ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指輪」序夜「ラインの黄金」
指揮:ジェームズ・レヴァイン、演出(production):ロベール・ルパージュ
ブリン・ターフェル(ウォータン)、ステファニー・ブライス(フリッカ)、エリック・オーウェンス(アルベリッヒ)、リチャード・クロフト(ローゲ)、ゲルハルト・ジーゲル(ミーメ)、ウェンディ・ブリン・ハーマー(フライア)
2010年10月9日 ニューヨーク メトロポリタン歌劇場
2011年10月WOWOWの放送
指輪四部作のうち、ワルキューレは確か実演で一回、ビデオでも何回か見ているが、この「ラインの黄金」は、それほど見ていない。もっとも録音だけなら何度も聴いているから、追っていくのにそれほど苦労はない。
それでもこうして良い画質で見ると、この作品はワーグナーの世界観、人間観を明確に語っているものだということが、如実にわかる。
それは、歌手たちのたっぷりした声量と明解な歌唱、そして指揮者レヴァインの練達によるところも大きいが、今回は何といっても演出のルパージュだ。
ルパージュの演出は先の「夜鳴きうぐいす」(ストラヴィンスキー)で驚かされ、彼は「シルク・ド・ソレイユ」などで大変評判な人ということも初めて知ったのだが、これは演劇に詳しくない私としてはしょうがない。
クレジットでルパージュはディレクションではなくプロダクションとなっている。オペラで一般にどういうのかは知らないが、舞台の装置、照明など、全体のコンセプトが斬新で、これはプロダクションというにふさわしい。
とはいえ、シンプルといえばシンプルで、あまり具象的な装置、衣裳よりは、少なくともワーグナーの場合、こうした抽象的な、観る者に受容を委ねるやり方の方が、私は好きである。
特に、舞台の床が傾き、またその下で小さい球状の石が動き、またそれが照明でさまざまな効果をあげているところ、ラインの乙女たちの動き、巨人たち、地底の労働者など、床の高低とその見かけをうまく利用するところは「夜鳴きうぐいす」とも共通する。
宙吊りも使うから、歌手によっては大変だが、メトロポリタンだからか、彼らも楽しそうにこなしているようだ。
そして最後の「ワルハラ城」への入場で、またあっといわせる。
歌手ではなんといってもブリン・ターフェルが注目のまとで、最初はちょっと力強すぎるかなとも感じたが、「ラインの黄金」ならまだ若々しいウォータンでもいいだろう。
アルベリッヒのエリック・オーウェンス、四部作の後の方を考えれば、なかなかへこたれそうにない悪役ぶりはぴったり、リチャード・クロフトのローゲはもう少しクレバーさがほしい。
フリッカなどを含めてみかけは全体にちょっと太りすぎではないかと、思う。いくらワーグナーでも。
レヴァインの指揮によるオーケストラは見事なものだが、このあとの不吉な結果を予感させる一部のライトモチーフの音色には、もう少し暗さがほしかった。
一番の心配はカーテンコールに出てきたレヴァインの状態で、まともに歩けるのだろうか。以前からそういう情報はあって、やはり肥満が原因か。2011年には第一夜「ワルキューレ」を振っているからそれはいいとして、あと二つ無事に指揮してほしいものである。