「……え?」
智の言った意味が理解できず呆然とその顔を見つめる。
「俺は翔くんの事、中三の時から知ってた」
「中三?」
「そう。ここの学校説明会で翔くんは一番前の席で熱心にメモとってた」
「……学校説明会」
そう言えばそんな事もあったっけ? と記憶を手繰り寄せる。
あの時はこの学校の事や受験勉強の事しか考えてなくて
周りを全く見ていなかった。
でも智は見ていてくれたのか。
「で、次に翔くんを見たのは入学式。
翔くんは、新入生代表で何か読んでた」
確かに入学式の日、新入生代表としてステージに上がった。
その時は不安と緊張で全く余裕がなくほとんどその時の事は
憶えていない。
「俺、本当はここ無理って言われてたんだ。
だけど説明会で翔くんを見かけて一緒の学校に通いたくって
死ぬ物狂いで勉強したんだ。
だから翔くんを入学式の日に見つけた時凄く嬉しかった」
そんな前から自分のことを思っていてくれた事にびっくりする。
「でも翔くんは毎日凄く忙しそうで、
同じ学校に通ってても何だか違う世界の人みたいだった。
だからホント毎日見ているだけだったんだ」
「……そうだったんだ」
全然知らなかった。
「そう。だから翔くんの方から声かけてくれた時凄く嬉しかったんだよね。
あまりにもびっくりして変な顔になっちゃったけど」
確かに智に話しかけた時、怪訝な顔をされた。
だからこんな風に思っていてくれていたなんて思いもしなかった。
でも自分も同じようなものだ。
智の存在を知ったのは智よりも随分後だったかも知れないけど
智のその才能を知るたびに自分とは別世界の人だと思っていた。
「ふふっ」
「……?」
お互い同じように相手を思い考えていたことに思わず笑ってしまう。
智は意味が分からないって顔で不思議そうな顔をして見つめてくる。
「いや俺も智くんの事、別世界の人だと思ってたから」
「……え?」
「だってさ絵とかの芸術的才能凄いじゃん。
そう言えばあの描いてもらった挿絵も凄く好評で
先生方からも大絶賛されていたんだよ?」
「そうなの?」
「うん、かなりね」
そう説明すると智は意外そうな表情を見せる。
「それに字も上手いし、器械体操も凄いし。
ダンスの技術も高くてしかもあらゆるジャンルのダンスを
こなせるからってダンス部から
一緒に踊って欲しいと頼まれたりもしているんでしょ?」
「まぁね」
「しかも歌も上手だって聞いているよ」
「んふふっ。よく俺の事知ってるね?」
「ふふっ」
それはもう徹底的にリサーチしましたから、とはいえず曖昧に微笑むと
智はびっくりした表情を浮かべながらも照れくさそうに笑った。
そしてお互いに目が合うとまた笑い合った。
「……でも」
「ん?」
智は少し考えるような表情になると、でも、と言った。
「でも、翔くんの気持ちがいまいち分かんなくて」
「俺の気持ち?」
「そう。俺が生徒会室に遊びに行くと喜んでくれるけど
でもそれがどういう気持ちからなのかがわかんなくて ね」
「うん?」
「だから、寝たふりしてみた」
そう言うと智は可愛らしい顔で笑った。
「えぇ? 寝たふりだったの?」
「そう。上手だった?」
「うん。って、えぇ?」
じゃあずっと智は何をされているのか知っていたのか。
自分の行動を思い返し恥ずかしくなって
思わず顔が真っ赤になったのが分かった。
「……ね?」
「うん?」
「翔くんは俺の事好き?」
智はまっすぐな視線を向けるとそう聞いてきた。
「……うん。好きだ」
「よかった。俺も」
好きだと答えると智も自分もだと言った。
そしてお互い見つめ合うととにっと笑った。
「ね、翔さん。あの人とうまくいってるんだって?」
「え? イヤ、まあ」
廊下を歩いているとニノがそう言って声をかけてきた。
ニノにくぎをさされていた手前曖昧に答える。
「ちぇっ、俺が先に見つけたのになぁ」
「ごめん」
思わず謝る。
「まぁ、この借りはきっちり返してもらいますけどね」
「ホント申し訳ない」
そう言って謝るとニノはそう言ってにやりと笑う。
「まぁ、いいいんですけどね」
「……?」
「あの人がずっと翔さんの事見てたのは知ってましたから」
「え? そうなの?」
「はい。翔さんはまーーったく気づいていませんでしたけど」
「……」
自分だけが気づいていなかっただけだったのか。
「だから、あの人のために教えてあげたんです」
「……」
もしかして自分は鈍感なのだろうか?
「翔さんって意外と鈍感ですよね」
「……」
そんな事を思っていたらニノがそのものずばりで言ってきた。
「でもまぁ、こんなにうまくいくとは思いませんでしたけど ね」
「……ニノはよかったの?」
「俺は前に振られているんです。好きな人がいるって」
「それって」
「そう、翔さんの事ですよ」
「……全然知らなかった」
「ホント鈍感ですよね」
「……」
……また鈍感だと言われた。
「翔さんって自分にないものを持っている人に惹かれる人でしょ?」
「……え?」
「智と翔さんはお互い持っているものが全然違うから
絶対惹かれあうじゃないかと思ってたんですよね」
「……」
「ただ、あなたがこんなにも鈍感だとは思いませんでした」
「鈍感、鈍感って」
ニノは遠慮なくそう言ってくる。
「だってそうでしょ?」
「まぁ、そうかも知れないけどさ」
「ふふ」
「でもにの、ありがとう」
「いえいえ。俺は智が好きだから
智に幸せになってもらいたかっただけです。
それに、あまりにも鈍感で気づかれない智が可愛そうだった
というのもあります」
「また、鈍感って」
「でもそうでしょ?」
「まぁ、そうだけどさぁ」
「でも」
「……?」
「でもこの借りはきっちりと返してもらいますからね」
ニノはそう言ってにっこりと笑うとじゃあと行ってしまった。
今日も智は生徒会室にやってくる。
智は相変わらずお絵かきソフトで絵を描いたり勉強したり
自由に過ごしている。
思わずパソコンに向かっている智の顔が可愛くて
ちゅっと吸い寄せられるようにその唇に軽くキスをする。
智はびっくりしてパソコン画面から目を離す。
「翔くんがこんなキス魔だったなんて知らなかったなぁ」
そう言って可愛らしい顔で照れくさそうに笑う。
「ふふっ。俺も知らなかった」
「んふふっ。変なの」
智の顔を見ているとその唇に触れたくなる。
その唇にちゅっとキスしたくなる。
いつまでもクスクス笑っている智が可愛くて
またちゅっとキスをした。
「また~」
「ふふっ。いいでしょ?」
「いいけど さ」
智はそう言ってまた照れくさそうに笑う。
「……智くん、ずっと気づかないでごめんね」
その言葉に智は、ん?って顔をして見つめる。
その顔がやっぱり可愛くてまたその唇にチュッとする。
「また~」
「ふふっ。だって」
「だって、何?」
智はクスクス笑いながらそう聞いてくる。
「だって、したくなっちゃうんだもん」
そう言ってまたその可愛らしい唇にちゅっとキスをした。