TIMEXの修理、調整を依頼されました
手巻きTIMEXの修理、調整を依頼されました。友達がアメリカの雑貨屋さんで手に入れたものを、いただいたそうです。大切にされているようで、とれもきれいな状態です。
これからも長く使いたいと時計屋さんに整備をお願いしたら、「使い捨ての時計なので、修理はできない」と言われたそうです。こんなにきれいな時計なのに、あまりにもかわいそう・・・
稼働しています。1日に1~2分進むようです。
蓋を開けて見ます。錆びもなく大変良い状態です。これだと分解せず、簡単な洗浄とテンプ周りの油差しで大丈夫そうです。
以前にアップした”TIMEX"は日付機能がありますが、それを除くとほとんど同じムーブメントです。その他ムーブメントを押さえている枠が以前のものはプラスチック製でしたがこの時計はスチール製です。
洗浄するにはムーブメントを取り出さなければなりません。ケースに入ったままだと、洗浄液が文字盤の側に漏れ出して、文字盤や風防に汚れやシミが付いてしまいます。
ムーブメントの構造を見ると、受板(歯車を上から押さえているプレート)を留めるネジが見当たりません。時計屋さんが言うように、分解することを前提にはしていない構造のようです。不具合が出れば、メーカーはムーブメントごと交換してしまう対応なのでしょう。
取りあえずムーブメントをケースから取り出すため、押さえているスチールの枠を外そうとしたのですが、ケースは文字盤側からはめ込まれているようで、裏からは取り出せません。ムーブメントと文字盤は、スチールのツメを折ってカシメて押さえられています。
リュウズを抜いて、風防を外して取り出すしかありません。ところが風防の取り付け箇所をみると、ベゼル(枠)がなくてケースに直接接着されています。
さすが”TIMEX”、ムーブメントもそうですが徹底してシンプルに作られています。ベゼルが無ければそれだけ気密性が保たれます。部品点数を少なくすることで作業も簡単になり、価格も抑えられて結果としては精度も上がることになります。
風防を外さなければ、ムーブメントを取り出せません。風防のリムーバーがあるのですが、風防を傷つけたり破損してしまうリスクがあります。風防は大変キレイな状態なので、結局外すのはあきらめることにします。
文字盤に汚れがあるとの事なのですが、わずかに白い点状の小さな傷(腐蝕?)があるようですが、ほとんど目立ちません。古い文字盤はクリーニングすると、塗装が剥がれれて傷が目立ってしまうことになるかもしれません。触らない方が良いでしょう。
ムーブメントの状態は錆びもなく大変良いので、埃などの汚れをブロワ―で吹いて油を差すことにしました。
粘度のサラサラなオイルを、オイラーを使って差します。
テンプの下にあるアンクルとガンギ車の接点の箇所には、受板に2つ穴が開いていています。ここはテンプの振れ毎に接触するので常に抵抗が発生し、特に錆が来てしまったら動かなくなります。このTIMEXのアンクルは、細いスチールの棒でガンギ車と接触しています。錆びの防止と抵抗を少なくするため、油を差しておきます。
油はほんのわずか、少量で大丈夫です。付け過ぎると、時間がたつと固まって故障の原因にもなります。余分な油は拭き取ります。受板にある歯車の軸受穴にも、油を差しておきます。
時間が1日に1~2分程度狂いが出る(進む)との事なので、調整します。
時間調整は、テンプのヒゲゼンマイの端が小さな枠の中を通っていて、これを動かすことで振れの周期を調整します。通常はこの枠と直結している、+、-、が書かれたレバーが上に付いているのですが、これがテンプの下にあります。
ヒゲゼンマイに触れてしまいそうで、とても調整しずらいです。
24時間置いて遅れ具合を見たのですが、狂いは全くありません。調整はしないことにします。
時計が古くなってゼンマイが弱ってくると、遅れ気味になって来ます。特に緩んできた状態で遅れてきます。
依頼者が「進み気味」(現状はほとんど正確だとの事です。)と言われたのは、頻繁に巻いて、巻上げた状態が続いていたのかもしれません。
通常の巻き状態(1日巻きだと思うので、毎日決められた時間にリュウズを20回程巻くと良いでしょう。)であれば、時間は非常に正確です。ただし少し古い時計なので、ゼンマイは弱ってきているかもしれません。巻き止まりまで、きつく巻くのは控えた方が良いでしょう。
時間調整の時、リュウズを押し込むと分針がずれてしまうとの事ですが、ここは時間を合わせるため、リュウズを引き抜くたびに動く箇所なので、使い続けているとどうしても部品が摩耗してガタが出てきてしまいます。この場合は、オシドリと呼ばれる部品などを交換するしかありません。
私の持っているTIMEXもガタツキがあります。古いからなのか、それとも元々少しガタツキがあるのかわかりません。
今の状態を診ると多少ガタツキがあり針が少しずれますが、このまま使い続けても大丈夫でしょう。しかし、あまり頻繁に時間合わせをすると、状態は少しづつ悪化するかもしれません。現状で時間の精度は十分出ているので、気になるようであれば数日に1回程度の時間合わせをお勧めします。
ケースの縁に腐蝕が見られるので、汚れも一緒にリグロインで拭きとります。
パッキン(Oリング)は、依頼者が変えたばかりなので良い状態です。シリコンオイルを蓋の裏側に付けて、パッキンに塗りつけてから裏蓋の縁にはめ込みます。
裏蓋は手でもはめ込めそうですが、プラ風防を破損するといけないので、はめ込み器で慎重にはめ込みます。クリップタイプです。簡単に入りました。
裏蓋にOリングがあるので簡易防汗になっていますが、リュウズにはありません。このリュウズの巻き芯の箇所から水が浸透してきます。雨の時など水滴が付くのには、十分注意しましょう。
シンプルなデザインで、クラシックなドーム型のプラ風防、私の好きなデザインです。お友達から頂いた時計、とても大切にされているのが状態を見てよくわかります。
ベルトは付いていませんでしたが、着けるとすれば革の黒のエナメル調の、TIMEXなので型押しの方が合いそうです。高級ぜんとせず、シンプルに仕上たいですね。左にあるのは私の持っているTIMEX(DATE付)です。黒のクロコの型押しです。雰囲気出ていますよね。
ただし、革のベルトはどうしても汗で劣化してきます。夏場に着けるのは避けたいですね。
これからも大切に使ってください。
以上、修理依頼者様へのご報告を兼ねて。
追伸:
修理が上がって10日間程使われていたそうなのですが、日に2分程進んでしまうようです。修理した時にはほとんど遅速は無かったのですが。
クォーツ時計に合わせて調整することにしました。
クォーツ時計は、リュウズを引いて時間合わせをする時に秒針が止まりますので、手巻きのTIMEXと時間を秒まで合わせます。クォーツと数時間単位に時刻を秒レベルまで記録していきます。五回程記録してその平均、1時間当たりの平均遅速を見ます。
1日調べた結果、平均1時間に3秒ほど進むようです。つまり1日に、1分12秒進むことになります。
裏蓋をあけて、天輪の下にある緩急針のレバーをヒゲゼンマイが長くなるよう、テンプの振りの周期が長くなります。ほんのわずか回します。
写真の下方向に、ほんの少しまわして、改めて時刻を記録していきます。
平置き状態で3日間ほど様子を見たのですが、数時間単位で10秒前後の遅速が出ていました。石は全く使っていないので、この程度の進み遅れは出てしまうのでしょう。1日の周期で見れば、進み遅れが相殺されて、大きな狂いはならないでしょう。
これで様子を見てもらうこととしました。
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