長い間、といっても五年ほどにすぎないが、愛用してきたスマートフォンを新しい機種と交換することにして、ついでに通信サービス会社も料金の安いところに変更することにした。新しいスマホは、ワイモバイル京セラ製の深いライトブルー、本体の厚みが少し薄くなった分、液晶画面がひとまわり大きくなって、シンプルとうたいながらもかなり機能がふえている。
そのスマホは、インディゴブルーのスエードの手触りそっくりのポリウレタン素材、COSMOというブランドの二つ折りカバーにセットされて、机上のパソコンの横に置かれている。丈夫そうな造作、色合いと指に触れた感触が、昔から使っていたみたいにとってもなじむのがいい。ちなみに、Hamee株式会社というその製品の企業所在地は小田原市栄町2-9となっていて、これもお気に入りの理由のひとつ。
さて、機種変更に伴ってメールアドレスも変わることになったのだが、まずは古くからの友人たちへその旨を知らせようと思っていたその夜に、ふるさとの中学時代の友人からスマホに最初の電話が入ったのには正直驚いた。なにしろ卒業以来、その同級生からわざわざ電話をもらうことがはじめてだったのだ。その用件は、今年11月にあらたまってふるさと同窓会を開くから都合はどうかというもので、これまたびっくりした。なにしろ中学卒業以来すっかりクラスメートとはご無沙汰で、同窓会が開かれていたのか知る由もなかったし、ほとんど気に留めることもなかった。それがスマホを変更したその日の夜、四十数年ぶりに連絡があるなんて驚き以外のなにものでもなく、スマホ変更の効用なのかもしれないと思った。電話をもらえたのは、前々回夏に帰省したときに水道開栓のことで休日対応してくれたのが、地元水道局勤務のその彼で、おひさしぶりと連絡先を交わしていたからなのである。
そんなわけで、あたらしいスマホに替わっての初着信とその後の初メールは、その中学時代の同級生と思いがけず交わしたのだった。こんな想定外のこともあるのだなあと思いながら。
そしたらである、こんどは夜中に別の友人から「メルアド変わった?」とメール着信があることに気がついた。メルアド変更の連絡をしようかと思いつつ、翌朝にあらためておこなえばいいやときめて、眠ろうとしていたそのときだから、あまりのタイミングにこれまた驚かされた。その九州在住の友人とは、年に数回くらいはやりとりをすることもあって縁はつづいていたのだけれど、なんとまあ偶然はつづくもので恐れいいった。
そんなことで、赤瀬川原平の遺作集「世の中は偶然に満ちている」を思いだし、人はその偶然を引き寄せておもしろがったり、なつかしがったりするものだと思う。それが“スマートフォン”という、分割払いでなかなか高額であることを実感することのない定価65,736円、現代文明の利器をめぐっておきていたわけで、赤瀬川さんは「ある似たような出来事がたまたま同じ時期に重なったりする。そこに何の意味もないし、関係もないのだけれど、何かキラッと光るものを感じてしまう。」と書いている。
今回の偶然がそのスマホの着信ボタンの青くピカッ、ピカッと点滅するLEDライトによって知らされたのがなんとも面はゆい、というかそういう時代によくも悪くも生きている自分をあらためて実感させるできごとだった。
もうひとつ、スマホというか電話をめぐる偶然は続いていく。週末に家に連絡があって、それがふるさとの近所のかたからの電話だったのだ。母が体調をくずして夏に帰省できなかったことを心配しての連絡で、そこの方とは帰省のたびに顔を合わせていて、何かがあればと連絡先をわたしておいたのだが、じっさいに電話をいただいたのは初めてだった。話しているうちに空き家となっている実家のことも庭の草が伸び放題であろうことも気になり、やっぱり秋の彼岸中に墓参りに帰省してみようという思いが増してきて、まあこれもありがたいことだと思った。
さらにそのサウダージな気持ちに追い打ちをかけたのが、日曜日に国立映画アーカイヴ相模原分館でみた「風の又三郎風のマント」(1989年、日本ヘラルド)である。宮澤賢治原作のリメイク版で岩手が舞台、田舎の小学生たちが主人公だ。画面につぎつぎと展開される豊かな自然、山山と川、里山の田圃、療養所とか川の連絡橋を渡る鉄道などをみているうちに、ふるさとの見慣れた情景がなつかしくなってきて、見終わったあとに、やっぱりこれは帰省しようと思っていたのだった。
そうしたら、これがいまのところの偶然の最後なのだが、その映画のなかで重要なおばあ役を演じていた樹木希林さんがその日に亡くなられたいうニュースが流れてきてきたのにも驚かされた。横浜ご出身で実家が営むのは、野毛きって割烹「叶家」で、そこにへは何度か立ち寄ったことがある。
