2019年11月8日の金曜日、一週間前には雨模様の天気予報が一転、前々日あたりから曇りマーク、そして晴れマークに変わり、当日は爽やかな秋晴れとなりました。近鉄大和八木駅に集合した私たち3人は予約しておいた近くのレンタカー屋さんまで歩いていきました。
手続きを済ませて車に乗り込んだ私たちが最初に向かったのが奈良県葛城市にある歴史博物館です。葛城の地理的な位置関係、どこにどんな遺跡があるかなど、まずは全体感の把握と基本情報の収集です。私はこの博物館には昨年も来たので展示内容はだいたい記憶に残っていました。
受付で料金200円を払って入館。事前学習で訪ねた東京の古代オリエント博物館の900円とはえらい違いです。葛城市の歴史を紹介する映像を見た後、足元に貼られた葛城一帯の航空写真を見ながら「今どこにいるのか」「これからどこへ行くのか」という会話でプチ盛り上がり。この会話でこの日に巡るルートや個々の踏査地の位置関係の全体イメージがインプットされました。
旧石器時代や縄文時代からの展示を順に見ていくのですが、岡田さんも佐々木さんも展示ケース内の資料は流していきます。そして岡田さんが食いついたのが露出展示されているふたつの円筒埴輪でした。特に鰭付円筒埴輪で盛り上がり、記憶があいまいですがこんな話をしました。「埴輪を並べるときに鰭の部分を重ね合わせたのか、重ねずに並べたのか、どっちやろう」「たぶん重ねたんでしょうね」「その方が隙間ができないからいいわ、多分そうやろ」。他愛もない会話ですが、見る人によって着眼点が違うということに改めて気づかされました。
話題になったふたつの円筒埴輪。左が楕円筒埴輪で右が鰭付円筒埴輪。
舟形埴輪。古代オリエント博物館の特別展にも同じような舟形埴輪が展示されていました。
博物館からほど近いところにある屋敷山古墳(5世紀中頃の前方後円墳)から出た長持形石棺。
複製とは書いていなかったので実物だと思います。
壁面の展示。
露出展示。
公立の歴史博物館で必ずと言っていいほど見られる昭和時代のお茶の間を再現した展示。
「これ、何の意味があるんやろう」と佐々木さん。私も同じような展示を見るたびにそう思います。
しかし、平成が終わって令和の時代に入り、昭和時代のお茶の間を知らない人が増えています。今は価値を感じない展示ですが、あと何十年かすれば歴史博物館の展示資料として意味あるものになるかも知れません。ただ、それまでは収蔵庫にしまっておいてほしいと思います。これを通史展示の最後に見せられると興ざめなんですよね。
隣の特別展示室では「葛城と磯長谷の終末期古墳 -竹内峠の西と東-」と題した特別展が開催されていました。この葛城地方は奈良盆地の南西部に位置しますが、その西には二上山、葛城山、金剛山と続く山地が連なっており、これらの山々を越えれば大阪府、いわゆる河内国に入ります。古代にこの河内と葛城を結んだ道路が日本最古の官道とされる竹内街道(現在の国道166号線)です。竹内峠を挟んだ西側、つまり河内側の山麓一帯は天皇陵4基(敏達天皇陵・用明天皇陵・推古天皇陵・孝徳天皇陵)や聖徳太子墓を含む約30基の古墳からなる磯長谷古墳群があり「王陵の谷」と呼ばれています。特別展はこの磯長谷古墳群と葛城との関係性にスポットを当てた展示構成になっていました。
この博物館は竹内街道にちなんだ特別展をよく開催しているように思います。昨年、学芸員の資格取得のために博物館教育論を勉強しているときに、まさにこの竹内街道沿いにある「大阪府立近つ飛鳥博物館」を取り上げて「博物館教育の実際 ~大阪府立近つ飛鳥博物館における中高生向け学習プログラムの模索~」および「私の考える博物館教育 -近つ飛鳥博物館における新しい学習プログラムによる地域再生への挑戦-」と題してのふたつのレポートを書きました。そこでは博物館の立地を活かして竹内街道を題材にした教育活動をひとつの例として提案しました。私が意図したことがもしかするとこの葛城市歴史博物館で実践されているのではないか、と思えてきました。
それともう一点、実はこの博物館の常設展示は正直言って物足りない。この葛城地域には重要な遺跡が豊富にあるのに、それらに関する資料がほとんど展示されていない。おそらくそれらは発掘調査を担当した橿原考古学研究所など格上の博物館が所蔵しているのでしょう。市町村単位で設立される公立博物館の限界を見せつけられた気がするのですが、あらためて葛城市のホームページを見ると「金剛・葛城地域博物館ネットワーク協議会」と称して、近隣自治体の博物館によるネットワークがあることがわかりました。加盟館は、香芝市二上山博物館、市立五條文化博物館、水平社博物館、大阪府立近つ飛鳥博物館、太子町立竹内街道歴史資料館、千早赤阪村立郷土資料館、河内長野市立ふるさと歴史学習館、河内長野市立滝畑ふるさと文化財の森センター、となっています。まさに竹内峠を挟んだ両側の公立博物館が連携する体制ができているのです。これは少しうれしい気持ちになりました。
1時間足らずの見学を終えて、受付で図録を買って出ました。次はたまたまネットで見つけた「條ウル神古墳企画展」が開催されている御所市役所前にあるアザレアホールへ向かいます。條ウル古墳はもともと行程に組み込んでいたので、この企画展を見つけたときは少し無理してでも行こうと思って行程に追加したのです。
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