人物間の複雑な関係
人生の中での経験
それらを通じて一人の人間の中に巻き起こる様々な感情
それらの帰結として
その一人の人間がある事件を起こす
推理小説の中では
その絡まった糸を解きほぐしていくところに
興味がわく
しかしどんなに複雑な小説でも
100人 1000人 10000人と
人物を登場させることはできない
主要登場人物はせいぜい数人
多くても10人まで出てくることはほとんどない
その程度の複雑さである
体内で生きる一つの細胞
この細胞も
様々な関係性の中で生き 生かされているわけだが
その情報伝達の筋道たるや
無数としか言いようがない
30年前の生化学の教科書でも
十分複雑なもの(少なくとも私にとっては)だったが
今や細胞が受け取る情報
細胞の中で繰り広げられる情報のやり取り
それはもう理解できる域を超えている
抗癌剤は
そのごく一部を阻害して
癌を何とかしようとするのだが
進化の過程を生き抜いてきた我らが遺伝子は
何が起きても
細胞を生かし抜いていくしぶとさを備えている
細胞が生きるための情報のいくつかや
細胞が増えるための過程の一部を
抗癌剤で阻害したところで
癌を制圧することは難しい
無数に空いた穴のいくつかを塞いだって
水は漏れるのである
どこの穴をどのようにふさぐか
そこの決め手が見つからない限り
水は漏れ続け
癌細胞は
宿主が死ぬまで
生き続ける