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山コンビ大好き。

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きらり

山 短編5(前編)

2013-11-15 17:24:51 | 短編


生徒会の仕事と言うのはメインの仕事よりも
つくづく雑用が多い、と思う。




春から2年生となり、昨年に引き続き生徒会の役員になった。
しかも生徒会長。


別に志願したわけではなく
初年度は首席で入学したからその流れで何となくという感じで
そして今年度は、先生に泣きつかれて仕方なくという感じだった。


それ以外にも学生の本分である勉強、そして恋愛、クラブと
忙しいながらも充実した日々を送っていた。
そんなこんなで学校生活は入学した当初から忙しく、
与えられた仕事をこなすのと自分の事で精一杯だった。


だからずっとその人の存在に気づかなかった。







ある日。
生徒会の仕事で放課後残っていたら
体育倉庫に用事があった事を思い出す。
慌てて体育館へ向かうとその入り口には見たことのある人影があった。


「……にの?」

「あ、翔さん」


同じクラスのニノがじっと体育館の中を見つめていたので
思わず声をかける。
ニノはびっくりしながらもこちらを振り返り笑顔を見せた。


「何してたの?」

「え? ああ、見てたんですよ」


何をそんなに真剣に見ていたのかと不思議に思いそう聞くと
ニノは指で差し示し教えてくれた。
その先を見ると体操部がマット練習をしているところが見えた。


「体操部に興味があるの?」

「違います」


ニノが体操に興味があるなんて意外だと思いつつ
そう聞くとニノはすぐに違うと即答した。
じゃあなんで? と思っていたら一人の男の人を指差した。


「あの人、体操部の人じゃないけど
めちゃめちゃ動きが綺麗なんですよ」

「……へえ」


言われてみるとその人だけ制服を着たままの格好だった。


“あんな格好で、できるのかな?”


そう思った瞬間。
その人が走った。
そして手をついたかと思ったら2回ぐるりと回転した。
そして今度はそのまま反対向きから手をついて2回、回転。
そしてそのまま今度は手をつかないで回転したのだ。


「……すげぇ」

「翔さんは出来る?」


あまりの出来事に息をのんで見守っていたら
ニノが出来る?って無邪気な顔で聞いてくる。
だから思いっきり首を振った。
あんな神業、とてもじゃないけどできない。
大きな声では言えないけど側転だってあやしい。


「まぁ、体操部じゃなくても出来る人は出来るんですけどね。
俺もできるし」

そんな事を思っていたら、ニノはそう言って笑った。


「でもあの人のは手や足の先まで神経が行き届いていて
凄く綺麗なんですよ」


そう言われて見てみると体操の事はよく分からないが
他の人たちがやっているのと比べて動きが確かに美しい。
他の人達も確かに体操部なだけあって
手先足先まで神経を配られていて綺麗なんだけど
何かが違うように思えた。


「あの人ってさ、全体的な動きはもちろん綺麗なんだけど
手が凄く綺麗なの」

「……?」

「俺さ、手にコンプレックスがあってさ人並み以上に
人の手って見るんだよね」

「……うん?」


何だかそのまま目が離せなくなり体操部の練習の
見ていたらニノがなぜか手の話をしてきた。


「で、あの人の手って凄く綺麗なの。指も細くて長くてまっすぐで。
で、手先の動きまでもが美しいから余計に綺麗に見えるんだよね」

「……」


ニノが突然そんな事を話してくるから何も言えず
その話に耳を傾ける。


「俺さ、学校の帰りにさ、定期を出そうと思いながら何気なく
前の人の手を見たんだよ。
そしたらその手がやたら綺麗でさ」

「……?」

「で、てっきり女の人の手だと思ってたらあの人の手だったんだ」


なぜニノは突然自分に手の話をしてくるのだろうと思いながら
その顔を眺めた。


「で、それから一気にあの人に興味がわいてさ
色々調べたら結構何でもできる人で絵とかでも何度も入選していたり
体操部じゃないのにこうやって顧問から呼び出されて
披露したりしているのを知ったんだ」

