き出してすぐ、菜の花と寒緋桜の競演が見事な里山畑地が広がっている。このあたりの家々は「荻野」という表札が多いが、ここも代々の地主の方が守ってきた土地柄、戦国時代にはもののふの行きかう山城のひとつだったらしい。その中世からの地形の雰囲気はいまもそこかしこに残っている。
 ともあれ長閑さとはこの三輪の里のこと、あちこちからウグイスの競うかのような初音を聴く。

 畑地のむこう、一段高くなったところに樹勢の見事な山ザクラの大木が数本自生していて、枝枝いっぱいに白い花をつけ、四方八方へと延ばしている。手前の畑地には菜の花が絨毯となり、その色の対比も鮮やかなまるでもって田園絵画のような風景が目の前に広がっている。
 お屋敷の入り口には、咲き出したばかりの枝垂れ桜の大木、あと数日後が素晴らしく見ごろになるのだろう。見通す先には丹沢の山並みの間、青空に突き出して真っ白な富士の頂がちょこんと覗いている。この時期この時間だけ見ることができるであろう情景に違いない。

まほろば三輪の里 風景庭園(2023.3.20撮影)

 自宅の駐車場まで帰ってくると、造園業者が薄雨模様の中をマンション敷地内北斜面自然林の手入れの最中だ。新緑が芽吹きだす前の時期にコナラ、クヌギ、ミズキなどの雑木林の伸びすぎた先を切り落とし、地表に陽光が届くようにと、植木職人さんが高所まで命綱をつけて登り、枝打ちの作業をしている。
 階段を上りながら足元を見ると、作業途中で落とされていた山桜のひと枝がどさりと落とされている。いっぱいの花が見事でこのまま処分されるのはあまりにも忍びない気がした。すこし考えたあとにそうだと一計が浮かび、監督者にお断りして小枝の何本かをもらい受ける。
 家まで持ち帰って、即席で青い花瓶に生けてもらい玄関に飾りつける。あふれるくらいの清楚な佇まいがあっていい。ああ、花盛りを救えてよかったなあ、と思いつつ眺めていた。


 
 明日はようやく春分の日、これから少しづつ日中の長さが伸びて暖かくなってゆく。