ゴーリキー: 二十六人の男と一人の女 ゴーリキー傑作選
中村雅史 訳 光文社古典新訳文庫
表題の作品、「グービン」、「チェルカッシ」、「女」四編の中編からなっている。
ゴーリキー(1868-1936)はチェーホフ(1860-1904)の少し後の世代、若いころから「どん底」という戯曲があることは知っていたが、それをやる劇団などの印象から労働運動、社会主義のイメージが強く、敬遠していた。このところプーシキンから何人かの作品を読んできて、さてゴーリキーはどんなものかとこの作品集を読んでみた。
ロシアの下層の人たちを描いているが、あまり主義、主張が勝ったものではなく、描き方がなかなかうまく、また文章も先達の作家たちと比べてもうまい。
この中ではまず表題の作品、半地下でパン作りをしている男たちの集団と、その上の階でお針子たちの職場で手伝いをしている娘、この娘がいわばアイドルなのだが、進行と結末にいくつかひねりがあって、いい後味を残す。半地下といえばよく知られた韓国映画を思い出すけれどなにか発想を刺激するイメージがあるのだろう。
もっひとつあげると「チェルカッシ」、オデッサがモデルらしいが、ここで密輸を相手に盗みをしているアウトローが田舎から出てきたばかりの若者をちょっとした報酬で釣り一仕事のスリルある冒険、その間のやりとり、あっと言わせてさらに、というラスト。今のハードボイルドに通じるなかなかの作品で、文章もリズムがあって楽しめ、映画にしてもいいか。
この中の何編かそしてこのところ読んだ別の作家たちの作品には、コサックがよく出てくる。この名前、若いころは音楽、ダンスなどのイメージがあり、その民族かなにかとおもっていたが、それにしてはロシア文学の主流のなかによく出てくるな、と思っていた。
本書の注によると、農奴制や重税を嫌ってロシア南方や南東辺境域に逃亡した人々が形成した武装自治集団で、帝国の直接支配を免れ農民反乱やプガチョフの乱などにかかわり国境警備に当たっていたそうだ。屯田兵みたいなものだろうか。革命後に解体されたというが、最近のロシア・ウクライナ戦争でもその場所がらかよく名前が出てくる。なにか地域、民族の本質につながるものがあるのだろう。
ゴーリキーには他にいくつも大作があるがどさてどうするか。
中村雅史 訳 光文社古典新訳文庫
表題の作品、「グービン」、「チェルカッシ」、「女」四編の中編からなっている。
ゴーリキー(1868-1936)はチェーホフ(1860-1904)の少し後の世代、若いころから「どん底」という戯曲があることは知っていたが、それをやる劇団などの印象から労働運動、社会主義のイメージが強く、敬遠していた。このところプーシキンから何人かの作品を読んできて、さてゴーリキーはどんなものかとこの作品集を読んでみた。
ロシアの下層の人たちを描いているが、あまり主義、主張が勝ったものではなく、描き方がなかなかうまく、また文章も先達の作家たちと比べてもうまい。
この中ではまず表題の作品、半地下でパン作りをしている男たちの集団と、その上の階でお針子たちの職場で手伝いをしている娘、この娘がいわばアイドルなのだが、進行と結末にいくつかひねりがあって、いい後味を残す。半地下といえばよく知られた韓国映画を思い出すけれどなにか発想を刺激するイメージがあるのだろう。
もっひとつあげると「チェルカッシ」、オデッサがモデルらしいが、ここで密輸を相手に盗みをしているアウトローが田舎から出てきたばかりの若者をちょっとした報酬で釣り一仕事のスリルある冒険、その間のやりとり、あっと言わせてさらに、というラスト。今のハードボイルドに通じるなかなかの作品で、文章もリズムがあって楽しめ、映画にしてもいいか。
この中の何編かそしてこのところ読んだ別の作家たちの作品には、コサックがよく出てくる。この名前、若いころは音楽、ダンスなどのイメージがあり、その民族かなにかとおもっていたが、それにしてはロシア文学の主流のなかによく出てくるな、と思っていた。
本書の注によると、農奴制や重税を嫌ってロシア南方や南東辺境域に逃亡した人々が形成した武装自治集団で、帝国の直接支配を免れ農民反乱やプガチョフの乱などにかかわり国境警備に当たっていたそうだ。屯田兵みたいなものだろうか。革命後に解体されたというが、最近のロシア・ウクライナ戦争でもその場所がらかよく名前が出てくる。なにか地域、民族の本質につながるものがあるのだろう。
ゴーリキーには他にいくつも大作があるがどさてどうするか。