大下英治さんの執筆によるノンフィクション『ショーケン/天才と狂気』を読みました。(青志社刊、2021年5月発売) 460ページに及ぶ長編なので読破まで日数がかかっちゃいました。
ちょっと文脈がおかしいというか雑というか、下書き状態の原稿をそのまま本にしちゃったような粗い文章には閉口しました(単なる趣味で書いてるこのブログでさえ、出来るだけ読み易いよう何度も推敲してるのに!)けど、内容自体はすこぶる面白かったです。
なにせショーケン=萩原健一さんと一緒に仕事をされて来たキャスト&スタッフたちによる証言で構成された、伝記というより「暴露本」に近い内容。不謹慎ながらご本人が他界された今だからこそ語れる、忖択なしの「ぶっちゃけ話」ばかりだから面白くならないワケがない!
いやあ~本当に……つくづく厄介な人だったみたいですw ある程度は知ってたけど、想像を超えてました。晩年、恐喝容疑で訴えられた事件があったけど、これを読めば「ああ、この人ならやるわ」と納得できます。破天荒とか野放図っていう類いとはまた違う、とにかく「厄介」としか言いようのない人。「面倒くさい」なんて生易しいもんじゃありません。
だから、ショーケンさんに対して良いイメージを持ち続けたい人、これまで以上の醜聞には耳を塞ぎたいと思ってるファンにはオススメ出来ません。この記事も先は読まない方が良いかも? 私自身、本は面白かったけど「読まなきゃよかった」とも思ってます。
もちろん、それでも『太陽にほえろ!』や『傷だらけの天使』で見せてくれた演技が神憑り的に素晴らしかった事実、その才能と功績に対するリスペクトの気持ちは1ミリも揺らぎません。マカロニ刑事は『太陽~』で私が好きなキャラクターBEST3に今後も入り続けるだろうと思います。
けど、萩原健一という俳優(あるいはミュージシャン)のファンには、これを読んじゃうと到底なれません。書かれてることを全て鵜呑みにするワケじゃないけど、火のないところに煙は立ちませんから……
私が特に「残念」と感じたショーケンさんのエピソードが2つあります。まず1つは連ドラ『課長サンの厄年』('93) の撮影現場における新人ディレクターいじめ。
当時すでにショーケンさんはベテランの大物俳優であると同時に「すぐキレる人」として業界人から恐れられ、いつも腫れ物に触るように扱われる存在。
ただでさえ萎縮してる新人ディレクターのTさんを夜中に呼び出したショーケンさんは、翌日に撮る葬式シーンの稽古に徹夜で付き合わせた挙げ句、「お前、黒澤さんの『生きる』が好きって言ってたけど、いつ見た?」といきなり質問されたそうです。
で、Tさんが正直に「10年くらい前です」って答えたら、ショーケンさんはいきなりハイパー激怒してこう仰ったそうです。
「貴様ぁー!! 黒澤先生の『生きる』を直前に見ずして、葬式の演出が出来るとでも思ってるのかぁーっ!? 俺はもう、明日の撮影には出ねえからなっ!!」
言ってることの全てが理不尽で、若手を鍛えてるというよりは「イビり」に近い。これはほんの一例で、とにかくいつ、何がスイッチになってキレるか判んないもんだから、誰もがビクビクしてイエスマンになっちゃう。ショーケンさんはたぶん、それを分かった上でわざとキレてる。
つまり撮影現場を自分の思い通りに動かすため、早い段階で皆に恐怖心を植え付け、支配するワケです。これはもう完全にヤクザの手口。いや、ヤクザ以下のチンピラがやるような事で、私は絶対にこんな人と一緒に(どんな職種であれ)仕事はしたくありません。実際、多くの若いスタッフや俳優たちがショーケンさんを恐れ、現場を降りていったそうです。これほど残念な話はありません。
だけど『太陽にほえろ!』の現場では全然そんなことは無かったそうです。そりゃあ当時のショーケンさんは俳優としてはド新人で、石原裕次郎さんというスーパースターがいて共演者も大先輩ばかりですから、そんな横暴が出来る筈もないんだけど、それにしたって現場は終始なごやかで、ショーケンさんは皆に可愛がられてたそうです。(後釜の松田優作さんの方がよっぽど厄介だったみたいです)
人間、やっぱ偉くなると変わるんです。特にショーケンさんは10代の頃からGSの大スターでチヤホヤされて来ちゃったから……
だけど俳優としては、物凄く研究熱心で真面目な人だったとか。だからこそ周りの人たちに課すハードルも高く、思い通りに出来ないとカンシャクを起こしちゃう。
『太陽にほえろ!』や『傷だらけの天使』に出てた頃のショーケンさんには、それでも多くのディレクターやプロデューサーが使いたくなるだけの魅力が、確かにあったと思います。それは本当に間違いない。けど、中年になってからのショーケンさんに、それだけの価値が果たしてあったのか?