「……へぇ」


ニノの事は中学の時から知っていたけど
こんなに他人に興味を持つなんて珍しいなと思った。


「しかもさ、これがまた可愛い顔してるんだよ」

「……?」


なぜかニノは突然照れたような顔になるとそう言った。
そう言われるまでその人の綺麗な動きに夢中になり
顔を全然見ていなかったことに気が付く。
そして改めてその顔をじっくり見てみるとニノの言った通り
とても可愛らしい顔をしていた。


“あんな可愛らしい顔であんなアクロバティックな事を”


一気に興味がわいた。


「ダメだよ、翔さん。俺が見つけたんだから」

「へ?」

「イヤ、何かただならぬ気配を感じたもので」

「いやいやいや」


ニノには一応そう言ったが
興味が抑えきれないのを自分自身で感じていた。










その日からその人に対する徹底的なリサーチを始める。


その人はニノの言ってた通り何でもできた。
でも決して目立つタイプではなかった。
いや、自ら目立とうとしないタイプと言った方が
正しいかもしれない。


“珍しいタイプだな”


あれだけ何でもできたら普通だったら
自慢したり目立とうとしたりとするだろう。
でも智にはそれがなかった。
その事で余計興味がそそられる。
なんとかその人と接点を持ちたかったがニノがそれは難しいと言っていた。


そしてその意味はすぐに判明する。
なぜならいつも隣にしっかりとした顔立ちのイケメンの男と
人のよさそうな、さわやかボーイが寄り添うようにいたからだ。


またいつもの徹底的リサーチで二人の事を調べ上げる。
二人はそれぞれ松潤、相葉ちゃんと言われる人たちで
中学から智と一緒だったらしい。


智はその可愛らしい顔立ちのせいか
なぜか痴漢に遭遇したりと色々あったようで
それでいつも一緒にいて守っているという事だった。
確かにとても可愛らしい顔立ちをしていたので
それもわかるような気がした。


そしてその頃彼女とも別れた。
自分の中での智に対する興味が彼女に対するそれよりも
圧倒的に大きくなっていたのだ。


その事を彼女に気付かれ詰め寄られ結局別れた。
もともと押し切られるような形で付き合っていたので
不思議なくらいダメージがなかった。
それよりも智とどうしたら近づけるんだろうと
その事で頭の中が一杯だった。









ある日。
この日も生徒会の仕事で放課後残っていた。
広報に載せる文面を考えていたのだがどうにもアイディアが浮かばず
煮詰まってしまい部屋の外にでた。
ふと、廊下の先を見ると見たことがある人影を見つける。


“あれは智?”


珍しく今日は一人のようだ。
思わず駆け出し傍に寄ると声をかける。
近くで見る智の顔はとても幼くそして
とても可愛らしい顔をしていた。


突然話したこともない相手から話しかけられたせいか
智は怪訝そうな顔をする。


「いたいた、おおちゃーん。松潤も待ってるから帰ろ帰ろ」


話をしようとした瞬間、いつも一緒にいる
相葉ちゃんと呼ばれている人が駆け寄ってきて智の手を引く。
智はこちらの事を気にしてくれているような感じだったが
そのまま引っ張られるように行ってしまった。
その姿を呆然と見送る。


「だから言ったでしょ? 難しいって」


呆然と立ち尽くしていたら後ろからそう
ニノが意味深に笑いながら言ってきた。


「ニノ、いつからそこに?」

「えーと翔さんが生徒会室から出た直後からですかね?
で、あの人に話しかけてどうしようとしていたんですか?」

「……」

「まぁ、いいですけど ね」


そう言ってニノはやっぱり意味深に笑いかけると
そのまま行ってしまった。
その姿をやっぱり呆然としたまま見送った。
そしてその姿を見つめながらこれまで以上に
あの人と何とか話がしたい、と強く思った。


この気持ちは一体なんだろう?
自分でも不思議な感覚。


でも願っても願ってもなかなかその願いは実現しなかった。