来月公開の映画「日日是好日」は、主人公役が黒木華、樹木さんは茶道の先生役であり、横浜ロケということもあって、必ず観にいこうと思っている。こころよりご冥福を祈りたい。
気がつくと曼珠沙華が咲きだしていた(撮影;2018.9.17 相武台)
そのスマホは、インディゴブルーのスエードの手触りそっくりのポリウレタン素材、COSMOというブランドの二つ折りカバーにセットされて、机上のパソコンの横に置かれている。丈夫そうな造作、色合いと指に触れた感触が、昔から使っていたみたいにとってもなじむのがいい。ちなみに、Hamee株式会社というその製品の企業所在地は小田原市栄町2-9となっていて、これもお気に入りの理由のひとつ。
さて、機種変更に伴ってメールアドレスも変わることになったのだが、まずは古くからの友人たちへその旨を知らせようと思っていたその夜に、ふるさとの中学時代の友人からスマホに最初の電話が入ったのには正直驚いた。なにしろ卒業以来、その同級生からわざわざ電話をもらうことがはじめてだったのだ。その用件は、今年11月にあらたまってふるさと同窓会を開くから都合はどうかというもので、これまたびっくりした。なにしろ中学卒業以来すっかりクラスメートとはご無沙汰で、同窓会が開かれていたのか知る由もなかったし、ほとんど気に留めることもなかった。それがスマホを変更したその日の夜、四十数年ぶりに連絡があるなんて驚き以外のなにものでもなく、スマホ変更の効用なのかもしれないと思った。電話をもらえたのは、前々回夏に帰省したときに水道開栓のことで休日対応してくれたのが、地元水道局勤務のその彼で、おひさしぶりと連絡先を交わしていたからなのである。
そんなわけで、あたらしいスマホに替わっての初着信とその後の初メールは、その中学時代の同級生と思いがけず交わしたのだった。こんな想定外のこともあるのだなあと思いながら。
そしたらである、こんどは夜中に別の友人から「メルアド変わった?」とメール着信があることに気がついた。メルアド変更の連絡をしようかと思いつつ、翌朝にあらためておこなえばいいやときめて、眠ろうとしていたそのときだから、あまりのタイミングにこれまた驚かされた。その九州在住の友人とは、年に数回くらいはやりとりをすることもあって縁はつづいていたのだけれど、なんとまあ偶然はつづくもので恐れいいった。
そんなことで、赤瀬川原平の遺作集「世の中は偶然に満ちている」を思いだし、人はその偶然を引き寄せておもしろがったり、なつかしがったりするものだと思う。それが“スマートフォン”という、分割払いでなかなか高額であることを実感することのない定価65,736円、現代文明の利器をめぐっておきていたわけで、赤瀬川さんは「ある似たような出来事がたまたま同じ時期に重なったりする。そこに何の意味もないし、関係もないのだけれど、何かキラッと光るものを感じてしまう。」と書いている。
今回の偶然がそのスマホの着信ボタンの青くピカッ、ピカッと点滅するLEDライトによって知らされたのがなんとも面はゆい、というかそういう時代によくも悪くも生きている自分をあらためて実感させるできごとだった。
もうひとつ、スマホというか電話をめぐる偶然は続いていく。週末に家に連絡があって、それがふるさとの近所のかたからの電話だったのだ。母が体調をくずして夏に帰省できなかったことを心配しての連絡で、そこの方とは帰省のたびに顔を合わせていて、何かがあればと連絡先をわたしておいたのだが、じっさいに電話をいただいたのは初めてだった。話しているうちに空き家となっている実家のことも庭の草が伸び放題であろうことも気になり、やっぱり秋の彼岸中に墓参りに帰省してみようという思いが増してきて、まあこれもありがたいことだと思った。
さらにそのサウダージな気持ちに追い打ちをかけたのが、日曜日に国立映画アーカイヴ相模原分館でみた「風の又三郎風のマント」(1989年、日本ヘラルド)である。宮澤賢治原作のリメイク版で岩手が舞台、田舎の小学生たちが主人公だ。画面につぎつぎと展開される豊かな自然、山山と川、里山の田圃、療養所とか川の連絡橋を渡る鉄道などをみているうちに、ふるさとの見慣れた情景がなつかしくなってきて、見終わったあとに、やっぱりこれは帰省しようと思っていたのだった。
そうしたら、これがいまのところの偶然の最後なのだが、その映画のなかで重要なおばあ役を演じていた樹木希林さんがその日に亡くなられたいうニュースが流れてきてきたのにも驚かされた。横浜ご出身で実家が営むのは、野毛きって割烹「叶家」で、そこにへは何度か立ち寄ったことがある。
来月公開の映画「日日是好日」は、主人公役が黒木華、樹木さんは茶道の先生役であり、横浜ロケということもあって、必ず観にいこうと思っている。こころよりご冥福を祈りたい。
気がつくと曼珠沙華が咲きだしていた(撮影;2018.9.17 相武台)