メドレー日記 Ⅱ

by 笠羽晴夫 映画、音楽、美術、本などの個人メドレーです

異邦人 (カミュ)

2010-05-07 16:21:08 | 本と雑誌
「異邦人」(アルベール・カミュ)(窪田啓作 訳 新潮文庫)
アルベール・カミュ(1913-1960)が1942年に発表した。新潮文庫では1954年初版、昨年で122刷だから、息が長い作品で、いずれ「古典」あつかいとなるだろう。
 
おそらく最初に読んだのは高校生のとき、それから1回か2回読んでいるはずである。したがって今回は3回目か4回目ということになる。あまり繰り返し読まないたちだから、これはめずらしい。
 
1回目の後に「シーシュポスの神話」を読んだ、というより途中まで食いついて扱われている題材が難しくあきらめた、という感じだが、それでも作者のいいたいところはかなり正確に把握したと思う。
 
だから「異邦人」もその後は、母の死、海水浴、女、殺人、太陽のせい、裁判、死刑というキャッチフレーズが紹介される「不条理」を描いた小説、というイメージよりは、人間が地に足をつけ、実感と具体をもとにした行動、言葉だけで攻めてくる観念にとらわれない、といった形、スタイルが、北アフリカの地で緻密に書かれている、とあらためて読み取った。
 
その一方で、カミュの置かれた政治的な立場を考えれば、当時あのように左から批判されたこともよくわかろうというものである。
たとえばもしこういう人間、こういう著述がスターリン体制のなかに出てきたら、大変あつかいにくい、邪魔なものとして見られたことだろう。そう、ここに書かれているのは、自分の外の権威にもとづく観念にとらわれていない、きわめて強い人間なのである。
 
四十数年間、とびとびに読んでいても、いくつかの細かい描写は記憶にある。たとえば最後のところの、
「、、、私ははじめて、世界の優しい無関心に、心をひらいた」
ここは前から好きである。
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