『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY     第6章  クレタ  22

2013-01-30 08:35:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 事の大事は一人ではならない。信頼で結ばれた者たちの連携こそ大事を成し遂げる。建国の大事は、これがあってこそ成すことができる。アヱネアスは己の信念を確認した。
 二人の話し合いは終わりに近づいていた。イリオネスは、先に居住していたトラキアに比べクレタの気候は温暖で過ごしやすいと感じていた。彼はアヱネアスに計り、この地で冬を過ごし、春を迎えることにしようとしていることを話した。
 アヱネアスは、一応、父アンキセスの意見を受け入れて、この地が建国の地であろうかと、いぶかる懸念が心中にあった。
 『イリオネス、お前はどう思っているかは知らんが、本当にこの地が建国の地なのか。まあ~、いいか。いずれ時間経過の中で判ることだ』
 そのように言って、込み入った話し合いに終止符を打った。
 アヱネアスは、真剣に考えていた。彼が耳にしていた『へスペリア』とは、それは地名なのか、何なのかを確かめる必要があり、また、自分自身の出自を質してみる必要を感じていた。

 その頃、パリヌルスたち一行を乗せた船はアクロテイリ岬半島の西の端を南へ転じる地点に差し掛かっていた。
 浜頭は海原の西に沈みゆく太陽に向かい、身を船の揺れに任せて頭を垂れて独り言ちている姿が船上にあった。パリヌルスは、海に生きる男の敬虔なるその姿に心がうたれた。
 船は、この航海の最終航程である南への転進を終えた。彼は、船が確実に南へ向かっているかを懐中から例の鉄棒をっとりだして、目の高さにぶら下げた。鉄の棒は棒自身の意志で南北を指し示した。浜頭は、棒の先方向に船の舳があることを確かめた。彼は安堵の表情を隠そうとはしなかった。