「開かせていただき光栄です - DILATED TO MEET YOU - 」 皆川博子 著
(早川書房 2011)
たいへん多くの要素を18世紀ロンドンに詰め込んだ、壮大な物語である。といっても、これは解剖教室の運営者とその弟子たち、その周辺、そして田舎から出てきた詩に天分を持つ少年、彼らの世界であり、その中で事件は起こり、謎解きミステリは始まる。
人体の解剖シーンが最初は多いから、不気味に思えるが、そこは笑いの場面などをうまくさしはさみ、次第に抵抗なく読み進められるようになる。
主人公と思われる人物が少しずつ入れ替わっていって、盲目の判事が登場してからは、この人が謎を解いていくが、魅力的なキャラクターである。
特に後半は、一頁一頁が読みごたえがある。一つ一つの駒が重要な役割をしているから、あまり頭に入っていなかったことが後から意味を持ってきたりして、立ち止まって思い出すのに時間がかかることもあるが、それは読む方の御愛嬌というものだろうか。
このまま行ってしまうと、、、と思っていても、作者はさらに上を用意していて、読後の味わいに悪いものはない。このあたりが「ネタバレ」防止上は限界?
副題の英語「DILATED TO MEET YOU 」は、DELIGHTED TO MEET YOU つまり「お目にかかれて光栄です」の言い換えで、教室で登場人物たちが解剖する前にこう挨拶することにしている、と本文中にある。これが小説の題名になっているというわけだ。
なお、18世紀のロンドンでは、内科医にくらべ外科医の地位は低く、解剖の重要性を認識させることに当事者たちは苦労したと書かれている。外科手術は理髪師がやることもあったそうだが、そういえばこのあと19世紀の話だけれども、有名なミュージカルでジョニー・デップ主演の映画にもなった「スウィーニー・トッド」の主人公も理髪師だった。