「メルビンとハワード」(Melvin and Howard)(1980年、米、95分)
監督ジョナサン・デミ
ポール・ル・マット、ジェイソン・ロバーズ、メアリー・スティーンバージェン
ラスベガス近郊、道路近くの砂漠でバイクを飛ばして遊んでいた初老の男が運転をあやまり転倒し動けなくなる。夜になって用足しに道をそれたトラックの若い男メルビンがそれを見つけ乗せてやる。
男はハワード・ヒューズと名乗るが、メルビンは本物とは思わない。だが話していくうちにメルビンは歌いだし、ハワードは歌は嫌いだといいながらついに「バイ・バイ・ブラックバード」を歌い始める。このところハワードを演じるジェイソン・ロバーズがなんともいい。そしてメルビン自作のクリスマス・ソングも歌ってくれる。
街でおろしてからはこの二人、二度と会うことはない。富豪ヒューズからいずれ何かあるのだろうと見る方は思うが、映画ではメルビンが妻・娘とくっついたり離れたり、また仕事であれこれうまくいかなかったりというプロセスが終幕前まで続く。このあたりのんびりしているのだが、妻を演じるメアリー・スティンバージェンがうまいから、なんとか持っている。彼女はこれでオスカー助演女優賞を獲得した。
とはいっても、この間にアメリカののんびりしたかなりいいかげんな世相、それを反映したメルビンの人柄のいいところ、これらが次第にこちらにも利いて来る。
このあたりのゆっくり加減が、日本で未公開、それにビデオでも未発売ということの理由かもしれないが。
二人のうまい脇を得たとはいうものの、やはりこの映画はル・マットのキャラクターならではである。人の良さと人生の苦さが最後にうまく絡みあう。
ハワード・ヒューズの遺言状の真贋裁判という実際にあったことが背景になっているそうだ。
実はこの映画、WOWOWで録画して見ようと思ったきっかけは、日経土曜版で映画評論家芝山幹郎が「今週の一本」で取り上げられたとき、このポール・ル・マットは「アメリカン・グラフィティ」(1973年、ジョージ・ルーカス)であの白Tシャツの腕を捲り上げそこにタバコのパッケージを挟んでいたジョン・ミルナー役の俳優という紹介、それが決定的であった。なおこのコラムはいつもなかなかいい選択をしてくれる。
「アメリカン・グラフィティ」に出演した俳優はその後いろいろ出世もしたが、この人はどうなったのか気になっていたのである。他の人たちは、リチャード・ドレイファスはその後順調(すぎた?)、ロニー・ハワードは大監督ロン・ハワードになった。ジョン・ミルナーのホット・ロッドとスピード競争をして敗れるカーボーイ・ハット流しの走り屋という端役でかろうじてクレジットされていたのがハリソン・フォードである。
ジェイソン・ロバーズ(1922-2000)はこういうただものではない役をさりげなく演じたらぴたりである。他にたとえば「ジュリア」(1977年、フレッド・ジンネマン)でちょっと跳ね上がりの作家リリアン・ヘルマン(ジェーン・フォンダ)のパートナーで作家のダシール・ハメット。
ちょっとしたことだが、後半メルビンがやっているガソリン・スタンドにヒューズの遺言状を届けに男が来る、まずはタバコを買うというのでメルビンは今はフィルター付きなんかが多いけどやはりこれだよとか言って1ドルで売る。ビデオだと銘柄まではわからないが、メルビンが他の客の相手をしている間に男は机に遺言状を置いて立ち去る。タバコは店に入る口実だったらし去る車の窓から箱を外へ投げるとカメラはそれをアップ、銘柄はキャメルであった。
「アメリカン・グラフィティ」でポール・ル・マットがTシャツの袖にいれていたのはまさしくこのキャメルである。誰のアイデアか知らないが、メルビンはジョン・ミルナーのその後だという半分ジョークのメッセージだろう。