『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY     第6章  クレタ  19

2013-01-25 06:50:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜を離れて小一時間の時が経っている。船は入り江の出口に差し掛かっていた。浜頭は沿岸の風景を確かめながら北へ向かって方向を転じた。
 操舵を担当しているのは、クリテスの兄のアクロテス、帆を担当しているのは弟のイデオスである。
 北方向へ進路を転じた船には北東からの風が吹きつけた。櫂で漕ぐ浜衆たちは浜頭の叱咤にこたえて懸命に船を漕いだ。船足は想像した以上に速く、波を割って北上した。北へ転進してから岬半島の端に至るまで12キロ余りである。次の西への転進で帆走する段取りで船は海上を進んだ。パリヌルスたちにとってのんびりした船旅ではなかった。
 『パリヌルス殿、岬のはずれで西方向に転進するのですが、その時、日暮れまでの時間的余裕を方角時板で計ってみたい。私のやり方を見てもらいたい。いかがですかな』
 『判りました。いいです』
 スダヌスは漁師の親分である。言葉使いは少々荒っぽいが、やることなすことに素朴な人間味があふれていた。彼が充分に信頼に足りうる人物であることを、この数時間のふれあいでパリヌルスは感じ取っていた。まさに、このクレタにおいての強い味方であることを確信した。我々が彼に託する数々の事案の成功確率が高いこが予想された。統領アヱネアスの人柄もあるが、デロス島でクリテスという得難い人物を得たことを心の内で喜んだ。
 『よしっ!これで行ける。行け行けドンドンだ』
 彼は、今、漁船としては大型の船の船上にいる。
 『まあ~、大船とはいかんが、中船くらいに乗った気分といったところか』
 パリヌルスの言葉にギアスはうなずいていた。二人は、そのような気分で、揺れる船上に座していた。