私は、偉くなってからのショーケンさんには魅力を感じませんでした。それはきっと、先に書いたような内面の変化が、顔つきや演技に表れてたからに違いありません。
人間、偉くなっちゃダメなんです。私の周りにいる偉い連中にもろくなヤツはいないし、政治家たちの顔つき、態度、発言、どれもこれも醜悪です。私は偉くならなくてホントに良かったw いやマジメな話、偉くなりたいなんて願望は若い頃からいっさい無かったですから。
私が特に残念と感じたもう1つのエピソードは、ショーケンさんが映画『居酒屋ゆうれい』('94) に主演された際、相手役の山口智子さんを撮影現場でずっと、しつこく口説いてラブレターまで渡したっていう話。
当時、山口さんは後の夫=唐沢寿明さんと既にチョメチョメな関係にあり、そのサバケた性格でうまくかわされたお陰で問題は起きなかったらしいけど、私がもしその作品の監督なら、こんな迷惑なことはありません。両者とも主役なんだから、もし万が一関係がこじれたら作品が空中分解しかねない。そもそも俺の現場を合コンに使うなよ! やるなら全部終わってからやれ!って話です。
さらに残念なのは、その映画で泊まりがけの地方ロケがあった時、出番が無いはずのショーケンさんが「たまたま近くに用事があったから」とか言って撮影現場まで押し掛けて来たっていうエピソード。もちろん、他の誰かが山口さんに手を出さないか心配だったからw
そうした行動自体は「大人げなくて可愛い」と言えなくもないけど、それより私が心底ガッカリしたのは、その時の現場スタッフたちの反応です。
「やった! 今日は萩原氏がいないぞ!」ってみんな喜んで、久々に伸び伸びと仕事してたのに、ショーケンさんがこっちに向かってると聞くや「ええーっ、なんでっ!?」って、途端に士気が下がっちゃったそうです。
で、プロデューサー氏が出迎えて接待して、何とか撮影現場まで来させないよう必死に食い止めたっていう顛末。これを読んで私は「ショーケンさん、もう終わってるやん」って思わずにいられませんでした。一緒に映画を創る仲間たちに、ここまで疎まれてしまうとは……
同じ映画でユーレイ役を演じられた室井滋さんは、ショーケンさんのことを「本当に怖かったけど(現場の緊張感を保つには)ああいう人も必要だと思う」ってフォローされてます。確かにそうかも知れないけど、ちょっと限度を超えてますよね……
私は過去に撮影現場を仕切る役職を経験してるもんで、どうしてもそっちの立場から考えてしまう。いくら憧れのマカロニ刑事でも、こんな人と一緒に作品創りは絶対したくありません。
だけど、クドイかも知れないけど、私はそれでもマカロニ刑事が大好きだし、あの頃のショーケンさんは本当に素晴らしい俳優だったと、その想いは今もまったく変わりません。
ショーケンさんはどんなキャラクターにもなり切る器用な役者ではなく、あくまで自分自身を役に乗せて表現する人だから、マカロニ刑事が魅力的ってことはすなわち、当時のショーケンさんも同じように魅力的だった筈なんです。『太陽~』の現場じゃ皆に愛されてたっていう証言が、まさにそれを裏づけてます。
地位と名声と金が、ピュアだった天才俳優を狂わせてしまった。よく聞くような話ではあるけど、本当にそんな事があるんやなって、つくづく納得させられちゃいました。
ちなみに今回の画像は全て『太陽にほえろ!』の第35話『愛するものの叫び』('73) からのもの。後にショーケンさんの最初の妻となる小泉一十三さんがヒロインを演じ、後にジーパン刑事としてレギュラー入りされる松田優作さんもチョイ役(テスト出演)で参加されてる重要作。永遠のライバルであるショーケン&優作が共演した唯一のフィルムです。
新米刑事の惚れた相手が殺人犯だった!っていうストーリーは定番だし、小泉一十三さんはモデルが本職で演技は拙いんだけど、それでも屈指の名エピソードになったのはやっぱり、ショーケンさんの演技が抜群に素晴らしいから!なんですよね。
ずっとそのままのショーケンさんでいて欲しかった……なんて考えても仕方がないんだけど、魅力溢れるマカロニ刑事を見るたびそう思わずにいられません。
しておりますが、
何ができるか?
より、
この人と働きたいと
思ってもらえるか?
だそうです。
すごく残念でもったいないですね、
萩原さんにかぎらず、天才的な俳優さんには、ある種のパーソナリティ障害が伴うことがあるそうです。上に書かれた内容から、萩原さんもパーソナリティ障害であった可能性があります。特に太陽の第一話だったかな?宗吉でどんぶり飯に味噌汁をかけて食べるシーン、箸を使えないのか、驚くような持ち方でかき込んでいます。そんな点からも、上のような想像をしました。
お寺に入ったりお遍路廻りしたりは決してパフォーマンスじゃなかったでしょうけど、仮に精神疾患だったとすれば、そういうことじゃ治らないですよね。