ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」(「ニーベルングの指輪」第一夜)
指揮:ダニエル・バレンボイム、演出:ギー・カシアス
サイモン・オニール(ジークムント)、ワルトラウト・マイアー(ジークリンデ)、ヴィタリー・コワリョフ(ウォータン)、エカテリーナ・グバノヴァ(フリッカ)、ニナ・シュテンメ(ブリュンヒルデ)、ジョン・トムリンソン(フンディング)
2010年12月7日 ミラノ・スカラ座 2011年12月NHK BS-Pre
「ラインの黄金」に続く「ワルキューレ」、演出は同じギー・カシアスだが、今回は光の動きが少し多すぎて音楽を聴いているものとして集中しにくいところがあるのを別とすれば、今回はシンプルである。
ウォータンとフリッカは歌手が変わっている。特にウォータンはどうなのかと思ったが、前作とこれでは悩みの性格がちがうからこれでもいいのかもしれない。
ジークリンデのワルトラウト・マイアー、イゾルデもやる名歌手だがジークリンデはもう少し声が軽くてリリックな人?と思って聴いていると納得させらてしまった。ブリュンヒルデの変心と同じように。
ジークムントはあのノートゥングを持たなくても、フンディングをおそれなくてもいいのでは、という体格、風貌。
ブリュンヒルデのニナ・シュテンメ、最初はちょっと声がかたいかなと思ったが、ジークムント、ジークリンデ、そしてウォータンを相手に、見事な歌唱だった。それにしてもブリュンヒルデという役、こんなにしんどい役は一生に何度歌えるだろうか。
このワルキューレはワーグナーの作品としても、そして他のオペラをいれても、トップに近い回数聴いていて、本当に好きである。今回こうして聴いていても、最初のメロドラマから最後の父と娘の別れの音楽にいたるまで、どこをとってもつまらないところがない。
これは、登場人物が少なくて、誰かが誰かの心を変えていくという流れだからで、そうなるとオーケストラの役割は大きく、しかもライトモチーフが次から次へと出てきて、浸りきることができる。
そういうところでバレンボイムが指揮するスカラのオーケストラは、稠密な音でよく歌い、こちらの心臓をわしづかみにしてしまう。
最後、ウォータンがローゲを呼び(そう名前を呼ばれるだけで姿は見せない)、眠るブリュンヒルデの周りに火を放ち、別れを告げるのだが、ここで話は終わりとなったのち、もう少し音楽が続くところは、父の娘に対するやさしさ、というよりワーグナーが思わず見せてしまったやさしさだろうか。