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まほろ界隈逍遥生々流転日乗記

四月の出来事 帰省と三島行

2022年04月30日 | 日記

 ここのところ、新緑の季節の陽光がまぶしい。つい先日一泊二日のとんぼ返りで、新潟への帰省を済ませてきたばかり。空き家となっている実家の羽目板外しと風通しをして、墓参と庭の草むしり、冬の間の雪下ろし代金の支払いなど。往きの道中、山桜が山中のうすみどりに混じってパッチワークのようで美しかった。

 魚沼丘陵を超えていくときに、道脇の北側の斜面や山の谷底には残雪があって、沢には雪解け水が滔々と流れだしていた。遠くの山並みにはまだら模様の冠雪が白く光って、大雪だったにもかからわず四月に入ってからの雪解けは早かったようだ。

 曇天、田植え前の棚田、水面鏡の淡い山桜。国道253号線から十日町儀明。
 (2022.04.26 撮影)

 この四月卯月を振り返ってみる。ようやく実現した中旬の伊豆三島行きのこと。

 待ち合わせの三島駅は、うす青緑色の緩いカーブを描いた三角の屋根に白壁のじつにノーブルな佇まい。そのむこうに富士山がそびえている。
 まずは駅前広場から路地裏通りを抜け藍染坂をくだって、白滝不動のある公園までぶらぶらと歩く。新緑の欅の木陰のせせらぎが涼やかだ。
 古いかばん屋の角を曲がると楽寿園の裏手沿いの道へと誘われる。楽寿園の中から流れでる源兵衛川の水源は、自然湧水ではなくて人工的に企業工場などからの冷却水を導いたもの。それでも街中に涼やかな水辺環境を復活させることはとてもいいことだ。

 川沿いにあるお寺の境内を通り抜けたら、伊豆箱根鉄道三島広小路駅に出る。そこから少しだけ迷ってしまったけれど、予約しておいた鰻の名店、創業安政三年という桜屋はすぐだった。木造三階建ての風情ある佇まい。すぐ脇の川沿い、時の鐘がある三石神社の隣というロケーションは、やっぱり絵になる。
 階段を上がって二階の広間に案内される。平日とはいえ、お昼時はなかなかの繁盛ぶり。うな重をふたつ注文し、しばし寛いで待つことに。ここは白洲次郎・正子夫妻がひいきにしていたと聞いていたし、司馬遼太郎が訪れたさいの色紙もさりげなく飾ってある。鰻のほうは辛口のたれで香ばしく、さすがに評判通りの結構な味わい。ここで食したことで三十数年ぶりの目的のひとつがようやく達成された。

 店を出てすぐの神社境内さきを頭上すれすれの鉄道線路が川を渡っている。その下をくぐっていく際に二両編成のイズッパコがガタゴトと頭上を走る抜けていくさまはなかなかの迫力もので、川の浅瀬の飛び石に立ったまま歓声をあげて見送る。閑静な住宅地のなかの川下りをすすめて、佐野美術館がある隆泉苑へと向かう。こじんまりとはしているけれど、池を中心によく手入れのされた回遊式庭園だ。ここも三十数年前にひとり訪れた記憶が蘇る。
 三島梅花藻の里に立ち寄ると、繁殖のための保護池の水流のなかで可憐な小さな白い五弁の花が揺れて咲いていた。そのさきの三島田町駅にでる。途中手前の通りから眺めていたよりも駅舎は立派なつくりで、反対側のホームには地下通路を渡ることにちょっと驚かされた。
 ここからは電車に乗って二駅さきの三島駅まで戻ることに。見慣れぬまちでの電車乗車は、清水からの静岡鉄道や掛川から浜松までの遠州鉄道、昨年暮れの湘南モノレールもそうだったけれど、長短にかかわらず子供にもどったかのような高揚感があって愉しい気持ちになるものだ。
 
 滞在先にもどったのは午後三時過ぎ、あたらしくできたばかりのところだ。名称の頭に“富士山”がつくところだけあって、ロビーの大きなガラス窓からは、駅ホームを挟んだ街並みのはるかむこう、山頂に冠雪を抱いた稜線が緩やかにひろがる姿に圧倒され向き合うことになる。
 ようやくのこと、ここで寛いで過ごすことができると思うとたまらなく嬉しくなってくる。しばらくは、静かなゆっくりとした時間のままにひとしきり展望風呂に浸かってから、まちに繰り出して夕食をとることにしよう。

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 翌朝二度寝して温もりを残して目覚めた部屋からは、富士の山容も素晴らしい。シャワーを浴び、着替えてあとに遅めの朝食をとりながらぼんやりと思うであろうことは、チェッククアウトしたら荷物を預けて、すぐ目の前の楽寿園を散策して小動物園でアルパカとカビバラと与那国馬をのんびり眺め、一万年まえに流出した溶岩がむき出しになった池を巡り、南出口からさきの桜川沿いをてくてく散歩しながら、約四十年ぶり二度目となる三嶋大社へと参拝を果たしてみたいというささやかな願い。
 境内神池周辺の咲き残っている枝垂れ桜を眺めて歩きながら、門前の通りの向いの町中華屋のある古い二階建てを改装した「IWASE-coffee」に入って、この度の旅の余韻を惜しもう。そこにおいてある店の案内ハガキには、つぎのような一節が書かれているはず。

「この世が変わろうとも、ここに変わることのない場所が存在している」

 これからいろいろとあって何年かがすぎていつかまた三島を訪れた時には、大宮町1丁目11のカフェ・カウンターから、神社の杜を眺めてみたいと思う。