自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

地域ミュージアムで考える(71)

2017-10-27 | 随想

勤務先のミュージアムは地理上の特異点にあり,そのことを押し出してPRに努めている施設です。特異な点をいい換えれば,国内で他には存在しない地域資源とでもいえるでしょう。なにしろ,小学校で使われている地図帳に明示されているほどですから。でも,地方の,うんとうんと小さなミュージアムです。

小さいとはいえ,館内には大きな反射望遠鏡があって,「それを使って昼の星を見よう」というのがいわば目玉商品になっています。晴れてさえいれば,ほんとうに一等星や金星,太陽がしっかり見えます。それを見た人は一様にこころを揺り動かされるようです。

「昼間にそんな一等星が見えるなんて」「金星があんなかたちに見えるなんて」「黒点がくっきり! あれが地球と同じ大きさだなんて」。このような驚きが呟かれます。呟かれるどころか,はっきり声となってドームに響くこともあります。

そんな感動体験の場をたっぷり提供したいと,わたしたちはずっと願っています。

さて,雲が空を覆い,青空がほとんど見えない日のこと。年配のご夫婦が来館され,わたしが望遠鏡で昼間の星についてガイドしたときでした。ご夫妻のことばがこの地方ではないなと感じていたら,「わたしたち,九州から来たんです」とおっしゃいました。びっくり! 事情をお聞きすると,「この科学館の所在を知って,是非訪ねてみたいと思ったんです」とのこと。「これは気を引き締めておもてなししないと。それに,曇り空なのでどれだけ充実感をいだいていただけるか,たいへんだぞ」と感じました。

曇り空のときにガイドをする手順として,まず望遠鏡のしくみを簡単に説明します。雨の心配がないので,とりあえず併設の太陽望遠鏡で太陽像が導入できるように設定して,ドーム屋根を開けました。そのときわずかに雲の隙間から薄日が射しました。

 

「今日は見えないだろう」と思っていたので,すこしでも像がみえればなあと祈るような気持ちで,接眼レンズを覗きました。すると,象がフィルターを通して薄赤く見えました。ご夫婦には,「ぼんやり見えます。この天気ではむずかしいかもしれません。今のうちにこんな感じだということをご覧ください」とお伝えしました。

交代でゆっくりご覧いただきました。「見えますねえ。これだけ見えたら上等です。来た甲斐がありました」「もうすこしはっきり見えればと思うのですが……。雲に代わって『ごめんなさい』という気持ちです」。会話は弾みました。

そんな話をしていたとき,急に望遠鏡の影が床にくっきりと映りました。雲の隙間から太陽が見えた瞬間,つまり雲が流れているうちに青空がわずかに見えたのです。もちろん,大急ぎでわたしは太陽像を確認。その後,見ていただきました。お二人は「黒点がはっきり見えますねえ。これはすごい! 地球と同じぐらいの大きさとはねえ」「プロミネンスもわかりますよ。新幹線で57年もかかる距離にあるんですか。感動的ですねえ」などと口にされ,その声がドーム内に心地よく響きました。

                                                    (つづく)